異形な仕置き~無垢な異形少女の姉~
触れているからこそ、正気でいられる
そうでなくなれば途端に正気を失う
この苦しみ、誰が理解してくれようか
酷く生気のない目で、男とホテルに入っていく隼斗を、制服風のワンピースを着た少女がビルの屋上から見つめていた。
「そういえばマヨイしかできない仕事今やってる最中だしなー。一週間放置されたらああなるかー」
困った様に一人呟く。
「まだ戻れないからってあそこまで悪化するのはマヨイがかわいそうよねー。せっかくの大好きな人があんなことしてるんだしー」
細い足をばたばたと動かし、その場に寝転ぶ。
「どーしよっかなー」
脚をぷらぷらとさせながら夜空を見上げる。
しばらく、髪の毛を弄りながら考え事をしていると、突然何かを思い付いたのか口元を見た目とは不相応な程に淫靡に歪ませる。
「……そだ、最近私も上手く発散できてないから――」
黒かったはずの目を血の色に染め上げ、ぎらぎらと光らせる。
表情は悪戯をおもいついた少女そのものなのに、おぞましい淫靡さをまとっていた。
「やっちゃおっか? お仕置きお仕置き!」
隼斗は何処かおぼつかない歩き方で住処に戻って来た。
マヨイの使い魔達がどこか狼狽えているような動作をするが、こちらから要望しない限り彼らが手を出すことはないのを知っているため、何も言わずに浴室に向かう。
体内の穢れを流し、お湯を頭から被る。
シャワーからお湯が出ている音が室内に響き、お湯が隼斗の体に付着した汚れを落としていく。
お湯を浴びながら深くため息をつく。
触れられなくなった途端以前の状態に戻ってしまった。
一週間、一週間が長く感じる。
触れて欲しい、あの目で見て欲しい、傍にいて欲しい。
そう願ってもいうことすらできない。
いなくなると、孤独感と罪悪感が頭を支配して狂ってしまいそうだ。
隼斗は浴室からでると、おぼつかない動きのまま体を拭き、服を身につけて脱衣所を出る。
誰もいない部屋のベッドに横になる。
生気のない目でじっと闇を見つめている。
闇に手を伸ばすが、その手は何も掴むことなくベッドに落ちる。
「ひとりぼっちは寂しいよねぇ?」
マヨイとは全く異なる声質の少女の声がした。
体を起こすと、先ほどまで誰もいなかった入り口の方に見慣れない少女がいた。
真っ黒な髪、黒い目、白い肌、ワイン色の長袖のチュニックを身につけていた。
見た目だけなら愛らしい容姿の少女だが、場所が場所だった。
此処は、普通の「人間」は入ってこれない場所なのだ。
それが意味することはこの少女が「人間」ではないことを意味していた。
隼斗は相手に気づかれないようにベッドの後ろに手を伸ばす。
「お兄さん。最近男遊びしまくってるねぇ」
少女はケラケラと笑いながら隼斗に近づく。
隼斗はベッド後ろから銃を取り出し、即座に弾を込める。
少女の足が一端止まり、真顔になるがすぐにケラケラと笑い出した。
「あそっか。面識ないもんね私とお兄さん」
少女はそう言って再度隼斗に近づき始めた。
それを視認すると、隼斗はためらいなく引き金を引いた。
弾丸が発射される音がなるとほぼ同時に、少女の顔の右半分に穴が開いた。
少女はしばらく身動きせず、隼斗はその様子を油汗を滲ませながら見つめていた。
「……ひどぉい! 知らないからっていきなり女の子の顔に穴開ける?!」
少女は動き出すなり、子どもを怒るような表情に変えて隼斗を怒鳴りつけた。
隼斗はその様子をみて唖然とした。
隼斗が放った弾丸は、本来なら異形を致死させる効果の高いものなのだ。
それが効かないというのは、かつて彼の組織を壊滅させたあの悪夢を連想させるものだった。
無意識に隼斗の歯がガチガチと鳴る。
隼斗の精神の壊れている箇所や傷跡は完治などしていないのだ。
マヨイがいるときだけ、その傷跡や壊れている箇所をなにかが埋めているからこそ、いなくなった途端精神の狂った状態が表に出る。
今まさに、その壊れ血が吹き出そうになっている傷跡から血が一気に吹き出たのだ。
「まぁ――」
穴の開いた箇所を、無数の肉が繋がった気色の悪い触手のようなものが埋める。
その触手は少女の目を成形し、肌を作った。
穴のあった箇所が一瞬にして元に戻ったのだ。
「これくらいならすぐさま治せるけどねー」
少女は口元を淫靡に歪ませ、黒い目が血色を帯びる。
再び少女が隼斗に近づこうとすると、マヨイの使い魔達が少女に絡みついた。
「もー! 何よ! 別に暴力ふるうわけじゃないんだからいいじゃない!!」
少女が不満そうに使い魔達に言うと、使い魔達は「そういうことじゃない」と言わんばかりに体をよじり、少女の体を締め付ける。
「女の子の体をしめつけるんじゃないの!」
少女がパチンと指を鳴らすと、先ほど少女の顔を修復した触手と似た触手が、使い魔達を少女から引きはがし壁に縫い付けた。
使い魔達は慌てるように身をよじっている。
隼斗は先ほどから全身トラウマによる恐怖などから声も出せず、ろくに動くことさえできなくなっていた。
少女は隼斗の方を見てにんまりと笑うと、足で床を叩いた。
直後に肉色の触手に大量の目がついたようなものが広がりそこから触手が出現し隼斗を締め付ける。
