007 クレオちゃんと僧侶の杖

俺の身体は空中でいったん停止し、ホバリング中のヘリのように湯船の外にゆっくりと降りた。


も、もしかして念動力のスキルが目覚めたのでは!?

……と思ったのはヌカ喜びだった。


脱衣所を見ると、バスタオルを体に巻いたさっきの子が、僧侶の杖をこちらに向けている。


光がその先から出て、俺の身体へと続いていた。

どうやら彼女に助けられたようだ。命の恩人だ。


エリナがお風呂場に来て、俺を拾い上げた。

「ごめんねゴウちゃん。勢いあまってつい投げちゃった」

「ほんとひどいぞ! あのお姉ちゃんがいなかったら、危うく死ぬとこだったよ」


サビると本当に死ぬのかは正直よくわからない。


しかし銃なので、水に落ちたら完全分解やオーバーホールが必要になるだろう。

その間の何日かはエリナを守れなくなる。

今の俺には自分の命よりそっちのほうが心配だった。


「……あ、あぶないところを助けていただき、ありがとうございましたっ!」

エリナが女の子に頭を下げる。

この子は妙に礼儀正しいな。


「いえいえ、わた……いや、僕が男湯にいたのが悪いので……。こちらこそすみません」

女の子も頭を下げた。


その瞬間、バスタオルがはらりと落ち、すっきり控えめな裸身があらわになった。

「きゃっ」と叫んで女の子が胸を隠す。

次の瞬間、俺はエリナの手で再び空中に飛んだ。


  ***


「すみません。すみません。ホントに何度もすみません」

エリナがペコペコと謝っている。


飛ばされた俺は、再び女の子に魔法で助けられたのだった。二度目の命の恩人だ。


二人は着替えを済ませ、脱衣所の外の休憩室に腰かけている。


「でも、なんで男湯なんかに入ってたんですか?」

エリナが当然すぎる質問をした。


「それは……。詳しくは話せないんですが、僕には『オトコ』でいないといけない理由がありまして……」

「……?」


「僕が女だってことは、ここだけの秘密にしておいてほしいんですが……」

「うんいいよ。ねぇ、ゴウちゃん?」

「かまわんよ。なにしろ命の恩人だしな」


「ところで、さっきからしゃべっている男の人の声はこの……」

「うん! 銃の『ゴウちゃん』だよぅ」


「しゃべれる魔導具ですね。僕もむかし旅をしてたころ、ルフト地方で見かけたことがあります。彼はどの魔道士が作った物ですか?」

「違うよー。この銃はお父さんの形見でねー、ゴウちゃんは異世界から来て銃に乗り移ったの」

うわ、バカ、また全部バラしちゃったよ。


「そうですか。不思議なご縁ですね……。あ、ちなみにその方は僕が服を脱ぐ前に止めてくれたんです。だから責めないであげてくださいね」

「え⁉ そうだったんだ。ごめんねゴウちゃん」

「わかればいいけど……もう投げるなよ?」

「うん。それにしてもゴウちゃん、意外と紳士だったのね」

「意外じゃない。俺はいつだって紳士だぞ」

「うふふ……。えらい、えらい」

エリナが俺をなでなでした。くすぐったい。


「あ、自己紹介がまだでしたね。僕の名前はクレオ=ボーデンと言います。よろしく」

男みたいな言葉づかいだが、中身は女の子なんだよな。


「エリナです。よろしくお願いします」

エリナがペコリと頭を下げた。


「あなたたち、そろそろ会議室に集合してくれるー? 今からいろいろ説明するから」

書類の束を持ったカルメンさんが俺たちを呼びに来た。


「あなたたち、もう仲良くなったのね。ちょうどよかったわ」


俺たちはカルメンさんの後を追って会議室に向かう。

クレオも俺たちと一緒についてきた。彼女も今回の話の参加者なのだろう。


長い廊下を歩き、突きあたりの会議室についた。

そこにはすでに、二人の人物が待っていた。

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