第5話

 エリナさんの言うその緊急クエストというのは、どうやらノティス伯爵家の長女であるルイナ様が盗賊の手によって連れ去られた、と言うものだった。


「お願いします!伯爵様も自身の騎士を使って行方を追っているようですが、中々見つからず……それで冒険者の方にも要請が来たようなのです」


「んで、なんで僕にその話を?」


「サフェトさん以外にももちろん話はしていますが、とにかく早く救出するべきと言うことでソロでも盗賊を殲滅できる人にしか話していません。のちにクランの方にも話はいくと思いますが……」


「ふぅん」


 確かに僕はこっちに来て一度だけ盗賊の集団を壊滅させたことはある。だって煩わしかったから。


 それにそこをそのままにしておけばゴブリンが住んでくれる可能性だってあったし。あの時はいい狩場を見つけたと思ったんだけどな。


 閑話休題。


「とにかく、サフェトさんには是非このクエストを受けて欲しいんです!お願いします!」


「今はもう夜なんだけど……まぁいいか。いいよ。偶にはちゃんとした運動もしなきゃだし」


「っ!ありがとうございます!」


 それからすぐに僕は焼き鳥屋で焼き鳥を買った。その時、僕らの話を聞いていたのか、店主が憐んでくれてもう一本サービスで貰った。ありがたい。


 そして僕はすぐに出発すべく、焼き鳥を手に動き始めた。


「うま」


 それから僕は王都を抜け、その焼き鳥を食べながら夜の森を駆けていた。できたてで熱々の焼き鳥が夜の風で少しだけ冷やされ丁度いい温度となる。


「偶にはいいかもしれないな、これも。危険だから二度としないけど」


 それから食べ終わった焼き鳥の串は懐にしまっておき、残り2本は持っていたバックにしまい、走る速度を早めた。


 体力トレーニングを続けていて良かったと、この時僕は切に思った。


 それから20分後。ついにその盗賊のアジトと思われる場所へと辿り着いた。そこには既に騎士どもが突撃の準備をしていた。僕はそこに合流する。


「冒険者ギルドからの応援できました」


「む、それはありがたい。今丁度突撃をしようとしていたのだが、なにぶん我らはこの鎧だからな。あまり俊敏に動くことができないのだ……と、丁度隊長が来たようだ。後の話は隊長から聞いてほしい」


「分かりました」


 そしてその彼が言う通り、奥から一人の華奢な女性がやってきた。


 見た目からは到底思えないほど放つ圧は凄まじいものだが、姉さんの圧に慣れている僕にとってはどうってこともなかった。


「貴殿が、冒険者ギルドからの応援か。私はユティア。ノティス家専属騎士団の団長である。ご当主様に代わって、応援感謝する。では早速だが、貴殿にはお嬢様の救出をしてもらいたい」


「……分かりました」


 確かにこの中だったら一番俊敏だろうからな。


 そして軽く団長様と軽く打ち合わせをした後、遂に突撃の時間となった。


「今だ!突撃!」


「「「「うおおおお!」」」」


 騎士が突撃するのに紛れる形で僕は洞窟の中に潜入した。中は薄暗くジメジメとして滑りやすくなっている。だが何度も洞窟に潜ったことのある僕にとっては大丈夫だった。


 逆に中で戦闘になった時、防御シールドで守ることで精一杯になりそうな気がするが……最悪を切るとする。


「っ!?侵入──」


「ふっ」


 騒がれる前に目の前にいた男の首を短剣で切る。どこを切れば致命傷になるかは分かり得ているので、そこを狙えば一撃で沈めることができる。


 そのあとはまるで作業だ。


 防御シールドで向かってきた敵の攻撃を防ぎながら短剣で首を刺す。それを繰り返す。


 なるべく仲間を呼ばれたくはなかったが、複数人いた場合そいつらの口を強制的に抑える、なんてことはできないので、そこはもう諦めた。


 にしても数が多すぎないか?


 さっき騎士様らと激突した盗賊の人数もかなりいた気がするし……もしかして結構大きな盗賊団のアジトかな?ここ。


 もしそうだとしたら、今後の事後処理が面倒なことになりそうだ。


「がはっ!?」


「し、侵入者だアアアアア!」


「うるさいよ」


「ぐっ!?」


 僕は物理でその声を黙らせ、また移動を再開した。


「む」


「はぁっ!」


 と、走り続けているその時だった。突然奥から鋭い一撃が僕に向かってきたので、それを避けつつ防御シールドで追撃を防いだ。


「貴様が侵入者か。ここで殺す」


「ふむ……」


 相手の得物は槍、か……これはちょっと不利だな。


 そうやって何度か打ち合いを繰り返した後僕らが睨み合いを続けていると、奥から更に仲間がやってきた。その数はざっと20を超えているだろう。これを一人で相手取るのは少々めんどくさい。


 しかし打ち合いをしながら結構進めることができていたようで、この洞窟の最奥らしきところまでやってきた。


「ん?」


 と、そうやって彼らとこの場所を観察していると、ふと視界の端に鉄の棒らしきものが立っているのが見えた。どうやら牢屋のようなものがあるようだ。


「──いた」


 そしてそこには一人の少女がその鉄の棒を掴んでこちらを見ていた。






「──たす、けて……」





 薄らと聞こえたその声はかすれていた。どうやら彼女は限界らしい。それによく見るとところどころ殴られたような跡がある。こいつらはどうやらその小さな子を殴って楽しんでいたようだ。



「っ!?」



 そして僕は彼女の顔を見て──思わず声に出してしまった。






「──姉さん……?」


 



 こいつらは殺す。絶対に殺す。どんな手を使ってでも──殺す。



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