変わる景色
悟からはあのやり取り以降連絡は無い。
こっちからラインくらい……と思うものの、反応が怖くて行えていない。
私ってなんでこうなんだろ……
「しかし、こんな都会に来たのはもう何年ぶりかな。何か……凄く威圧感ありますよね。こういうビルって」
神谷さんの言葉を受け、周囲のビル群を見回す。
住んでいたときは、地方都市の印象しか無かったけど、あの海辺での生活が続いた後に見てみると、その建物や人の密度に圧倒される。
「うん、前はそんな事も感じなかったけど、今見ると空も狭いな……気持ちの持ちようで景色ってこんなに変わるんだね」
「ですね。その物自体はただそこにあるだけなのに、見る人の気持ちや価値観でその姿を変えていく……不思議です。最初の頃、お店を手伝ってくれてた人が居たんですが、その人もあなたと同じで海辺から見る景色を愛してくれてました。でも、ご主人が海釣りの最中に
変わる景色か・・・
いつか全ての事が落ち着いたら、この景色も前みたいに暖かく感じるのかな。
そんな事を思いながらもう一度空を見上げた。
「なんかお腹が空きましたね。そろそろお昼にしません?」
「そうね。あ、じゃあ家の近くに落ち着けるカフェがあるんだけど、そこはどうかな?」
「いいですね。カフェか。勉強にもなる」
「じゃあそこで……」
そう言いかけたところで、突然携帯が鳴り驚いて見てみるとラインだった。
また職場かな……
ドキドキして確認が出来なかったが、何とか見ることが出来た。
「あ……」
それはさっきの事務の子からだった。
(さっきはすいませんでした。ビックリしてなんて声をかけたらいいか分からなくて。夏木さんがああなっちゃったのは、私も充分フォロー出来なかったからかな……と申し訳なく思ってたので。今はゆっくり休んで、今後の事はご自分が一番良いと思える方向を考えて頂ければと思います。また、良ければお茶でも出来れば……)
読んでいくうちに涙が
神谷さんの言うとおりだ。
勝手に
夏木さんにラインの事を話すと、彼は微笑んで数回ほど
「うん、良かったですね。いい人じゃないですか。彼女が良ければぜひお店にも来てもらいたいですね」
私は同じく笑顔で
そして、また空を見上げると先ほどまでの威圧感はどこへやら。
ビル群の間に見える空は、ビルが引き立て役となってむしろその鮮やかさと優しさを際立たせているように見えた。
ホントに私って現金だな。
そう心の中でつぶやくと、思わずクスクスと笑ってしまった。
「どうしたんです? いきなり」
キョトンとする神谷さんに、私は慌てて手を振った。
「何でも無い。秘密です!」
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