第27話嫌過ぎる招待
「いるなら早く開けろ。まったく、酷い雨だ。おい、これ乾かしておけ」
招き入れる前にズカズカと入り込んできた男は、チューベローズの長男、モノリス。
魔物の訪問が増えてから、家を見つけられないように目くらましの魔法や道迷いの術や侵入を防ぐ結界を可能な限り張っているのだが、破られた気配すら感じさせずに無効化されてしまったらしい。
彼は、まだ指名されていないもののメディオラの跡目を継ぐのは自分であると公言しているため、高圧的な物言いが多く、兄姉のなかでアメリアは最も苦手としている。
まさか長兄が訪ねてくるとは思わなかったので、心の準備ができておらず、言葉がうまくでてこない。
「あ、あ、兄上様……えっと、な、何の御用で……?」
兄と呼ばれた男はぎろっとアメリアを睨みつけ、濡れたローブを叩きつけてきた。
「お前はもうチューベローズの人間ではないのだから、私のことは一ノ家当主様と呼ぶのが正しいだろう。身分をわきまえろ」
すみません、と小声で謝罪しながらアメリアは濡れたローブを乾かす魔法をかける。調整を間違えると布が皺だらけになるので丁寧にやっていると、それを見たモノリスがふんと鼻で笑い、自身に魔法をかけた。
一瞬で泥汚れや雨染みが綺麗になって、格の違いを見せつけられたアメリアは、下を向くしかなかった。ていうか自分でやったほうが早いのにどうして出来損ないの自分にやらせるのか。できないことを再確認して馬鹿にしたかっただけとしか思えない。
「こんな下級魔法も満足に扱えないのか。全くどうしてお前のような者が大魔女から生まれたんだろうな……」
「……すみません」
予想通りアメリアの出来なさ具合をあげつらって馬鹿にしながら怒っている。早く用向きをいってくれないかなあとソワソワしていると、ようやく兄が本題にはいった。
「まあいい。お前に母上のことについて話があって来たんだ。部屋に案内しろ。茶くらい出せるだろう?」
リビングに通すと、猫と犬がソファに寝そべり、蝶々は花瓶の花に、トカゲは照明の笠にぶら下がっていた。
てっきり外に避難していると思っていたアメリアは、兄が魔物に気付いて攻撃しやしないかと冷や冷やしたが、モノリスは特に気にした様子もなく、ただのペットだと思ったようだった。
「躾けがなっていないな。ペットをソファから退けろ」
「あ……ハイ」
兄ほどの魔女であっても、この居候たちの擬態に気付かないのだろうかと少し驚きながら、ひとまず二匹をソファから降ろす。
どかっと乱暴に腰かけたモノリスから早くしろと怒声が飛んできたので、慌ててお茶を淹れて持ってきた。
兄は一口飲んだあと、ものすごく渋い顔をして、カップをテーブルの横に追いやった。どやら不味かったらしい。
「色々言いたいことがあるが、用件だけを伝える。母上の体調を悪くされているんだが、一度お前も見舞いに来いと仰っている」
「えっ? おか……いや、メディオラ様が? わた、私がお見舞いに? な、なんでです?」
「我々もなぜ除名した出来損ないに声をかけるのか訳が分からん。だが、母上が仰るのだからそれに従うだけだ。他の弟妹が七の雨月に集まるのでお前もその日に本家に来い。いいな?」
アメリアが追放された時、母のメディオラは家族会議にすら顔を出していなかった。恩寵持っていないと鑑定が出てからすぐに彼女は七人目の娘に全くの興味を失っていた。
その母がお見舞いに来いと? あり得ない。正直存在すら忘れられていると思っていたのに、まさかお見舞いに来いとご指名を受けたと聞いても、現実味がない。
「わた、しが本家に足を踏み入れてもいいんですか?」
「仕方があるまい。だが家族としてではない。客人扱いでの訪問を許可すると一族会議で決定した。これが許可証だ」
そう言って兄は家紋が押された紙をこちらに突き付けてきた。屋敷の門には魔法で守りがかけられているので、一族から除名されたアメリアはこの許可証がなければ門をくぐることはできない。
用件はそれだけだったらしい兄は、立ち上がって帰り支度を始めた。先ほどのローブを手に取り、羽織ろうとして止め、結局もう一度自分で洗浄魔法をかけている。だったら最初からアメリアにやらせず自分で全部やればいいのにと言いたいところだが、わざとやらせたのだと分かっているので何も言わず黙って玄関の扉を開けて兄を見送る。
これだけの用事なら手紙でもよかったのではと考えるが、只人の郵便屋に魔女の手紙を託すわけにはいなかいだろうし、魔法郵便はアメリアとの縁が切れているため使い魔が送れなかったのだろう。
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