口をふさぎ、上半身を拘束衣のような状態で締め付ける。
隼斗を拘束した直後にその触手の集合体は隼斗と少女を球体で包み込み縮小して消滅する。
消滅すると同時に、使い魔達の拘束もとけ、触手は消えた。
使い魔達はキョロキョロと身を動かしながら慌てふためいていた。
不気味な触手の集まった肉壁と肉床の上で隼斗は拘束されていた。
床の上に体を縫い付けられているような状態にされており、動くことすらままならない。
組織が壊滅した時の光景が頭をよぎり吐き気と寒気が酷かった。
恐怖感情で目の焦点が合わない隼斗の上に、のっかるように先ほどの少女がいた。
服は先ほどとは違う、真っ白なワンピースを身につけていた。
「隼斗さんさー、男遊びしすぎー。マヨイの『お姉ちゃん』としてそれはいやだわー」
少女は隼斗の覆われている口元の部分に指を持ってきてから、額をこづく。
少女の言葉正確には「マヨイ」、の箇所を耳にした途端隼斗の目の焦点が定まる。
そして表情が驚愕に染まる。
隼斗はわずかに顔をあげて少女を見る。
「はぁい、初めまして。マヨイの『お姉ちゃん』でーす。フェレスっていうの、でもみんなフエって呼ぶからフエでいいわよ」
少女――フエはくすくすと笑いながら言う。
隼斗はあっけにとられ、思考が停止していた。
「――で、本日おねーちゃんが態々きたのは言うまでも無い、隼斗くん。君は男遊びがすぎる!! いくら精神ぶっこわれてるからって節操なさ過ぎ!! 別に性欲もてあましてるわけじゃないから更にダメだわ!!」
矢継ぎ早ともとれるフエの言葉に、隼斗は呆然とするだけだった。
実際、口はふさがれているので反論もできないし、体は拘束されているので動くこともままならない。
「だからねー、今日はお仕置きにきましたー」
フエは幼子のような口調でいう。
けれど表情は、おぞましい淫靡さをまとっていた。
その表情を、隼斗は心の底から恐ろしいと感じた。
肉色の触手のようなものが、皮膚を這いずる感触に隼斗は体をわずかに仰け反らせる。
フエの肉体と不気味なそれらは一体らしく、フエの足下から下はそれらと同化しているのだ。
また、マヨイの体を這いずる感触とは大きく異なっていた寒気さえ感じた。
マヨイの愛撫は性的なものよりも、愛おしむ慰める、癒すそう言った面が強い。
フエの愛撫は文字通り、性的なもので性感帯を見つけては嬲るという行動だ。
マヨイに触れられる以外は不感に近い状態の体を無理矢理発情させている感じがして寒気がした。
マヨイのものとはことなり、隼斗の体を押し広げ、蹂躙した。
広げ、突き上げられる感触に、隼斗の目の前がちかちかと点滅する。
なんとか逃れようとするも、体は拘束されて身動きを取れていないため、逃げることはできない。
かなり体に負担がかかる行為なのに、性感帯全てを刺激され無理矢理高められた体には、それも快感になっていた。
度の過ぎる快感が長く続き続けた結果、隼斗は意識を失った。
「あーう゛ー」
目を覚ますと、不安そうに隼斗の頬を撫でるマヨイが居た。
隼斗はマヨイに何かを話そうと口を動かしたが、声もでなかった。
体中あちこちが痛みによる悲鳴をあげ、指一本動かすのもつらかった。
「う゛ーう゛ー」
マヨイは舌をひっこめて、隼斗の額に口づけをし、撫でる。
酷く心地良い眠気が隼斗の体を包む。
「隼斗さん、ゆっくりやすんでね。おきたらいたいいたいの、なくなるから」
心配そうなマヨイの言葉を耳にしながら、隼斗は心地良い眠りの中に落ちた。
隼斗が穏やかな寝息を立てると、マヨイは使い魔達を見て隼斗を見張っているように命じる。
使い魔達は大きく身を上下に動かして頷いた。
それを確認するなり、マヨイは黒い穴の中に潜っていった。
黒い穴の向こうには何処かバツ悪そうな顔で正座するフエの姿があった。
その横には、煙管から薄青の煙をくねらせている、鮮やかな着物を着た女性がいた。
「ああ、マヨイ。馬鹿は捕まえておいたぞ?」
「くれないおねーちゃん、ありがと」
「ちょ! テリア姉さん、馬鹿は酷い!!」
「黙れ愚妹が」
フエは
マヨイも、珍しく不機嫌な表情でフエに近づく。
「おねえちゃん、隼斗さんになに、したの?」
「え、えーとそれは……」
「おおかた遊びが過ぎてるのを注意もしくはしないように、仕置きするはずが調子のりすぎて体ぼろぼろになるまでやらかしまくったんだろう」
女性がそういうと、フエの顔からだらだらと冷や汗が流れる。
「おねえちゃん……」
「隼斗さんをいじめないで――!!」
マヨイはそう絶叫すると、マヨイの周囲から巨大な触手が現れマヨイと一緒にフエを追いかけ回し始めた。
「悪かった!! マジで悪かったから!! ごめんなさいって―――!!」
フエは悲鳴を上げてマヨイ達に追っかけ回され始めた。
「……姉さん、いいんすか?」
「良いだろう、普通にフエの方が強いんだ。やられることはあるまい、仕置きだ仕置き。いい薬だ」
女性は浅葱色の煙を吐き出しながらそういうと、金髪の青年はどうしたものかと頭を掻きながら、周囲を破壊しまくる二人の追いかけっこを見守った。
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