34:いざダンジョンへ

そして、ダンジョン攻略の日を迎える。




ホテルから少し離れた所に地下への階段があり、そこをどんどん降りていく。


全体的に湿っていて、気を付けていないと足をすべらしそうになる。


階段をすべて降り、ドアを開けると広い空間があり、目の前には大きな神殿があった。


ところどころ古びていて崩れていたりするが、その神々しい見た目は顕在だった。


上からは、たまに水滴が落ちてきて、それが海水だったりする。


間違いなく海の底であることを実感する。




海底神殿の前には集められた冒険者が並んでいて、その前にダンジョン攻略の責任者らしき人物がいる。格好からしてカンパニーの人間のようだった。


その人が、俺たちが参列するのを確認すると、大声で話しを始める。




「ゴーガンカンパニーの合同ダンジョン攻略に参加いただき、ありがとうございます。


今回の目的としましては、海底神殿深部の調査とモンスターの討伐です。


皆さまは実績のある冒険者ですので危険は覚悟されていると思いますが、何かあっては観光地としての価値を下げてしまいます。早期解決を望んではいますが、くれぐれも無理はないようにお願い致します」




なるほど、いくら貴重な海底神殿とはいえ、死者が出た所には行きにくいもんな。


大手カンパニーならではの大盤振る舞いかと思っていたが、ちゃんと商売としての理由もあった。当然といえば当然であるが。




簡単に手順を説明された後、全員に同じ腕時計が配られる。


規定の時間が来るとアラームが鳴り、一旦引き上げるルールである。


暗闇でも光って見えて、ライトもついている。ほぼ魔具であった。




「私たちはFルート、地図通りなら外壁に沿って進む感じだね」




フレンさんが地図を見ながら、これから入るダンジョンをイメージする。




「まぁでも、ダンジョンの地図って当てにならないんだよね。方向感覚ってすぐにわからなくなるし、場所によっては変化するし」




とミーヤさんが続く。




「うん、だからあくまで参考ってことで、入ったら私が更新し続けようと思うんだけど、いいかな?」




「そうですね。フレンさんは戦闘要員ではないですし、そっちに集中してもらえた方がいいと思います」




「わかった。でも気づいたことがあったら言ってね。私も可能な限り戦闘のバックアップもするから」




初見はお互い印象が良くなかったはずなのに、今は俺を置いてどんどん話を進めていく。


公私をしっかり分けている。プロっぽい。


俺とウパはそれをなんとなく聞きながら終わるのを待った。




「あとは明かりだけど…」




「それはハリネの魔法があるから、今持っているのは予備と考えて大丈夫」




ミーヤさんが急に俺の方を向く。




「すごい!」




「ん?」




「明かりってダンジョン攻略では頭を痛めるところなのに、それを存在だけで解決するなんて、さすがハリネさん」




「そ、それほどでも」




場の雰囲気が緩む。


ニコニコ顔のミーヤさん。無表情なゴルデさん。何か言いたげなフレンさんとウパ。


なんか、やりにくいなー。




打合せを済ませ、俺らの班もついに海底神殿の深部へと足を踏み入れる。


観光地として手入れがまだされていないので、廃墟の不気味さが増す。


足音がどこまでの響き、その広さを知らしめる。


ただ、ダンジョン攻略だとはいえ、人工建築物の中なのでまだモンスターが出てくるという実感が出てこない。




定期的に休憩を入れながら進み、地図の確認をする。




「うん、少なくとも第1層の外周はこれでなんとなくわかったかな」




5度目の休憩で、フレンさんが地図を片手に言った。




「Bルートの地図と合わせれば完璧ですね」




ミーヤさんもそれに同意する。




「そろそろ引き上げる時間だし、最後はー…」




俺らの目の前にはひときわ大きな扉がある。


その奥には宝箱か、はてまたモンスターの巣か、何かありそうな雰囲気をかもし出している。


俺としては、今日は何事もなく帰りたい。




「この先は明日にするってのは?」




「無いわね」




「地図はできているけど、戦闘もなくて成果ゼロだから、何か持って帰らないと」




うーん、プロとしてのプライドか。ベテラン二人は成果に厳しかった。




「わかった。じゃあ扉を開けるのをちょっと待って」




俺はライフサーチを見て、モンスターがいないことを確認する。




「うん、モンスターはいなさそうだね。じゃあ扉を開けよう」




俺とゴルデさんで大きな扉を開ける。


そこには長い廊下が続いていて、ところどころに石像が置かれている。




「………」




息まいていた二人が中を注視するだけで、なかなか中へ進まない。




「なんか、あやしい…」




フレンさんが言う。


見たところ今までとあまり変わらないが、冒険者の勘だろうか?




「じゃあ、ちょっと調べてみるよ」




「えっ?」




「タイプスペル:ソナー」




俺の手袋から超音波を出して、見えない所を探る。


と言っても、ざっくりとしたイメージしか掴めないが。




「なんだろう?ここ。たしかに変だ」




「どう変なの?」




「なんていったらいいんだろう?…浮いている?」




「浮いている?」




「すみません、それって魔法で中を探っているんですか?」




俺とフレンさんのやりとりに、ミーヤさんが割って入る。




「うん。まぁ、そこへ行かずに所々を叩いてみたくらいの事しか感じられないけど」




「へー、魔法って本当にすごいですね」




「あはは、今回はあまり役に立てていないけど」




「そんなことないですよ。浮いているってことは空間があるってことで、何か隠しているってことじゃないですか?」




「そうね、罠って可能性もあるけど」




ミーヤさんの見解に、フレンさんが補足する。




「それでも行くの?」




俺が二の足を踏んでいると、ゴルデさんが中へ入っていく。


少し進み、辺りを確認すると、こちらを振り返って頷いた。


先陣を切って危険を確認しに行ってくれたようだ。かっこいい。




「ウパは大丈夫か?怖くない?」




「うん、ハリネと一緒なら大丈夫…だと思う」




「…そっか」




俺らは謎の廊下を進んで行く。

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