インバース・ブレイク〜最愛の姉を殺されたタンク、盾から矛に持ち替える〜

外狹内広

プロローグ

第1話

「姉さん、そろそろ行くよ?」


「はぁーい。ちょっと待ってて」


 早朝。街一番と呼んでも過言ではないほど大きな建物の中でとある少年の声が響いた。


 クラン猛き爪フィールズのメンバーで、主にこのクランハウスで生活している少年──サフェトは同じ部屋に住んでいる、彼の姉であるルカを呼んだ。


 彼は所謂シスコンというやつで、常に姉であるルカの元を離れない。こうして二人同じ部屋で生活しているのが何よりの証拠だ。

 

 すると、奥から一人の可憐なる女性が現れた。ルカである。


「早くない?まだ朝だよ?」


「朝からクエストあるよって昨日言ったの姉さんでしょ?」


「むぅ、確かに私が取ってきたけどさ。こんなに早いんだったら言ってよ……」


 そう文句を言いながら大きなあくびをかいたルカはサフェトの元へとやってきた。早速クエストを取ったことを後悔しているようだ。


 そして彼女はリュックをサフェトに預けた。このリュックには野宿に必要な物が入っている。この中身を用意したのはルカで、用意するようサフェトに頼まれていたのだ。


「買うのめんどくさかったんだけど」


「でも交代でするって言ったのは姉さんだよ?」


「そうだけど……まぁいいわ。行きましょ!」


 





「はぁっ!!」


 森の中と言う障害物が多い状況だというのに、ルカが目の前の敵である魔物──ウルフの群れに突撃した。その彼女の身の丈に合わないほどの大きな太刀を振るい、一振りで一気に三匹のウルフを斬り殺した。


「ガアッ!!」


防御シールド


「ギャンッ!?」


 そして死角からルカに嚙みつこうとしたウルフはサフェトによる防御魔法によって防がれた。


「はっ!」


 それを見逃す彼女ではない。

 反転と同時に怯んでいたウルフを一刀両断した。


「ガアア!?」


 それに加えて近くにいたウルフ二匹も返す刃で斬り殺した。両腕で太刀を持ち、全身を使ってそれを振るう姿は過激である。


 どこからそんな力が出せるのだろうか。腕はすぐに折れそうなほど細く、とても太刀を満足に振るえるような力を持っているとは到底思えない。


「ははっ!弱い弱い!!やっぱり余ってるクエストを追加で請け負うんじゃなかった!」


「その割には姉さん──防御シールド、随分と楽しそうに見えるけど?」


「どんな敵でも、戦えるんだったら楽しいのよ!でももっと強い奴対象のクエストあったじゃない!?そっちにすればよかったなって!」


「僕に死角守られながらいうセリフじゃないよね?」


「でも私のそばを離れないんでしょう?」


「当たり前じゃん。そうしないと姉さん死んじゃうでしょ?それは絶対僕が許さない」


 そして最初は20匹いたウルフはものの数分で全滅してしまった。彼ら姉弟にとってこんなのは朝飯前だ。ウォーミングアップ程度にしかならなかった。


「ふぅ、これで一つ目は終わりね。後は本命のクエスト──ゴブリンキングの討伐だけね」


「ここから西に1日くらい歩けばゴブリンキングの巣に着くはずだ」


「1日?私野宿したくないわ」


「だったら走るの?僕速度あんまり出せないけど」


「大丈夫!私が腕を引っ張るから!」


 ルカはそう言ってから突然サフェトの腕を掴んだ。


「引っ張るってどういう──うわっ!?ちょっ!?」

 

 そして次の瞬間、ルカはサフェトの腕をグッと掴みながら──勢いよく走り出した。その速度は規格外の一言で、ぐんぐんと森の中をかけていく。


 サフェトはこういった無茶ぶりに慣れているのか、特に酔うことなくただ身を彼女に任せて、リラックスしていた。


 普通なら引っ張られている腕が痛くなりそうだが、防御魔法を少し応用することでそれは解決している。


「──いた」


 そして走り続けること5時間半。サフェトが腕を引っ張られ足が地面とほぼ水平になっている中、そんな自分の状況などどうでもいいかのように、よくそんなに体力が持つなぁ、と自分の姉に関心を持っていたその時だった。

 

 腕を引っ張っている張本人であるルカはその類い稀なる勘でもってゴブリンキングの位置を割り出した。


 戦闘のセンスだけは抜群の彼女は、過去その勘でいくつもの窮地を凌いできた。故に自分の勘に絶対の自信を持っている。


 今回も同様に、その勘に従って進み続けた。


 サフェトも姉の勘の凄まじさを知っていたため、ゴブリンキングがいる位置を予め知っていたのだがルカには教えていなかった。


 そして遂に、今日のメインであるゴブリンキングとの対面を果たした。


「サフェト、宜しくっ!!」


「はいはい!」


 サフェトを放り投げたルカは腰に佩いていた太刀を鞘から抜き、周りにいたゴブリンをその怪力で一掃した。


「火炎剣!!」


 そして彼女は太刀を持っている手と太刀に纏わせた。これが彼女の得意魔法である火炎魔法の一端。


 彼女の戦闘スタイルは太刀とその身に炎を纏わせ、その炎の力によって元々あった高い身体能力を更に上げて戦うというものだった。もちろん普通の火炎魔法──火炎玉ファイアボールなども扱えるが、彼女曰く──


