買い物難民
「え!どうゆう事!!」
「今月いっぱいってあまりにも急じゃない。これから買い物どうしよう!」
「ね、店員さんこれ本当なの?」
「本当ですよ、私達も数日前に聞いたんですよ、全員解雇されるんです。新しい仕事探さなといけなくて困ってるんですよ」
住宅団地に1件しかないスーパー。その玄関前の張り紙を見て大騒ぎになっていた。
『当店は、今月末をもって閉店いたします。皆様長らくのご愛顧ありがとうございました』と書かれてあった。
この住宅団地は開発されて40年ほど。アパートや一軒家が立ち並ぶ。だが山を削って開発したため袋小路のようになり抜け道すら無い。
入り口近くにコンビニはあるものの、生活必需品の調達はこのスーパーに頼っていた。バスは一応通ってはいるが本数が少ない。このスーパーが無くなるとバスでかなり離れたスーパーまで行かなくてはならないのが現状だ。店員が言っていたように団地内の雇用も担っていた。地域にはなくてはならない存在だったのだ。それが無くなる。住民は集まると「これからどうする?」と言い合った。
私は
「高野さん、このこと知ってる?」
「大平さんどうしたの?」
「スーパーが今月いっぱいで閉店するってみんな大騒ぎよ!」
「スーパーが閉店・・・」私には初耳だった。
「ね、お茶入れるわ。詳しく教えて」私は大平さんを家に招き入れた。
大平さんを居間に案内し、お茶をいれた。
「今日スーパーに行ったら張り紙がしてあって今月いっぱいで閉店するってことなのよ」
「閉店って、あそこそんなにはやってなかったっけ?」
「あそこ系列店でしょう。収支が悪いから切り捨てられることになったらしいわ。それでみんなこれから買い物どうしようかっていろいろ言ってるの」
「そうね、コンビニはあるけど、私は通院の時に買い物してきて、重いものは生協に、スーパーは週1ぐらいしか言ってなかったわね。バス代使う思いすればコンビニを使うことになるかな、一人暮らしだからそんなに量はいらないし」
「高野さんはそうなんだ、私はどうしよう。主人がいるし、主人に車出してもらおうかな、あ、それとね、『買い物難民』を出さないために何がいい案は無いか自治会がアンケートを取るらしいわ」
「買い物難民?」
「自分で買い物に行けなかったり、近くに店舗がなかったりで買い物しにくい人たちをそういうらしいわ。私達よりも高齢の方もいらっしゃるし、幼子がいたり、妊婦さんとかそうゆう人たちのことも考えないと。私達も歳とっていくわけだし」
「そうよね、そうなのね。いろいろな家庭の事情もあるし、私一人暮らしだから将来は不安よね」
「だからみんなで知恵を出し合おうって訳。回覧来たら生協の事書いてくれたら助かる」
「解ったわそうする」
「お茶ありがとう、又何かあったら教えるね」大平さんはそう言うと帰って行った。
『買い物難民』言葉を調べてみると大平さんが言っていた内容が書かれていた。
原因としては店舗の閉店とかもあるが、斜面地などでもともと外出が難しい場合や、高齢化、少子化の影響。公共交通機関の撤退。そして免許の返納が進まない理由ともなっていた。中央から離れた土地になると車が無くては何もできない。高齢になっても運転しなくては生活できないのだ。そのため免許の返納が進まないとの事だった。
なるほどね。この住宅地もそうなりかねないってことか。ネットスーパーなどに頼むという手もあるだろうけど、パソコンや、スマホが使えない高齢者は難しいだろうし、バスに乗っていくとなるとバス代がかかる。それにバスの乗り降りを考えるとそんなに沢山は運べないよね。階段や急坂の無い住宅地だから、買い物カートを使えたわけだし、バスとなるとカートをバスに乗せるのが大変だしね。
それから数日後回覧が回ってきた。わたしは用意しておいた生協の仕組みを印刷した用紙を提出した。いろいろ興味深い書き込みがあった。
そうこうしているうちに、スーパーの閉店日が近づいてきた。スーパーは売り尽くしとして商品を値引きして販売。いつになく盛況な売り上げで、賑わっていた。
そして、自治体から回覧板が回ってきた。
スーパー閉店後に、商品を買う方法として、ネットスーパー、生協、宅配が紹介されていた。それとコンビニに野菜果物、日版品を置くことを要請すること。自治会に『買い物相談係』を新設し、買い物代行や、購入についてのアドバイスをする。移動販売の業者を探している。などが書いてあった。
移動販売が来ると便利になるけどな・・・・。日版品や冷凍もの、重いものは生協に頼んで、通院の帰りに必要なものを買ってくるしかないな。一人はその点気楽だわ。
翌日庭の手入れをしていると大平さんがやってきた。
「回覧見た?」
「ええ、見たわ。私は今までとあまり変わらないかな」
「そう、それならいいわね。私は主人と車でまとめ買いすることにしたわ。誰かが車を出して、一緒に買い物に行こうという案も出たらしいけど、もし事故が起きたらとか、ガソリン代はどうするとかで結局公には決まらなかったようね。それに今からずっとでしょう、1,2回ならともかく長くは続かないわよね」
「そうね、運転する人も負担だしね。何かあったら責任取らないといけないし。難しいよね」
私は大平さんと暫く立ち話をした。
「あ、そうそう、買い物行くときは声かけるから、何かあったら言ってね」
「ありがとう。必要な時はお願いするわ」
「じゃ、又ね」大平さんはそう言うと帰って行った。
買い物弱者か・・・。物があるだけましだという人もいるけど、最低限ないと暮らしていけないものね。どこで何を買うかリストアップしなくちゃ!
私はそう呟くと家へと入った。
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