第8話
「爺、私は外に出たいわ」
「……ご主人様よりそれは駄目だ、と言われているはずですが」
「でも、いいじゃない。少しくらい。それに、仮に危ないことが起きても、私の魔法ならチョチョイのチョイよ!」
「……はぁ、分かりました。ご主人様には内緒ですよ?」
この時の私はわかっていなかった。のちに大変なことになるなんて。
私の名前はルイナ。ルイナ・ノティス。代々国の南の守護を任されているノティス伯爵家の長女で、私の上には二人の兄がいる。なので、次期ノティス伯爵となるのはその二人の兄のうちのどちらかだろう。
しかし10歳である私には関係ない。
だって私は兄妹の中では一番下だし、私は宮廷魔法士になるのが夢だからだ。
それに、魔法の腕には自信があった。私が通っている貴族学校で私以上に魔法が上手な子は見たことがない。いつも魔法に関しては私が一番だった。
先生も私が使う魔法には太刀打ちできないようだったし、私の魔法の腕はこの国で見てもかなりのものがあると自負している。
だからお父様も私に家庭教師をつけて後押ししてくれているのだ。
「うわぁ……!」
だが、魔法以外のことも学ばなければいけないのでかなり息苦しさを感じていた。だからこうして息抜きとして王都を見てみたいと言うのは当然の権利だと思われる。
早速私は爺に連れられて王都の街へと繰り出した。
そして目の前に広がる、初めて見る光景に私は感嘆の声を上げずにはいられなかった。何もかもが見たことがないものだらけだったからだ。
「すごい……」
「お嬢様、お約束ください。私の元を離れない、と」
「うん!」
こんな人混みの中爺と離れたらきっと迷子になる。そんなことはすぐにわかった。だからここは素直に爺の言うことに従おう。
それにあと数日経てば祝福の儀がある。それは絶対に出なければいけないので
ここで迷子になって家に帰れないなんてことがあってはいけないのだ。
なのに──
「オラっ!さっさとこっち来い!」
「やめてっ!」
どうしてこうなったんだろう。
私はさっきまで爺と一緒に街を散策していたはずだ。爺から目を離さず、爺から一度も離れていなかったはずだ。だと言うのに何故……。
「こうなったら……」
その呟きが聞こえた直後に、私は後ろから強烈な衝撃を受けて、意識を落としたのだった。
「──ここは」
「お、ようやくお目覚めかよ。やっぱいいとこ育ちのお嬢様は余裕ってか?」
「っ!?どこよここ!私を早く家に帰して!」
「うるせえ!」
「っ!?痛い!?」
目が覚めると、そこは知らない場所だった。なんだかジメジメしていて気持ち悪い。私はすぐに家に帰すよう叫んだが、返ってきたのは男による拳だった。
私はあまりの痛さに悶絶とするが、その直後にまた殴られた。
「少し黙ってろ!それになぁ、どうせ助けが来ようが意味ないぜ?こっちには元金等級冒険者がいるんだからなぁ!」
「っ!?」
アヴィケル王国があるこの大陸の冒険者には、能力や信頼度に応じてランク分けがされている、と学校で習ったことがある。それによると金等級は確か上から三番目。一番上は伝説とされている黒等級で、その次が世界に五人しかいないとされている白等級。
そしてそれに続いて金等級、銀等級、銅等級、無等級と全部で六段階になっている。
白等級は大抵国のお抱えなので、必然的に金等級が一番強いと言う認識になる。
「……」
「お、黙ったな。お前はここで静かにしとけばいいんだよっ!」
「がはっ!?」
そして小さな子供のはずの私のお腹をまた蹴った。いい大人のくせに……子供をいじめて恥ずかしくないのかしら。
しかし、私は初めは抵抗心を燃やしていたものの、何度も何度も気が遠くなりそうなほど殴られ、蹴られ、既にそんなのは無くなってしまっていた。
涙もいっぱい流した。流しすぎていつの間にか出なくなっていたが。
この苦しみから逃れたい。それだけしか考えられなくなっていた。
誰か……助けて。
「よく見りゃあお前結構整ってんのなぁ。リーダー!」
「あん?」
「こいつヤっちまってもいいですかい!?」
「ひっ!?」
その言葉を聞いた瞬間、私の体はついに恐怖に支配されてしまった。こんなに酷いことをしても飽き足らずに、また更に酷いことをするなんて……!
「……あぁ」
でももう私には抵抗の意志が、残っていなかった。もう二度と、お父様とお母様に会えないと思うと、枯れたはずの涙がまた溢れた。
「──あん?」
その時だった。
「し、侵入者ですっ!」
「なんだと?そいつは今どこにいるんだ?」
「もう直ぐ来ます!今ヴォーガンさんが相手していますが、足止めで精一杯のようで……」
「何!?あのヴォーガンがだと!?」
と、その時だった。奥から何やらぶつかり合う音が聞こえてきた。私は最後の力を振り絞って助けに来てくれた人の顔を見ようと、鉄の棒まで近付いて、その棒に寄りかかるように、外を見た。
「──」
私はその時の、彼の顔を忘れないだろう。
あの人が、私を助けに来てくれた人なんだ。
「──たす、けて……」
私は今出せる出来る限りの声を出した。その声が届いたのか知らないが、彼が私の顔を見て、そして──
「っ!?」
優しそうな顔を怒りで染めた。
その後のことはあまり覚えていない。というのも、彼が来てくれたから安心したのか、私は意識を失っていたようで気づいた時には彼にお姫様抱っこされていた。
その時私は嬉しさのあまり変なことをしてしまったようで、彼が困った顔をしていた。
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