その頃、ミツキは…… 1

ヤヤメさんとの配信を終え、意識が現実へと戻ってくる。


はぁ、これ明日の学校が怖いな……。

『イザヨイが配信に出てた』とか言って、話題になるに決まっている。


……しばらくは『イザヨイ』でのログインは控えるか……。



と、VRゴーグルを外す直前……一件のメッセージに気付く。

差出人は『ミツキ』から、『センコウ』へのたった一言のメッセージだった。



    ———『助けて』———



その一言で、俺が駆けつけるには充分すぎる。

アカウントを切り替え、『センコウ』でログインする。メッセージは今から数分前、今ならまだ間に合うはず!



        ♢♢♢♢



「この辺りに居るはずだけど……」



帰宅後、SWOにログインした燈瑠あかる、改め『ミツキ』は、友人との待ち合わせの場所に来ていた。クラスメイトである瑠璃亜るりあちゃんと世羅せらちゃんに誘われ、今日は千紘ちひろとは別行動でゲームをする約束をしていたのだ。


探すこと数分。


何処か見たことあるようなアバターの二人組を見つけたミツキは、パァッと明るい表情を見せて駆け寄っていく。



「二人とも、お待たせ!」


「あっ! やっほー!」


「あかるん……じゃなかった、ミツキちゃんね! SWOでも可愛い!」


「えっと……『ルリア』ちゃんと『セーラ』ちゃんね。服装とか髪色が変わると印象変わるね! というかルリアちゃんに猫耳ついてる!」


「えへへ、良いでしょ? 猫人族にしてみたんだよ!」


「ちなみに私は狼の獣人にしてみたわ。そういうミツキちゃんは……エルフかな?」


「そうだよ! ファンタジーと言えばエルフだもんね!」


「顔とか全然変わってないのに、すっごいエルフ感がある不思議……素材がいいからトレースアバターでもこんなに可愛いんだね」


「えへへ……ちょっと恥ずかしいけどね。そういう二人だって、見た目あんまり変えてないよね?」


「あんまり弄って変な風になるのも嫌だしねぇ」


「そんな風に言えるの、ルリアちゃんが可愛いからだよ?」



合流してしばらくは、そんな風にガールズトークを繰り広げる。

徐々に周囲のプレイヤーが興味本位で眺める視線を感じるようになり、一先ずその場を離れ、歩きながら打ち合わせをすることにした。



「じゃ、最初はミツキちゃんが次の街に行けるようにすればいいんだよね?」


「うん! でも、私全然ボスのこととか分かってないけど……」


「大丈夫! 私たちもそれなりにこのゲームやってるから、2体目のエリアボスなら簡単に突破できるわよ」



第二の街【ヘリオール】から第三の街【リトリム】に向かう途中には巨大な谷があり、そこにかかる橋を渡らなければ到達できないようになっている。


が、その場所にはオーガの巣が近くにあり、【リトリム】に向かうものは橋を塞いでいるオーガを倒さなければならない。


それが、エリアボス『ジェネラル・オーガ』だ。



名前こそ強そうだけど、所詮は『グリーン・トロール』に続く第二のエリアボス。エンジョイ勢とはいえ半年以上SWOをプレイしているルリアとセーラにとっては余裕の相手だ。



「その前に、ミツキちゃんのお手並みを拝見しないとね!」



ルリアがそう言ったちょうどその時、三人の前に現れるモンスターが一匹。浅黒い肌と低い背、大きな口から覗く牙を見れば、それがゴブリンであることが分かる。


ただ普通のゴブリンではないのは、そのモンスターが手に剣を握っている点だ。



『ゴブリン・ソルジャー』———それがそのモンスターの名前だ。



「だ、大丈夫……たぶん……」


「本当? 無理そうだったら私たちも手伝うけど……」


「ううん、私も千紘ちひろに色々教えてもらったもん。一人で大丈夫だからね! 【アトリビュート・コンバート】!」



ミツキが抜いた『空の器』に、緑色の風がまとわりつく。ルリアとセーラが、おおっと感嘆の声を漏らすのと、ゴブリン・ソルジャーが襲い掛かったのは同時だった。


確かに何度も戦闘をして慣れてきたけど、怖いことには変わりない。それに、今はセンコウも居ないんだから……。


でも、怖がってばかりいてもダメだ。

教えてもらったことを守れば、絶対にいける!



