第2話 現世と異世界の大気成分の差異
のそりと起き上がると、部屋中に満ちていた辛気臭さが私を迎えた。
うむ。いつも通りの不快感である。
この醸成されたなんとも言えぬ不快感は、部屋干しの洗濯物と、むさい男の体臭と、何週間も放置されたゴミ袋から放たれる悪臭が混ぜ合わさることで生まれる無形不愉快文化財だ。
放置していても体調が悪化するばかりなので、すぐに空気を入れ替えることをオススメする。
私はここ数日カーテンすら開けていなかった窓に近づき、換気をしようと試みた。
カーテンを開けると、本来ならば向かいの女子寮が見えるはずであったが、そこに広がっていたのは、人の手というものを一切感じられない鬱蒼した森林であった。
「ああ、本当に異世界に来たんだな」
と、私はちょっとばかし驚いた。
窓をガラリと開け、開けてから、「外気に有毒な気体などないよな?」という一抹の不安を抱いた。
が、流石に女神も一呼吸しただけで即死するような過酷な環境下に私を送り出しはしなかったらしい。
流れ込んできたのは、むしろ、神聖さすら感じる涼やかな空気であった。
私は、せっかくなので、鼻から大きく吸い込んだ。
森の匂いとでも言うのだろうか。生命の息吹を感じる、微かな甘い香りが、鼻孔を通って肺に至った。
気分が晴れやかになった私は、大きく伸びをして、異世界の空気を全身に浴びた。
「ふわあ」
と欠伸を一つして、部屋の中に向き直る。
「相変わらず、汚ぇな」
呟いてから、空気が完全に入れ替わるまで二度寝しようと思って、再び布団に潜り込んだ。
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