槙 知昭

アイスおごって下さいよ~

 FW陣の朝は早い。

 南雲さん、睦月、僕の三人は日曜以外、毎日朝のランニングを続けていた。

 特に土曜のランニングは自由度も高く、午後練が始まるまで公園で遊んだり、買い物に行ったりもした。

 最初は睦月のことを疎ましく思っていた南雲さんも丸くなったもんだ。

「学校までの往復、俺が勝ったらアイスおごって下さいよ~」

「しょうがねえな。ま、負けねえけどな」

「じゃあ今日も行きますか」

 ランニングをスタートした。

 アイスがかかっているからか南雲さんは、いつもよりハイペースだ。

 対する睦月は自分のペースを保っている。

 今までの睦月だったら南雲さんのペースにすぐに乗っかり、後半スタミナ不足でバテる。

 僕は二人の背中を見ながら一番後方で自分のペースを保っていた。

 復路、南雲さんのペースが少し落ちた。

 それを見計らった睦月がペースを上げる。

 抜かされた南雲さんが、意地で抜き返す。

 二人のデッドヒートを後方から見守る僕。

 ギリギリで睦月が勝って、南雲さんはアイスをおごることになった。

 睦月は最近、課題だったスタミナも付いてきている。

 努力した分、それが120%返ってくるのだ。

 それが羨ましくもある。きっと、こういう奴が将来プロになるんだと思う。


 僕達三人は登校前にコンビニに寄ってアイスを買った。

 僕の分もついでに、おごってもらおうとしたが「お前は俺に勝ってねえだろ」と言われ自腹でアイスを買う。

 コンビニでアイスを食べながら雑談をする。

「そういえば決勝戦のミーティング今日でしたね」

「ああ、そうだな」

「僕スタメンなんですかね」

「何だよ、一年にポジション奪われるかもって不安になってんのか?」

「ああ、ええ、まあ」

「大丈夫だって! FWは、この三人以外ありえない!」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど……」

「心配すんな。水瀬が槙以外を指名したら俺が抗議してやるよ。もうFW三人のチームワーク、連携は崩せないから変えるんじゃねえって」

「それは心強いですね」

 僕はアイスの棒をゴミ箱に捨て、三人で学校へ向かった。



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