「グギャギャギャギャッ!」


「ふっ……!」



横に飛んでゴブリン・ソルジャーの振り下ろしを躱し、隙を突いて胴体を斬りつける。クリティカルとはならなかったものの、弱点属性補正により、決して少なくないダメージエフェクトが弾ける。


それを見ても、ミツキは無理に攻めようとはしない。

センコウのように相手の動きを先読みして、戦いを有利に運ぶような器用なことはできない。


だからこそ慎重に、そして確実に———



「躱して、斬る!」


「ギャギャギャッ!」



ゴブリン・ソルジャーの剣が地面を穿ち、その隙を突いてミツキの剣がゴブリン・ソルジャーを襲う。ダメージを受けて後ずさるゴブリン・ソルジャーにも深追いはせず、動きをよく観察して対処する。


それは、見事な『カウンター戦法』であった。



そんな攻防を続けること数分。

ミツキの【パワーレイド】がゴブリン・ソルジャーの胸を捉え、そのHPを削り切る。


ボスでもレアでもない普通のモンスターにしては時間がかかった方だ。

だがミツキは、二人の目から見ても全く危なげなくゴブリン・ソルジャーを討伐してしまった。



「「おぉ~~っ」」


「っ、ふぅ……どう? 完璧じゃない!?」


「ミツキちゃんって、始めてまだ数日だよね? 上達早すぎん?」


「しかも『空の器』持ってるし、風属性の強化? ミツキちゃんは魔法剣士だから、もしかして千紘ちひろが?」


「そうだよ~。千紘ちひろは鍛冶師だから、グリーン・トロールに挑むときに強化してくれたんだよね」


「はぇ~……戦い方と言い、白狐谷しらこやもいい仕事するじゃん」


「いいな~、私も千紘ちひろお兄ちゃんに教えてもらいたい」



ルリアの呟きに、二人の視線が集まる。



「ずっと気になってたんだけどさ、なんでルリアって千紘ちひろのこと『お兄ちゃん』って呼んでるの? そんな仲だっけ」


「えー、だって『お兄ちゃん』って感じしない? ミツキちゃんとのやり取り見てるとさ」


「まぁ、それは分かるけど」


「私の方が誕生日早いんだけどなぁ……」


「だから、ミツキちゃんいいな~って」


「ルリアって、結構白狐谷しらこやに気がある?」


「好きだよ?」


「「っ!?」」



ルリアの返答に、二人がぎょっとした視線を向ける。

まさかそんなにあっさり認めるとは思わなかったのだ。


これには恋バナ好きなセーラも驚きを隠しきれず、特にミツキの狼狽は顕著なものだ。



「え、やっ……ダメッ」


「あー……なんで白狐谷しらこや?」


「私もあんなお兄ちゃん欲しかったな~って。あ、別にそういう関係になりたいだとか、ミツキちゃんから奪おうとか思ってないからね! ちょっと甘えてるだけ!」


「……『ラブ』じゃなくて、どっちかというと『ライク』的な?」


「そうそれ!」


「だって、ミツキ。よかったね」



セーラの補足を聞いて、見るからに安堵した表情を浮かべるミツキ。

それほどだったのか……。


でも『ライク』だとして……積極的に手を繋ぎに行くような距離感が『ライク』のそれだったら、ルリアって結構ヤバい奴……?



今日の朝、教室でルリアが千紘ちひろの手をにぎにぎしていたのを思い出し……ルリアとミツキのためにと、その言葉をそっと胸の奥にしまうセーラであった。

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