第16話

僕、日辻 慶太郎、本名星野 慶太(ほしの けいた)にはお母さんがいなかった。保育園のころから友達に何回も聞かれた。「どうしてお母さんいないの?」と。僕だって分からなかった。


ただ、一つだけ間違いないことがある。物心ついた時から、僕はお母さんにあったことがない。お母さんと呼べるような人から愛情をもらったことがなかった。


どうしても聞きたくなって、ある日お父さんに聞いてみた。お父さんは何も言わなかった。この時、ほんの僅かな瞬間だったが、理解した。これは聞いてはいけないことなのだ。いつか僕が大人になったら聞こう。そう決意した。


僕のお父さんは星野 正二(ほしの しょうじ)という名前だった。近所の人たちも、会社の人たちも、みんなお父さんのことを尊敬していた。何事も嘘をつかずに正直に取り組む。そんな素晴らしい人間だった。名前の通りの人間だった。


お父さんがどんな仕事をしていたのかは知らなかった。単純に興味がなかっただけで、決してやましい仕事をしていたわけではない。もっとも、それを知るのはあまりにも手遅れになってからだった。昔から分かっていたのは、とにかく稼げる仕事だということぐらいだ。


僕が将来のために有名な大学に行きたい、そう話した時も、何も否定せずに僕のしたいようにさせてくれた。そんなお父さんのために、勉強を頑張った。何がなんでも大学に行くと自分に言い聞かせて、熱心に勉強した。


その末に合格したが、僕が行く大学は実家からは遠く、一人暮らしを余儀なくされた。寂しい気持ちでいっぱいだったが、お父さんは「元気でな、慶太!」と笑顔で見送ってくれた。そして、僕は「行ってきます、お父さん」と言った。これが、目を合わせてした最後の会話になった。


大学に通い始めて数ヶ月ほどたったある日、ニュースを見ていたところ、あるニュースが入ってきた。目を、耳を疑った。


アナウンサー「昨日発見されたリンチ死体は、星野 正二さんのものと判明しました。警察は、他の事件との関連を調査しており……」


お父さんが死んだ?それもリンチ死体となって?いやいや、なんかの間違いだ。淡い希望を抱いて、お父さんに電話をかけた。出なかった。嘘なんかではない。本当にお父さんは死んだんだ。でもどうして?なんで?なんでお父さんが?頭が真っ白になってしまった。


数日後、実家に帰った。特に荒んだ生活をしていたというわけではなかった。それがある確証をもたらした。これは自殺なんかではない、誰かが殺したんだ。


そのまま家中を探し回った。その末に、あるものを発見した。お父さんが、SNSで誰かと会話をしていた形跡だ。それを読み解くと、ニュースの三日前に、誰かと待ち合わせをしていたのだ。


お父さんがメッセージを送った相手のアカウントを見てみた。そこにあったのは、天体観測サークルのメンバーだということと、女性だということだ。女性だということは、投稿されていた写真から判別した。それが受け入れがたいものだった。


慶太「この人…まさかお母さん!?なんでお父さんはお母さんと会ってんだ!?」


いや、驚くべきはそこではない。どうしてお父さんはこの人に殺されたんだ?


その真相を確かめるために、その天体観測サークルに入った。怪しまれないように、事件から長い時間が経ってから。なんとしても真相を知りたかったのだ。


天体観測サークルに入ってから数年後、僕が働き始めたころにメンバー全員で集まって飲みに行く機会があった。年上の人との付き合いだからと仕方なく参加したが、結果として、これが僕を殺人鬼にしたのだ。


正治「それにしてもなぁ」


酔いつぶれた蟹江が言った。


正治「あの時は俺たち凄かったよな」


花「ほんとよね〜。あんなあっさりお金が貰えたなんて」


智恵「あっさりじゃないでしょ。一人ぶち殺したんだし」


…………………え?


冬二「でも罪にはなってない。おかげで金に困らずに暮らせるからなぁ。感謝するぞぉ、早乙女ぇ」


奈緒子「………」


本当にこいつらがやったのか?しかも反省すらもしていないのか!?


そう思った途端に、全てがどうでも良くなった。もう、こいつらを殺すこと、死んで罪を償わせること、それしか考えられなかった。

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