第17話 作戦その一、春の遠足・野外調理作戦(その2)

そして遠足当日。

俺たちは観光バスに乗って千葉県にある観光牧場に向かった。

内容は……まぁよくある観光牧場だ。

愛華が文句を言っていた通り、小学生の遠足にはピッタリだろう。


とは言いつつアスレチックや乗馬体験、巨大迷路など、俺たちもそれなりに楽しんだ。


午前11時から昼食の準備を始める。

なおカレー作りはAからDまでの四つの班に分けた。

一つの班に十人ずつだ。

俺と山原はA班、水野と凛はB班、樹里はC班、愛華がD班と、それなりにバラけた配置になる。

まぁくじ引きの結果だからな。


俺の班では女子五人がカレーの味付け、男子三人が野菜を洗ったり肉を切ったりと下処理だ。

俺と山原は十人分の米として、全部で八合の米をといだ。

その最中に山原が話しかけて来る。


「それにしても意外だったよ」


「何がだ?」


「音也が『班は男女混合にしよう』って言った事がさ」


「それが意外な事か?」


山原が俺を見る。


「今までの音也なら『女子が入るとうるさそうだから、班は男女別がいい』って言いそうだと思ったんだ。それが逆に『力仕事もありそうだから男女混合の方がいい』って言い出すなんてな」


俺はそんな風にみんなから思われていたのか?

苦笑しながら答える。


「男女別々でも良かったんだが、そうしたら俺たちはレトルトカレーになりそうな気がしたんだよ。そうしたらまた女子連中が影で色々と言いそうだからな」


これは事前に考えておいた、山原や水野に聞かれた時の言い訳だ。

樹里との『クラスの男女仲直り作戦』については、今の段階では二人にも言えない。

それを聞いて山原も笑う。


「なるほどな、そういう事か。確かにその可能性は高いかもな。レトルトなら失敗はないしタイパがいいもんな。でもそれで女子が何か言うってのもアリそうだ」


俺は頷きながら、といだ米の水を流した。

米も八合となると、それなりに大変だ。

鍋にとぎ終わった米と水を入れ、それを抱える。


「でもさ、意外だったのはそれだけじゃないんだ」


山原が再び口を開く。


「って言うと?」


「音也が『男女混合班にしよう』って言いだした時、樹里が反対しなかった事だよ」


「……」


「樹里ならさ、『男子と一緒なんて絶対に嫌だ。ヤル気がない人間が一緒だとモチベーションが下がる』とか言いそうだろ」


俺は再び苦笑いせずにはいられなかった。

確かに樹里が言いそうな言葉だ。


「実際、男女混合班の話が出た時、女子の一部は怪訝な顔をしていたしな。樹里が賛成しなかったら、話はまとまらなかっただろうな」


その通りだ。

樹里が男女混合班に賛成したからこそ、話はすんなりと決まったのだ。


「アイツも男子がいた方がメリットがあるって考えたんじゃないか? こうして力仕事や下処理とかは俺たちがやっているんだし」


「そうなんだろうけど……最近の樹里って、なんか以前とは違う感じがするんだよな」


「違う感じって言うと?」


俺が問いかけると、山原はC班の調理場に目を向けた。

ちょうど樹里がカレーのルーを入れている所だ。


「前はもっとギスギスしてたって言うか、俺たちに対して敵対的な感じだったと思うんだ。男が言う事は全否定みたいな」


「……」


「でも最近はちょっと柔らかみが出て来たって言うか、他の女子が俺たちの悪口を言っても逆にそれを宥めるような感じなんだよな」


「まぁそれはいい事だろ」


「音也、樹里と何かあったのか?」


あまりに突然の問いかけに、俺の方がビックリした。


「な、なんだよ。いきなり。何を根拠にそう思うんだよ」


若干、俺の声が上ずった気がする。

山原は何か感づいたのだろうか?


「いや、樹里の態度が柔らかくなったのと、音也が女子に甘くなったのが、同じタイミングのような気がしてさ。二人で話でもつけたのかと思ったんだ」


(山原、けっこう鋭いんだな)


俺も近い内に『クラスの男女仲直り作戦』について、二人には話すつもりだった。

みんなの協力がないと出来ない事だからな。

しかしそれには樹里の承諾が必要だし、女子側ともタイミングを合わせる必要がある。

コッチが仲直りしようとしているのに向こうがそれを拒絶した場合、今まで以上に関係が悪くなってしまう。

特に山原と愛華、水野と凛の関係を、ある程度は改善させる事が必要だ。


「俺たちだっていつもいがみ合っている訳じゃないさ。無視できる所は無視すればいいし、協力できる所は協力する。もう高二だしな」


俺はそれとなく話を逸らせた。


「そうだな。平穏無事が一番だもんな。それにああして大人しくしてくれていると、樹里って本当に可愛いと思えるしな。アイツならマジでアイドルとかになれるんじゃないか?」


俺は横目で山原を見る。

何となく山原の目尻が下がっているようだ。


「樹里はアイドルなんてやる性格じゃないだろ。根は真面目なヤツだから」


「そりゃそうか。そもそも樹里がアイドルになっても、ファンにゴマを擦るとか出来なそうだもんな」


「確かに。ヘタに手を握られたら金切り声で罵倒しそうだよ」


俺も山原も二人で笑う。

この調子なら、今日の作戦は上手く行くんじゃないか?



……そう思っていたのは甘かった。



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この続きは、今日の夜18時頃、公開予定です。

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