第21話 断罪 2
*サンドラの処罰に関わる場面では流血など、少し痛々しい描写があります。
苦手な方は避けてください。
サンドラが自業自得な目に遭ったんだなという事さえ伝われば十分ですので次話に飛んでください!
よろしくお願いします(*´▽`*)
大人しくなったと見せかけていたサンドラは足で騎士をけり、拘束の手が緩んだすきにドレスの下からナイフを取り出した。
そして自分の首を掻っ切ろうとしたとき、雷のようなまばゆい光がサンドラを直撃し、サンドラが持っていたナイフは弾き飛ばされた。
サンドラはナイフを失った手を呆然として見つめていたが、
「きゃあ!?な、なんなの!?」
急に怯えるように大声で叫び出した。
一人で喚くサンドラを、広間にいる者達はいぶかし気に見る。
サンドラは腕を振って何かを払おうとしている。
「いやっ、なにこれ!?気持ち悪い!」
今度は自分の手で腕や手の甲をがりがりとかきむしり、血がにじんでも構うことがなくひっかきながら「消えてっ」と泣いている。
サンドラの手の甲や腕の表面がぶわりと盛り上がった。
それらはフヨフヨと動いたかと思うと、人の顔を形作っていく。
いくつもいくつも・・・
そしてそれは少し不明瞭な言葉で口々に話し出す。
「いたい」「たすけて」「うらぎりもの」「ゆるさない」「ころさないで」
サンドラの腕に浮かび上がったのはこれまで自分が手にかけた者どもの顔。
それが口々に恨みつらみ、苦しみを訴える。
その中には小さな子の顔まで・・・話すことのできないその子は恨めしくサンドラを見るだけだった。
しかしそれら全てはサンドラにしか見えず、声もサンドラにしか聞こえていなかった。
周りの者からしたら。サンドラが一人で騒いでいるようにしか見えないのだ。
国王も唖然として見ていたが、一人で喚き怯えるサンドラに、これもドラゴナ神国の力だと気がついた。
見えない何かが彼女を苛(さいな)めている。
噂に聞いていたドラゴナ神国の不思議な力。
彼らがいなければ、ワトー侯爵家はサンドラの息がかかった悪意のある者が継承し、アリエルも殺され、近い未来にコベール国はアギヨン国に蹂躙されることになっていただろう。
国王はアリエルには申し訳ないが、サンドラがアリエルに執着してくれたことを、密かに感謝した。おかげでドラゴナ神国が介入することになり、結果的に国を救うことにもなったのだから。
サンドラは国王の命令で連れていかれた。
「シャルル殿、お力添えかたじけない。今のは・・・」
「ええ。神の御力です。」
シャルルが何でもないように言う。
不思議な力を目の当たりにした陛下は国の恩人に頭を下げた。
続いて貴族たちも礼をとる。
「神は彼女の行為を、あの国の思惑をよしとしなかった。それだけです。前ワトー侯爵の他にも事故死とされている文官がいるでしょう?彼らはここに居並ぶ簡単に騙されるような愚かな人間ではなく、忠義に熱い優秀な臣下だったということです。彼らのご家族にも手厚い対応を望みます。」
いとも簡単に騙された一部の貴族令息、令嬢たちは、俯く。
相次ぐ婚約破棄と新たな縁を誰か一人でも疑問に思っていれば・・・サンドラが工作員だとわからずとも高位貴族の伴侶が異国の者ばかりになることを誰かが気がつき、懸念を感じていれば・・・
それが毎年繰り返し行われたならば・・・もし社交界にもその工作が広まったら・・・あっという間に国は乗っ取られる。
そのことに誰も思い至らず、また婚約の報告を受けていた部署も機械的に処理していた事でこのような事態を招いた。
亡くなったアリエルの父、そして事故死したとされる文官たちがいれば気が付いていたかもしれない。それゆえ、殺されてしまった。
今回、学院でサンドラにものの見事に転がされた子息子女を持つ家門の処罰。これほどの数の貴族の処罰は、国に大混乱をもたらす。しかも高位の者ばかり。
しかし今大ナタを振るわなければこの国はいずれ立ちいかなくなる。それに誠意を見せた対応をしないと、ドラゴナ神国の怒りを買う恐れもあると国王は決意したのだった。
アリエル・ワトー侯爵がこの国にいる限り、ドラゴナ神国の恩恵を受けられるだろう。
確固たる絆を結ぶため、国王はシャルルとアリエルとの婚姻を密かに望むのだった。
一方、牢に入れられたサンドラは、腕をかきむしり続けていた。何とか顔をはがそうと必死になって、爪を立てていた。
「おまえ ゆるさない」
ふいに耳の近くで声がした。
「ひっ!?」
サンドラが震える手で頬を触ると、頬にまで顔が浮かび上がっていた。
「いやあっ!!」
今度は自分の顔に爪を立ててえぐる。
肉がそげ血が流れるが、声は止まらない。
「なぜ ころした なあ サンドラ?」
「やめて!」
頬に浮かんだ顔は初めてサンドラが殺した相手。父親だった。
自分を育てるために一生懸命働いた末に体を壊した父。周りの子供たちが無邪気に遊びまわる中、自分だけ家の事と介護に追われることが辛かった。
それなのに、周りの親切な大人たちから食べ物やお小遣いをもらうことを諫める父親が疎ましくなった。だから・・・白い鈴のような花が咲く植物を煎じてスープに混ぜた。昔に、ネズミ除けに使うと聞いていたから。
「お父さんには感謝していた!ほんとよ⁉ただ・・・そう、子供だったの!!殺そうなんて思ってなかった!許して!」
どれだけガリガリと頬を掻いても、声は止まない。
「そだてかた まちがい ただす」
「許して!! ごめんなさい!」
「いっしょう いっしょ」
「いやあ!」
半狂乱になったサンドラはいつの間にか牢の中に置いてあったかんざしを手に取り、自分の頬を刺した。何度も何度も。
慌てて見張り番が鍵を開けサンドラを止めた時には、大の男が顔をそむけるほどの傷になっていた。それでも痛みを感じないのか、さらにかんざしを突き刺そうとするので、サンドラは拘束された。
サンドラは自身の処刑の早期執行を望んだ。
その願いは聞き届けられたが、処刑の寸前まで自身の身体に浮かんだ顔たちの声は続いた。
そして、いざ処刑場に引き出され剣をその身に受ける瞬間、恨みつらみを吐いていた顔は一斉に笑い出した。
サンドラはあざ笑うかのような笑い声に包まれてその一生を閉じた。
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