元社畜美少女vtuberになる
なべたべたい
第1話 社畜からの卒業
「おい!八木!貴様かこのゴミみたいな資料を提出したのは!」
今現在窓から見える暗い夜空とは対照的に明るいとあるオフィスの一室で、よくキレているせいか頭頂部が少し寂しくなって来て、それを隠す様に不自然なカツラを被っている課長がいきなり複数の資料を手に取り、自席から立ち上がりわざわざ俺の席まで来て顔いっぱいに唾を飛ばしながら、その資料を顔面目掛けて投げつけて来た。
「も、申し訳ございません!」
そう叱りつけられた俺、八木六郎はいつもの癖でその投げつけられた資料を確認することなく、どうにか課長の機嫌を取ろうと直ぐに頭を下げた。
だがもちろんそんな事で課長の機嫌が良くなることはなく、その後も寝不足と課長の悪い滑舌のせいで何を言っているかは半分以上聞き取れなかったが、俺の人生観を全否定する様な暴言を1時間も浴びせ続けられ、俺はそれに対しても永遠と頭を下げ続けた。
もしそんな事が普通の会社で行われたならば、誰かが止めに入ったりするのかもしれないが、残念ながら俺の入った会社は俗に言うブラック企業だったらしく、そんな事にいちいち反応していると仕事が回らなくなってしまうので、周りの人間は俺と課長がいないかの様にそのまま仕事を続けた。
そうしてようやく課長の説教と言う名の八つ当たりが終わり、その渡された資料を見るとその資料には一切見覚えは無く、何ならこの資料は以前に課長がしていた気すらする。
だがそんな事を言ってしまうとまた課長の機嫌が悪くなり、時間の無駄だと思った俺はまだ大量に積まれている自分の仕事共にその資料の訂正作業も同時に行う事にした。
そんなこんなで昨日の仕事が終わったのは朝の4時で、出社までにまだ後3時間もある為、一度会社を退社(もちろん退勤自体は19時にしたことになっている)して、近くのコンビニで適当におにぎりを2個と水を買うと、その2つを持って漫画喫茶へと向かった。
そうして満喫に着くとついた個室で推しの配信のアーカイブを垂れ流しながら、味のしないおにぎりを口に入れそれを水で胃の中に流し込んだ。
「……………………はぁ。何で俺こんな事やってるんだろ」
始まりは高校3年の頃だった、元々は周り同様に自分が行けるそこそこの大学に入って4年間ダラダラ遊んで、それから適当にそこそこ企業に就職するつもりだったのだが、小さい頃から絵を描くのが好きでそれを偶々当時の進路の先生に知られて、「お前このまま適当な大学行くの勿体なくねぇか?そんなに絵が上手いならデザイン関係の大学とか、そう言う企業に入った方が絶対にいいぞ!」と言われ、もちろん誰にも言った事は無かったが、これでもツイッターのフォロワーも当時2万5千人も居た俺は、何やかんやで絵に自信がありその進路の先生に言われた事もあり、そのままの勢いで近くのデザイン会社に就職した。
まさかその会社が当時考えもしなかった程の超ブラック企業とは知らずに……
入社してからも仕事と並行してツイッターにイラストを上げ続け、その頃はまだ俺が試用期間だった事もあり先輩や俺の直属の上司である現課長は優しく、更にはツイッターに投稿したイラストがバズりフォロワーが一気に5万人を突破し、俺は人生の最高潮を迎えていた。
だがそれも俺の半年と言う普通よりは少し長めの試用期間の終わりと同時に終了した。
それまでは朝7時に出社し、偶に残業はあれどほとんど19時には退勤出来ていたのだが、試用期間が終わったのと同時に今までの3倍はあろう仕事を押し付けられ、それが全部終わるまで帰る事出来なくなり、結局退勤するのは深夜の3〜5時辺りになり、そんなに残業をしているのに何故か給料は以前よりも5万円程減り、趣味で絵を描く暇もなくなりツイッターにイラストを投稿する事が出来なくなり、ようやく最近少し仕事に慣れて来て少しのプライベート時間を確保出来る様になり、久しぶりに趣味のイラストをツイッターに投稿しようとした所、何故か俺のアカウントは1年程前にBANされており、更にはネットでは俺の死亡説が浮上しており、それを見た俺はイラストを描く気力を無くし、今までは暇さえあればイラストを描いていたが、今は生きる気力すらほとんど無くなり、今の様にユーチューブで適当な動画を垂れ流しながら味のしないご飯を食べる様になった。
そんなゴミの様な生活をしている俺にも最近とある楽しみが出来た、それは数年前から出て来たvtuberと言うヤツだ。
ちょうどvtuberが盛り上がっている時期は仕事ばかりやっていた為若干波に乗り遅れてはいるが、それでもかわいい見た目の女の子が可愛い声で話しているのを見るだけで、何とかまた明日も頑張ろうと言う気持ちが湧き出てくるのだ。
特に俺の最近の推しは……
「!?」
――――――――
『魂のみっんな〜!おはハロ!ときめきプロジェクト3期生の椎名骸だよ〜』
:おはハロ
:こんな時間に大丈夫?
