第3話
「ん?」
ゴルドが初めに感じたのは違和感だった。
ルカを殺し、サフェトも殺し、もう残っている作業はこいつらの死体の処理だけだ、と思っていた時だった。
ルカの死体がすでに燃えていたのだ。
「おう、ルカの死体、誰が燃やしたんだ?」
「え?最初から燃えていましたけど……」
「は?」
そしてしばらくして、ルカの全身は全て灰となり、風に乗ってサフェトの元へと向かった。その風の流れに、ゴルドの長年の冒険者としての勘がこの状況に警報を鳴らしていた。
かつてない程、盛大に。
ゴルドがここまで生き残れてきたのは大剣使いというアビリティの力と逃げ時を見極めるその類い稀なるその才のお陰だ。
そしてその逃げ時が今だと、ゴルドは悟っていた。だが理由が分からない。一体何に殺されるというのだろうか。
(不気味だ)
ふとゴルドはサフェトの死体はそしたらどうなっているのだろうと思いサフェトが倒れている方を向いた。
「っ!?」
そして驚愕した。
──サフェトが立ちあがったからだ。
(地面に作り上げた血だまりからして普通なら死んでいてもおかしくない。だというのに……何故!?)
ゴルドは静かに大剣を構える。こいつはここで殺さないと、死ぬ。そう直感が働いたからだ。
「こいつを殺せお前ら!!」
「うおおおおお!!!」
「死ねえええええ!!!」
(こいつらに
ゴルドが使っている大剣には魔法の効果を破壊するという、対魔法が付与されている。サフェトが使う防御魔法を破るにはこの方法しかなかったのだ。
だがその効果はさっき使ってしまいもう使えなくなっている。
故にサフェトに防がれないためにも、ゴルドは仲間を捨て駒にしたのだ。自分の攻撃を確実に当てるために。
「──ハハッ」
渇いた笑みがゴルドたちの耳に届いた。その瞬間──
「──は?」
目の前でまさにサフェトを殺そうとした捨て駒の二人の体に大きな穴が開いていた。そんな光景に思わずゴルドの口から声が漏れ、動きを止めてしまった。
「なん、で……お前、タンクじゃ……」
「ハハハ……ハハハハハ!!姉さんが死んだ!!姉さんが死んだ!!──姉さんが、死んだっ!!!!」
そう叫んだサフェトは背に刺さっていた太刀を自分の手で抜いた。
彼の心はもうぐちゃぐちゃだった。サフェトは目の前に愛する姉の復讐対象がいるにもかかわらず、頭の中では復讐なぞどうでもいいと考えていた。
いや、それはきっと嘘だ。きっと彼が意識していないところで復讐を望んでいるだろう。だって今から彼がする行いは復讐なのだから。
それを自覚する前に、彼は狂ってしまった。
「ふん!」
そして、抜いたはずの太刀を自分の体にもう一度刺した。すると太刀はズズズ、とまるで体が太刀を吸収するかのように、サフェトの上半身の2倍以上の長さの太刀は面白いようにサフェトの体に入っていった。
「ハハハハハ!
そして、普通ではありえないほどの魔力が彼から噴き出した。目には見えないはずの魔力が、その濃さゆえか、はっきりと目にできるほどのものだった。
「お前らを殺して俺は
サフェトはすると突然狂気的な笑みをスッと消した。その異常な切り替えの速さにゴルドは不気味な何かを感じていた。
そしてサフェトが放っていた膨大な魔力は少しずつ彼の両手に吸い込まれていき、拳と足が赤く光り始めた。
「──重点強化」
次の瞬間、サフェトの姿が消えた。それに対応しようとしたゴルドの視界はさっきまで見ていたところとはあらぬ方向を向いていた。
「────」
声を出そうにもうまく出せない。自分がどこを向いているのかわからない。
ゴルドは混乱した。
(それに──なんだこの浮遊感は)
すると頭に下から妙な風をうけた。それを感じた直後に強い衝撃がゴルドの頭を襲った。そこでようやくゴルドは気づく。
──ゴルドの頭が体から離れていたことに。
それを悟ったゴルドは静かに意識を二度と戻れない沼の底に沈めた。
「……ハハッ」
それを見たサフェトは思わず笑みが溢れてしまった。そんな彼を恐ろしく思ったのか、他の冒険者は恐怖でサフェトを殺そうとした。
だが叶わなかった。
そしてサフェトは出来上がった血の水溜りを後にした。
その目には、何も映していなかった。
「──ぁっ!?」
息を吹き返すように喉を震わせたサフェトは、もうすぐで街に着くと言うところで突然その場に止まった。
森の入り口で突然立ち止まったサフェトに訝しげな目を向ける他の冒険者もいるが、今のサフェトにはそれどころではなかった。
(さっきまで僕は……──そうか姉さんが死んだからか)
それからの彼の行動はとても早かった。
まず最初にクランハウスに戻った彼はすぐに自分の荷物とルカの荷物を纏める。
(これは……)
と、ふとサフェトが手に取ったのはルカにプレゼントしたはずのネックレスだった。それを見たサフェトは自然と目から涙が流れていた。
「……姉さん」
彼はそれを胸にギュッとしてから──捨てたのだった。
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