第4話 妻が選んだ妻候補
「見せてやると言われた?余の許可も得ずに。なんと不愉快な!」
マサルの剣幕にも、サラは涼しい顔で装置に近づいていく。マサルは眉をしかめて腕を組み、かろうじてがまんしているようだ。
「これが何かわかるなら、あと数分はこの見合いに時間を割いてやる。わからなければ、即刻出て行くがよい」
マサルの言葉に反応せず、サラは装置を食い入るように見ている。
幸先よさそう。
私は手ごたえを感じた。皇宮にはマサルが何を研究しているのか、わかるものがいないのだそうだ。だからマサルがこれまでに調達した研究資材の一覧と、国中の研究所の調達資材を国の巨大情報システムで照合し、もっとも重複の多い研究所から、くだんの名簿に載っている女性研究員を呼び寄せた。三十一歳のマサルより二歳としうえの、気鋭の研究者だ。
サラは一度おおきく頷くと、マサルの顔を見た。
「エクスチェンジャー抜きに、多元世界との魂の交換を可能とする装置の研究ですか?」
サラが言ったとたん、マサルが目をむいて立ち上がった。と、思ったら、隣に座っていたケイも勢いよく立ち上がった。
「皇子がなぜ…」
ケイはマサルの3D映像に駆け寄り、つぶやいた。
いっぽうマサルはサラの腕につかみかかっている。
「おまえは何者だ?」
「国立
マサルの顔が輝いた。
「おお。少し待て。余にも
マサルはこちらへ指先をひるがえし、とたんに、目の前の3D映像が消えた。
青ざめたケイは、顎に拳をあて、うろうろしている。
「そんなにまずい研究なの?」
「皇子は魂の逃亡を図っているのかもしれません」
「魂の逃亡?」
「国の許可を得ずに魂の交換を行うことをそう呼んでいます」
「ああ、犯罪者の魂が他の世界に逃げたりしたらまずいわけか。それに魂の交換ができる装置なんかできて、その技術を持ったマサルがあちこちの世界に広めちゃったら、多元世界がぐちゃぐちゃになりそうね」
夫の宙も核融合を実現させるためのプラズマ研究をしていて、実現すれば世界が変わると言っていた。不可能に思える技術に挑戦することが、マサルの魂の本質なのだろうか…
はっと、皇太子マサルの立場を察して、目を見開いた。
「宙みたいな男が、とにかく世継ぎを作れって言われて、閉じ込められたら、魂の逃亡…の研究に没頭して不思議じゃないわ」
ケイは椅子に腰をおろして、深呼吸をした。
「はい。どの多元世界でもマサルは何かに挑戦する魂でした。わき目もふらず、結婚もせず。唯一、あなただけが彼を落とすのに成功した」
「落としてなんかいなかったのよ。結局のところ」
浮気しまくりだったんだもの。
ケイは気を落ち着けるように、私を見て無理に笑顔を作った。
「少なくともサラが皇子の関心を買ったことだけは確かです。さすがエミ様。目的は研究のためだとしても、サラを傍に起くことを望むかもしれません」
それでふたりを結婚させたとしても、ふたりは研究に明け暮れるばかりで、子供を作ろうとしないのではないだろうか。
宙は子供を作るか作らないかという議論さえしてくれなかった。買い物をしない男のくせに、コンドームだけはきっちりあいつが買ってきた。妙にコンドームの減りが激しいから浮気に気づいた。だいたい妻用と浮気用のコンドームくらい、別のを買えっての!
でも、そこまで面倒見きれないわよね。だって、私は元の世界に帰らなくちゃいけないんだから。
私は自分を戒め、口をつぐんだ。なんにでも、のめりこみすぎるのが私の悪い癖なのだ。
ケイは冷静沈着な顔に戻っている。
「いずれにしろ。サラが戻って来たら、見合いの首尾がどうだったかとともに、皇子の研究がどれほど実現の可能性があるかを確認いたします」
「そうね。無理だとわかっていても研究に没頭していれば、皇太子という立場に耐えられる、精神の逃げ道の意味もあるかもしれないわ」
「エミ様はやはりマサルの理解者ですね」
そう言われて、すごく嫌なものを飲み込まされた気になった。
「理解しても、あいつと夫婦でいることは無理だから!」
そのとき、ケイが目をつむり、しばらく静かになった。まるで魂が抜けたマネキンのように無表情だ。彼は目をつむったまま、口を開いた。
「エミ様。そちらの世界に行かねばなりません。ここには、そちらの世界の私が来ます。くわしくは彼にお聞きください。すぐ戻ります」
「え?」
なんだかわからないうちに、ケイが目を開けると、表情が今までと違う。
「あ、君が佐倉枝見さん?」
「え?」
「僕は
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