『遠距離はつまらない』


 なのだとか。


「やっぱりゴブリン共は歯ごたえが無さすぎる!──サフェト!」


「分かったよ!姉さんは早く行ったら!?」


 そう言いながらサフェトはルカに今まさに襲い掛かろうとしていたゴブリンの棍棒を防御魔法で防いだ。そしてその防御魔法を操作し、ゴブリンを潰した。


 それを傍目で見ていたルカは足に力を込めて一気に最奥にいるゴブリンキングとの距離を縮めた。その速度にゴブリンキングは思わず目を見張った。


「深炎の一刀!!」


 温度が先ほどよりも増し、白く染まった炎を纏った太刀がゴブリンキングの脳天目掛けて振り下ろされた。


 だが腐っても種族の長である。


 一瞬その速さに怯んだものの、すぐに彼女からの攻撃に対応して見せた。


「ギャ!?」


 しかしその高熱でゴブリンキングが持っていた得物──純黒の大剣は太刀と触れたところから溶け始めたが。


「このまま──押し切る!!」


 ルカは力任せにその太刀を振り下ろした。少しずつ溶けていく大剣の姿に焦り始めるゴブリンキング。


 しかし今、彼女は無防備な状態。当然と言うべきか、王様を守ろうとゴブリンがルカ目掛けて魔法を放った。


「──反射防御リバース


 その攻撃は当然、他でもないサフェトが許さなかった。サフェトはルカが命令した通り、彼女に向かおうとしていたゴブリンを屠ってここまで来たのだ。


 そして──





「斬!!」


「ガアアアア!?!?」





 ゴブリンキングは碌な抵抗もさせてもらえずに、その体に右肩から左脇腹まで伸びる深い傷を負った。しかし奴はまだ動けるようで、すぐに彼女に反撃を仕掛けようとする。


 が、それは叶うことは無かった。


防御シールド


「ガ!?」


 ゴブリンキングの目の前に現れた、拳大の魔法の盾がその攻撃を防いだのだ。


 ゴブリンキングの拳はひとたび地面に振り下ろせば何10センチもの穴を地面に作れるほどの威力で、タンクだとしてもしばらく盾が持てないほどの衝撃が襲ってくる。防御魔法で防ごうとするのははもってのほかだ。


 だが彼の防御魔法はそんな攻撃を易々と防いで見せた。やはり我が弟の防御魔法は規格外だと思いながら、ルカはしゃがんでいた姿勢を直し、すぐにもう一撃をゴブリンキングに浴びせようと、駆け出した。





 ──その時だった。





「──がはっ!?」


「っ!?姉さん!?」





 どこか遠くから、一筋の矢がルカの背目掛けて飛んできた。それは森の木の間を縫うように、正確無比に狙って放たれたものだった。


 こんな精密な攻撃はゴブリン如きではできない。となると──



「っ、このクエスト……罠だったのかっ!」



 一瞬で答えに辿り着いたルカとサフェトは誰が、何故、と言う部分は後回しにして、ひとまず目の前のゴブリンキングを殺さんと動き出そうとした。


 目の前に一撃で自分たちを殺せる敵がいるのだ。更に死に際である。


 死に際の魔物の悪あがき程恐ろしいものはない。


「はぁっ!──ゴハッ!?」


「姉さん!!全防御フルシールドっ!!」


 自分と彼女の周り全てに防御魔法を張った。


「終わりにするっ!!斬!!」


「ガアアアア!!」


 炎を纏った太刀による袈裟斬りを喰らったゴブリンキングは地に体を落とした。だが彼らは油断できなかった。


「っ」


「姉さん!!今その矢を抜くから!!」


「いや、自分で抜くっ──っあああ!!」


 そして血の付いた矢を地面に投げ捨てた彼女は険しい表情をしながら周りに注意を巡らせていた。


「どこかにいるはずだ……私たちを殺そうとしたやつは」


「……」


 しかし気配が見つからない。そう思った時だった。





「──へっ」



 

 バキンッ!!




 何かが割れた音と共に巨大な剣がルカを後ろから強襲した。そして──



「がはっ!?」


「ははは!!ようやく姫騎士を、ルカを殺せたぜええええ!!!」


「っ!?き、貴様ああああ!!!ゴルド!!!ふざけるなああ!!!」


 そこにいたのは同じクランのメンバーのゴルドだった。よく見ると彼の後ろには複数の人がいた。彼らも同じクランメンバーだった。


 裏切られたのだ。


「お前も死んどけよ!!シスコンサフェト!!」


「っ!?シー──」


「無駄だぜっ!!」


「がはっ!?」


 大剣が、サフェトの腹部を強襲し、吹き飛ばした。自慢の防御魔法は簡単に破壊されて。


 そしてサフェトは近くにあった木にぶつかり、地面に倒れたのだった。



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