:骸ちゃん初の深夜配信?
:おはハロ
:おはハロ
:骸ちゃん今日も可愛いよ!
:おはハロ
:今日はどうしたの?
椎名骸とは人気vtuber事務所の1つでもあるときめきプロジェクトの新人vtuberの1人で、ときめきプロジェクトには自分の生前の記憶を探すために入った、黒髪ショートの色白で顔には斜めに縫い目のあるロリゾンビっ子なのだ。
俺が椎名骸を知ったのは本当に偶々で、ちょうど俺のアカウントがBANされているのを知った時に初配信をしており、設定って言うのは分かっているんだがそれでも自分の生前、俺で言うところのツイッターアカウントがいきなり無くなり、心の中にポッカリ穴が空いた感じと話していたのに俺が勝手に共感して、それから時間がある度に椎名骸の配信のアーカイブを見ているうちに、椎名骸を始めとしたvtuber自体にもハマっていたのだった。
そして普段の配信時間が昼間から夜にかけての骸ちゃんと、深夜と言うか早朝にしか自由に使える時間が無い俺では時間が合わず、配信をリアタイしたりコメントをしたりなど出来ずにいたのだが、今!まさに今!何故だか分からないが骸ちゃんが急に何の事前告知無しにゲリラ配信を始めたのだ!
や、ヤバい!
めちゃくちゃ緊張する!
まさかリアタイ出来るとは思ってもみなかった俺の鼓動は、久しぶりに五月蝿いと感じる程にバクバクと大きな鼓動を鳴らした。
「こ、これって俺なんかがコメントしてもいいのかな?」
そんな事を言いながらも身体は正直で頭が悩んでいる間に、手が勝手に無意識のうちにコメントを書き込んでいた。
:初コメです。いつもは時間が合わなかったので初のリアタイです。それと骸ちゃん大好きです!
『そうなんだ初コメありがと!』
うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!
読まれた!俺のコメントが骸ちゃんに読まれた!
ま、まじか!ヤバいなんかめっちゃ変な汗が出て来た。
コメントが読まれたことに喜んだ八木はいきなり立ち上がると、一瞬立ち眩みを起こしながらも謎のシャドーボクシングをしたり、口元が気持ち悪いほどニヤついたり、体中から汗が大量に吹き出したりした。
「あ、ヤバい……気持ち悪くなって来た………………。」
さっき流し込んだ元おにぎりが胃から逆流して来そうになった為、八木は自分の口元と痩せ細った自分のお腹を"の"の字に摩りながらゆっくりと席に座り込んだ。
「けどまさか俺のコメントが骸ちゃんに読まれるとは…………」
やっぱ神様って居るんだな!
そう思った俺は特に神様には詳しく無いが、適当な神様に感謝の言葉を心の中で述べておいた。
『それで今日何だけど、久しぶりにマシュマロ見てたらめちゃくちゃ溜まってたから、そこから適当に選んでその質問や相談事に答えていきたいと思います。あ、もちろん今からマシュマロ送ってくれても大丈夫だよ』
:やった!
:俺今からマシュマロ送ってくる!
:まじか!
:ありがとう
:久しぶりの骸ちゃんのマシュマロ読みキタ!
:骸ちゃんの無いはずの記憶が呼び起こされるぞ!
『それでは1つ目は……』
マシュマロと言うのは、匿名でメッセージを送れるサイトで、その中にはさっき骸ちゃんが言っていた様な質問や相談をする様な相談マロや、マシュマロで1発芸をしたり笑える様なネタを投稿するネタマロ、そしてネタにならない様なつまらないネタマロや下ネタなどのクソマロなんかがある。
そしてそのマシュマロに俺も過去に1度だけマシュマロを投稿した事がある。
とは言ってもそれはガチで病んでた時に勢い任せに投稿してしまった物で、今の俺にとっては黒歴史以外の何物でも無い。
「まぁでも骸ちゃんみたいな人気vtuberにはいっぱいマシュマロ送られると思うし、そんな気にするものでも無いか……」
そんな訳でもう一つのおにぎりを口に頬張りながら、偶にコメントを書こうとしてはそれを消すという行為を何度か繰り返しているうちにあっという間に時間は過ぎ……
『それじゃあ次のマシュマロで最後にしようかな?』
:えー
:次こそは!
