005 勝負のゆくえ

「……なんと60点満点‼ パーフェクトです‼」


――わぁぁぁああああああああああ――

会場全体がこれまでに無い熱狂でわき返った。


「満点が出たのでここで自動的に大会終了となります。優勝者は、さすらいのアヴェンジャーさん‼ みなさま盛大な拍手を!」


会場じゅうの観客が拍手と声援を送ってくれた。

「ちっこいのにやるじゃねぇか!」

「アヴェンジャー、かっこいいぜ!」


エリナが照れ照れの様子で拍手にこたえる。

「でへ、でへへ……。えへへへ……」


仮面の下は相当ゆるんだ顔になってるだろう。


表彰式が行われ、俺たちは賞金をゲットした。

「いいぞ! ちびっこヒーロー!」

「石仮面ちゃん、かわいいー」

「またどっかで、その腕を見せてくれよな!」

俺たちは、どうやら観客の心までもつかんでしまったようだ。


  ***


表彰後の懇親会をさっさと抜け出して、エリナと俺は街外れの橋のたもとで休憩していた。


皮袋から金貨を取り出してエリナが数える。

「1、2、3……。あぁ~これだけあればスファラさんのお店で高級ケーキを食べ放題……」

「バカ。そんなことしてたら10万ボルがすぐなくなっちゃうだろ。まずは宿屋だ宿屋」

「えー」


「でも……スゴいねぇ!〈銃〉さん!」

「うん?」


「あんなにぱぱぱぱぱーんって連続で撃って、ぜーんぶ当てちゃうなんて!」

「ふっふっふー。あんなの余裕余裕」

「〈銃〉さんのこと、疑っててごめんねー」

「わかればいいさ」


スキルを使えばある程度うまくいくとは思っていたが、パーフェクトを狙える確証まではなかったので、あの結果には正直俺も驚いていた。


「でもすっごい‼ ホントにすっごいよぉ‼」

エリナの興奮はおさまらず、その後もしばらくすっごいすっごいを連発していた。


「あれだな……でも」

「うん?」

「エリナの射撃の姿勢もよかったよ。落ち着いた後は体幹にブレがなくビシーッと決まってた」

「でへっ、そうかなあ?……でへへへ……」


エリナの顔がゆるゆるになっている。

あのとき仮面の下はこうなってたのか。


空がそろそろ茜色に染まりかけてきた。


「エリナ、今日の宿を探そう」

「うん」


俺たちは宿屋が集まっている通りに出た。


「宿屋、宿屋っとー♪」

「とにかくできるだけ安いとこな」

「うん……。わ!ここすごい!露天風呂にマッサージ付きで高級料理も食べ放題だって」

「いやそれ、一番ダメなヤツー」


エリナがフラフラと入口に引き寄せられていく。

あかーん! 誰か止めてー!!


そのときエリナの肩を、誰かが後ろからチョンチョンとつついた。


「見つけたわよぅ、アヴェンジャーちゃーん」


振り返ると、そこに一人の女性がいた。

ストレートの黒髪を後ろでまとめている。

顔立ちはととのっていて知的な感じがするが、目元のほくろが色っぽい。

スタイルもボン・キュッ・ボンだが、化粧っ気は無く服装は地味だ。


「懇親会から急にいなくなったんで、あわてて探したわよー。でも家出娘みたいに大きなリュックを持ってたし、ここに来れば会えると思ってたわ」


「誰?」「だれ?」

俺とエリナは顔を見合わせた。


もしかして高利貸しの関係者か?

だとしたら早く逃げないと……。


「うふん。つれないわねぇ。もう忘れたのー?」


女性はそう言うと自分の服の首元を引っぱった。


すき間からのぞくのは形の良い大きな乳房。

そこに乗ったひかえめな桜色の乳首は……。


「きょ!曲撃ち団のナイフのお姉さん‼」

「正解!」

「いやおっぱいで人物ヒトを識別すなぁーっ‼」

エリナが俺をポカポカなぐる。


「ところで、さっき男の人の声がしたみたいだけど……?」


しまった!

今までエリナにしか聞こえないよう念話の範囲を調節してたのに、つい心の声が漏れてしまった。

色仕掛けで油断させに来るとは……恐るべし!


このピンチにエリナの目がグルグルし始めた。


「ち、ちがうんですぅ‼ こ、これはズルとか不正とかじゃなくって、異世界から来たお父さんの銃が自分でしゃべったり撃ったりできるようになってー……」おい、全部バラすな。

「へぇー、そうなんだー」

「おおお、お願いです! 賞金没収とかにはしないでください‼」

「しないわよ」

「こここ、このお金がなくなったら、わたしたち明日からどーやって生きてったらいいのか……」

「だからぁ、しーなーいーわーよ、って」

「……ふぇ?」


エリナが少し落ち着きを取り戻した。


「実はね。あなたたちの腕を見込んで、ちょっと頼みたいことがあるの」

「ふぇえ?」


「ここで話すのもなんだから、あたしたちの泊まっている宿に来ない?」


エリナの目がキラーンと光った。

「そこ……、露天風呂はありますか?」

「いちおう大浴場に露天風呂がついてるわよ」

「行くー! 行きますっ‼」

「おい!」

「宿はこっちね」

エリナがお姉さんの後ろをついていく。


「おっ風呂♪ おっ風呂♪」

「知らないヒトにホイホイついてったらいけないよ、ってお父さんに言われなかったか?」

「知らないヒトじゃないもーん、もう知ってるヒトだもーん」

「いや、いま会ったばっかやろがい」

「あなたたち、ほーんと仲がいいのねぇ」

「ちっ、ちがいます‼ わたしと〈銃〉さんはまだそんな関係じゃ……」

エリナの顔が真っ赤になる。


「あらあら、そういう意味じゃないのよー。ちなみにアナタは〈銃〉さんって呼ばれてるの? 名前はまだないの?」

「えー? そういえば聞いてなかった。ごめんね。〈銃〉さんは元の世界ではなんて名前だったの?」

「シバザキ・ゴウ、だな。ゴウが名前でシバザキが名字だ」

「シバ……難しい名前だねぇ。ゴウちゃんでいい?」

「ゴウちゃん……。まあそれでいいよ」

ちゃん付けで呼ばれるなんて何年、いや何十年ぶりだろう。

くすぐったい気持ちはあるが、エリナからそう呼ばれるのは悪くなかった。


「ああ、あたしも自己紹介がまだだったわね……。曲撃ち団『メキサコ・ヒーローズ』の副団長、カルメーラ・プディングよ。『カルメンさん』って呼んでちょうだい」

プディングか……。いい名前だ。

その名の通り、おっぱいがプリンプリン物語だ。


「わ、わたしはエリナリア・パントラインですっ。『エリナちゃん』って呼んでください」

エリナも負けずに自己紹介を返す。


その名前を耳にしたカルメンさんの顔がわずかにくもったのを、俺は見逃さなかった。

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