第15話 魔王の出座要請


 私、『謀略のアウレール』とケイディの間に割り込んで口を開いた。

「やっぱり、現魔王も話に加わって欲しいわ。

 それ次第なところが多すぎる。平和のための話し合いも、侵略してくる深奥の魔界への対処もなにも決められない。それに、私が元魔王に魔法を返したいと思っても、現魔王が返さないで欲しいっていう可能性もなくはないでしょ。

 いろいろ考えたんだけど、やっぱり今の魔界は今の魔王の考えが優先されるべきだと思うの。新旧魔王の魔界内乱の引き金を、私が引いちゃうのは嫌よ。

 だから、『謀略のアウレール』、私たちを魔王城に案内しなさい」


 私の言葉に、アウレールは首を横に振った。

「それは無理だろう。勇者一行は魔王城に入るにあたり、武装解除に応じるか?

 でなければ、我々にとってはあまりに危険過ぎる。そもそもだが……」

 そう言って、アウレールはケイディを見やった。


「その者の持っている武器がどのようなものかさえ我々にはわからぬし、そこの荷物を積んだ魔術ではなく動く2匹の生き物を模したものも、我々には理解しがたいぞ。それらを無条件で城内に導き入れるほど、我々は愚かでも豪胆でもない」

 なんかさ、言っていることがびっくりするほど正直だよね、『謀略のアウレール』。話の筋があまりに真っ直ぐで虚飾がない。

 やっぱり、『愛と信用のアウレール』に改名すればいいのに。


「じゃあさ、現の魔王様にここに来てもらうことはできない?」

「約束はできない。だが、魔王様にご出座いただけるようにしたいとは思う。しばらくの間、ここで待っていてもらいたい」

 ……まぁ、仕方ないか。

 私、鷹揚に頷いてみせた。ちょっとは勇者っぽく、偉そうに見えたかな?


 上将ワイバーン『謀略のアウレール』は一声あげると、大きく羽ばたいて飛び去っていった。で、その声に、後ろから押し寄せていたスライム軍団は一気にだらしない感じになった。たぶん、待機命令だったんだろうね。


 ぷよんぷよんしていたスライムたち、みんな、でれんって地面に伸びちゃったんだ。で、ざわざわと私語が始まったけど、なかなか興味深い。

 きいきいと高い声の「……家計が」とか「教育費もままならず」とか、なかなかに生活感あふれる単語が聞こえてくる。魔界の経済ってどうなっているんだろうねぇ。今日の出動で、皆さん、魔王から特別手当とかがもらえるんでしょうかねぇ。

 まぁ、スライムだし、服飾費はあまり掛からない生活してそうだよね。


 戦士と武闘家も腰を下ろした。だけど、油断はしていないのは一目でわかる。でれんでれんのスライムたちから目を逸らしていないし、2人で交互に空も含めてあちこちに視線を飛ばしている。賢者は杖を抱いてなんかひたすらに考えている。


 ケイディも、まったく気を抜いていない。相変わらず相棒の銃を手に、油断なく視線をあちこちに飛ばしている。

 そのケイディに私は聞いた。

「ねぇ、ケイディ。核の脅しは魔界では通用しないのかな?」

 ケイディは答える代わりに、無言で首を振った。


「それって、通用するって意味? それとも通用しないって意味?」

 私が重ねて聞くと、ケイディはぶっきらぼうに「前だ」って言った。

 ……通用するんだね。


「だが、『謀略のアウレール』の言葉も正しいぞ」

 と、これは元魔王の辺見くん。

 いつの間にか畝の底に飛び降りて、ここまで戻って来たんだ。

「地球でのやり方がそのまま無条件に流用可能とは、さすがに考えてはいない。だが、考えの基本は活かせるはずだ」

「ふむ」

 ケイディの言葉に、元魔王と私は図らずも声を揃えて相槌を打ってしまった。これは期待の裏返しだ。

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