:やっぱりクソマロが多いねw
:もっとやって!
:楽しみ
:了解
『えっと何々?………………このマシュマロ凄いね』
:一体どんなマシュマロなんだ?
:凄い?
:ど下ネタとか?
:またクソマロかな?
:大丈夫?ヤバかったら飛ばしてもいいよ
『いやそんな変なのじゃ無いから大丈夫!それにこのマシュマロは刺さる人多いんじゃ無いかな?』
:もしかして厨二……
:どんなの?
:気になる
:骸ちゃん可愛い
:下ネタでは無いな
『それじゃあ読むね。「初めまして椎名骸様この度はこんなクソマロをお読みいただきありがとうございます。それで本題なのですが私は今現在デザイン関係の仕事をしていて、その仕事自体はそんなに苦では無いのですが、出勤が朝の7時で退勤するのが深夜の3時程の会社で、なのにも関わらず給料は雀の涙程で、過去に1度だけ複数人でやる様な大きな仕事を1人でこなした事があり、その仕事が良かったらしく先方から直々にお褒めの言葉を頂き、上層部から出世は確実と言われたのですが何故か自分では無く、全く関係ない上司が出世し、その代わりに自分は身に覚えのないミスで給料が減りました。そこでご相談なのですが、私はこの会社に火を放ってもよろしいでしょうか?あ、勿論冗談ですよ?」だって……』
:おお……
:これは真っ黒ですね
:これは同じ日本の事なのか?
:お、落ち着けこれは冗談だ
:わぁ
:笑えねぇ……
『まぁこの人が言うには冗談らしいんだけど、まずはその会社は辞めよう!ダメだよその会社は!いつもなら私も冗談でその会社に火を放てぇ!って言うけど、多分この人はそれを言っちゃうと本当にやりそうだから、言わないよ!それで…………そうだ!もしこのマシュマロを送ってくれた人がまだ骸の配信を見てたら、この会社を辞めてvtuberになろう!そして会社を辞める時はその出世した上司に一発ガツンと言っちゃおう!』
:そうだな!そんな会社辞めちまえ
:俺も会社辞めてvtuberになろっかなw
:頑張れよ!
:ヤバっ
:これがブラック……
:頑張ります。
「よしっ」
そう一言呟くと俺はカバンに入っているとある封筒を取り出し、それを強く握りしめると明日では無く今日の仕事に向けて眠りについた。
朝の6時半自分の勤めている会社のあるオフィスに着いた八木六郎は、今までの目の下に濃い隈をした死んだ魚の目では無く、濃い隈に何かをやっている様な若干焦点の合わないギラギラとした目つきで、普段は近寄る事もない社長室のあるエリアへとドタドタと大きな足音を立てて向かった。
その八木の異様な光景に周りの人間も一瞬気になり視線を向けるが、八木の向かっている方向を見てその要件を察し、今までの興味を何処へやったのか視線を自分のパソコンへと移すと、何事もなかったかの様に自分の仕事へと戻った。
そして社長室に着いた八木は力強くその扉をノックした。
そして返事を聞く間もなくその扉を力いっぱいに開け放った。
「社長!俺仕事辞めます!」
「お、おい君朝っぱらからいきなりなんだね?」
許可なくいきなり扉を開けられた挙句、いきなりの仕事辞める宣言をして退職届を勢いよく投げつけて来た八木に対して、そのヤクザと見間違える様な厳つい顔面に青筋を立てながら、少し怒気を含みこちら側を威圧する様に机に指をトントンとしながら話しかけて来た。
そんなバチクソ怖い社長に普段の八木ならば100%ビビり散らかしていたのだろうが、今の八木は無敵の人と化している為そんな脅し如きなんのそので、退職届に続けて鞄からクッソ分厚い茶封筒を1つ取り出し、今度は丁寧にそして少し荒々しく社長の目の前に叩きつけた。
「はい社長!これ今までの残業代や休日出勤手当の未払い分と、過去に1度も有給が取れなかった証拠です!もし直ぐに振り込んで貰えなかった場合はこの資料を持って労基に行って、裁判を起こす準備が出来ています!」
「君これはどう言う事だ?今まで仕事をさせてやった恩を……」
