第11話

死体についた傷跡について考えたところで、何かに気がついた。彼は、床に血で文字を書いていた。ダイイングメッセージというやつだ。蟹江さんの死体に向かう矢印とそこに書かれた牛の文字、そしてそこにさらに上向きの矢印にそこに付けられたバツのマークと卯の文字。


これを見た段階ではさっぱり分からなかった。何か思ったことがあるとすれば、漢字で書けたということは、もしかすると長い間意識が残っていたのかもしれないということぐらいだ。


他の人たちはメインコテージに集めたので、一旦そちらへ向かって、誰かしらに聞いてみようかと思った。そういうことで、残りの人まで集めてからメインコテージへ向かった。


呼べる人が全員集めところで、私は率直に話をした。


響「昼に解散してから今集まるまでの間に、弓木さんと蟹江さんが殺されました」


もはや驚く人などいなかった。ここにいなかったから察しがついたのだろう。


私は続けて、「蟹江さんのコテージに、ダイイングメッセージがありました。こんな感じなんですけど…」と、コテージの紙とペンを使って、実際に見たものと同じように書いてみた。


ただ、これを見せたところで、誰かが推理できるという都合のいいことは無かった。割と長いこと考えたのだが、結局「何かを伝えようとしたもの」という認識に留まってしまった。


ダイイングメッセージの推理を諦めたところで、早乙女さんがこんなことを言った。


奈緒子「今、連絡が来て、明日の朝には救助用のヘリコプターが来るそうです」


他の人たちは喜んだが、私は素直に喜べなかった。もし犯人がサイコパスだったときに、そのような危険人物を外に放つタイムリミットが迫ってしまったからだ。


朗報を聞いたところで、その時点で日も暮れそうになっていたので、ひとまず夕食にすることにした。今回は、空元気だったとはいえ、明るい感じの雰囲気を作ることができた。もし、今回の事件が無かったならば、今日はこんな感じで過ごせていたのかと思うと、寂しさみたいなものを感じた。


食事を済ませて片付けをしていたところ、こんな会話が聞こえた。


沙英「日辻くんなら、あのダイイングメッセージのこと分かるのでは?プログラマーなら、頭も良さそうですし」


慶太郎「いや、難しいですね。ああいうのは全く触れて来なかったので」


沙英「そうですか…」


航平「まぁ、こりゃ罰が当たったのかもな。あのときのことを止めなかった俺も悪いが、だとしてもあいつらは本当に犯してはならない罪を犯したんだからな」


犯人「自業自得、ですね」


一体なんだ?「犯してはならない罪」とは。もしかして、動機に関係しているのだろうか?だとしたら、犯人はあの人であっているのだろうか?


勝手に盗み聞きしただけだが、色々と考えさせられた。この会話のことを忘れないようにして、明日を迎えよう。そういう思いで残りの作業を終えた。


この日の夜は、疲れからかほとんどメインコテージに残った人はいなかった。残ったのは、私と早乙女さんの二人。気まずい。誰でもいいから来て欲しい。ずっと思っていた。


よく考えてみれば、今回の事件において、この人の存在は欠かせないものだ。この人が用意した場所で事件が起きて、この人が外部との連絡をできないようにした。ある意味では、犯人はこの人だと思う。できるならば、この人を犯人だとして一刻も早く解決したい。


そんなことを考ええていた私に向かって、彼女はいきなり口を開いた。


奈緒子「あのダイイングメッセージのこと、私、分かったかもしれません」


響「それ、本当ですか?」


私は疑いを向けた。単にこの人が信用できていないというのもあったが、それ以上に唐突なことだったからあまり考えずに言ってしまったというのが大きい。

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