「うっさいはこのボケナス無能ゴリラがぁぁ!!!さっさと払うもん払わんかったらテメェの会社と人生がめちゃくちゃになるまで、何度も何度も何度も何度も……………………何度でも!!!裁判を起こしてやるからなぁ!分かったらさっさとしろよ!」
「お、おい!」
そうして言いたい事を言い切ると、その資料を回収してそのまま開け放たれた扉から堂々と、そして晴れやかな気分で俺は後方で何か喚いている社長を無視して飛び出した。
そして扉が開いていたからか俺と社長の会話が丸聞こえだったらしく、社内はいつもと違いザワザワと社員同士が話し合っていた。
その様子に内心笑いを堪えながら会社を後にしようとしていた所に、顔を茹蛸の様に真っ赤にして違和感のあるカツラを頭に付けている課長がコチラに近づいて来た。
「おいぃぃぃぃ!八木ぃぃぃ!お、おま、お前!いい今の話本当か?」
「今のとは?」
「貴様が辞めると言う話だぁぁ!!!!」
「あぁその事ですか?それがあなたに関係あるんですか?」
「八木ぃぃ!貴様に任せていた例の件どうするつもりだぁ?」
「……例の件?」
例の件って何のことだ?
正直課長の話は九分九厘無駄話とストレス解消の八つ当たりだった為、その殆どを右から左に聞き流していた為課長の言う例の件と言う話に一切の覚えがなかった。
そんな考え事している俺を見た課長は、勝手に馬鹿にされていると勘違いし俺を監視カメラの無い人目のつかない場所へと力尽くに引っ張っていった。
「八木貴様例の件をほっぽり出して逃げるつもりか?」
「いやあの課長例の件って何ですか?俺記憶に無いんですけど、いつも通り課長が無能で脳味噌が小さ過ぎてまた誰かと間違ってるのでは?」
「八木ぃぃ!貴様如き一般社員如きがこの課長でもある私に何だその態度は!訂正しろぉぉぉ!!!」
「はぁ……」
いや、あんたが出世したのって俺の功績を奪ったからだろ……
よくもまぁそれを本人の前で言えるな。
「課長唾飛ばさないでください。課長の無能菌が移ったらどうするんですか?」
「貴様ァァァァー!馬鹿にするのもいい加減にしろぉぉぉ!!!」
そう言って課長は右手に力を込めて勢いよくその右腕を振り上げた。
そしてそれと同時に俺の中に骸ちゃんの言葉が蘇った。
『そして会社を辞める時はその出世した上司に一発ガツンとイッちゃおう!』
「よしっ!」
そして俺はその骸ちゃんの言葉通りに課長同様に右手に力をこめると、課長の振り下ろして来た右手を避けるのと同時に、自分の右手を課長の顔面めがけて思いっきり振り上げた。
「しねぇこのクソ野郎がぁぁぁ!!!!!」
そして綺麗に入った俺のクロスカウンターを受けた課長は、頭に付けた分不相応な頭部装甲を空中にはためかせながら、白目を剥きそのまま力無く地面と口付けをした。
そうして少しスッキリした俺は最後に倒れている課長に、両手で中指を立ててから最後に誰にも今の現状を見られていない事を確認してから、念の為に手袋をしてから課長の顔面やその他ここに来るまでに触った場所を軽く拭き取りながら、俺と課長のやり取りを見ていた一部の社員1人1人にに満面の笑顔で1万円札を握らせて、そのままスキップをしながら会社を後にした。
そして後日会社から俺が提示していた金額よりも大体3倍程の金額の入金する代わりに、今回俺が集めた資料を破棄すると言う契約書を無事結ぶ事に成功した!
そうして俺はその日をもって社畜を卒業する事に成功した。
因みに俺が課長をぶん殴った件はどうしてか分からないが、一切の社内で話題にならなかったらしい。
そんな訳で大金を確保して自由の身になり、骸ちゃんの言っていた通りvtuberになろうとしたところで、俺は新たなる課題に俺はぶつかった……
「ヤバい俺男が描けねぇ……………………」
今まで1度も男性キャラを描いた事が無く、一応最低限男キャラは描けるには描けるのだがいくら描き直しても、その男キャラには一切の魅力が無く何度も何度もボツを出し、結局俺は…………
「うん!これは無理だな!」
諦めた
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