第9話採寸


「久しぶりアイリちゃんっ!」



そう言って、未来ねぇが俺に抱きついてくる。俺は前世が男という負い目から、彼女に抱きつかれると固まってしまうんだが。



「未来。アイリが困っているからその辺にしとけ」


「えーまだまだ、スキンシップ足りないよ。久しぶりにアイリちゃんと会うのに…」


「ん?未来ねぇ。プレイヤーになった?」

なんか、今までとオーラが違うことにひっかかりを覚える。



「えっ。アイリちゃん分かるの?」

「だから、言っただろう。アイリにはバレるって。だから素直に頼んだほうがいいぞ」



「うーん。サプライズとしてアイリちゃんに渡す予定だったけどこの際、アイリちゃんに協力してもらった方がいいかな」


?なんの話をしているんだろう。



「アイリちゃん、私ね。プレイヤーになって服飾師ていう職業に就いたの」



そうなんだ。確かに未来ねぇは服を作る専門学校に通っていたはずだから、その職業が職業一覧にでるのも納得だ。



「で、アイリちゃんはダンジョンに動きやすいランニング服で入ってるよね」


「そうだね」


「陽翔から聞いたけど時々、洋服の端が焦げているときがあるって」



あぁ。全魔法耐性は自分の体には有効だが服には効かないから、魔法によっては燃やされそうになる。



「他のプレイヤーは服とかはモンスターの素材を使ってるから耐久とか防御力あるでしょ。アイリちゃんは生産職に伝手があるわけないから装備とかオーダーメイドとかできなくて貧弱だから、私にアイリちゃんの装備作らせてくれないかな?」



なんか、ところどころ貶された気したけど言っているところは正しい。服を気にして戦うこともあるからこの際、未来ねぇに頼んでみるのもいいだろう。



「ありがたい」

「やった!陽翔OKしてもらえたよ」



そう言って飛び跳ねながら兄に抱き着く。いちゃいちゃしてんなっと思いながらどういった装備を作るのか気になった。



「動きづらい服はNGだから」

「そこは任せて、アイリちゃんが道場で着ている袴みたいなやつだから」


それなら、安心って…

「目立つから却下」



「えーーーー!!。でも、この仮面には和服が似合うからそういう構想でいきたいの」


そう言って俺にスマホを見せる。スマホには鬼の仮面の写真があり、兄が送ったんだろうと考えられる。


「兄…」

「悪い。黙って送ったこと俺が悪いから今度、飯おごる」


しょうがない。許してろうと思った。


「他の人には見せないで」



「分かった。だが、アイリこの鬼の仮面をしているだけで十分目立つのに袴着ても変わらねぇだろう」


…。


「はぁーーそこは分かった任せる」

「よっし」



「あっ。アイリちゃんにお願いがあるんだけど、このモンスターの素材を取ってきてもらえるかな。私が作らせてほしいとお願いした身で申し訳ないんだけど、この素材だけ品切れになっていってないんだよね」



「別にいい。作ってもらっている身だから素材提供はこちらが行う。それにこの素材なら俺の部屋にあったはず」


「じゃあ。アイリちゃんの部屋に行くついでに採寸しちゃおうっか」



俺は自分の部屋に未来ねぇと入った瞬間に隅々まで採寸されてげっそりした。


「アイリちゃん。身長高いと思っていたけど172cmもあるなんてすごいね」



「はい、これ素材」

「ありがとうっ。て、もうお昼だね。ご飯どうしよっか?」



「私は外で食べてくるから。兄にご飯作ってあげて」

「分かったよー」



_______________________



「はぁーー」

俺の目の前にはハンター協会がある。入るのは憂鬱だけど用事をととっと済ませてから、パンケーキでも食べに行こう。



「今日のご用件は」

「これ」



ハンター協会から送られてきた手紙を職員に見せる。すると、それを見た職員は「すぐ確認してまいりますので少々お待ちください」と言って後ろに引っ込んでいった。



数分後、職員が戻ってきてその窓口は一時、ご用件は他の窓口にどうぞ、という小さい看板が置かれた。



それからその職員に3階の部屋に連れてこられる。扉の上には支部長室となにやらお偉いさんの部屋だと思われる。



職員はその部屋の前でノックをすると…すぐに「入れ」と低重音の声が聞こえた。



この声どこかで聞いたなっと思いながら促されるままにその部屋に入る。中にはこの前いちゃもんをつけてきた男を断頭していた強そうな大柄の赤髪の男がそこにいた。



あぁ。確かに偉そうだったし支部長でもおかしくないなと思った。職員は俺が中に入ると外に出て扉を閉める。



「こちらから呼び出しと言ってすまないが少々そこのソファーに座って待ってもらえると助かる」



男は大量の資料をオフィス家具の机のようなものに置いてそれを見ながらパソコンをいじりながらそう言った。



言われた通り大人しく座って待っていると、隣の部屋から秘書らしき人がお茶とお茶菓子を持ってきた。お茶菓子はお饅頭だった。



「どうぞ」と言われたので遠慮なく食べる。



しばらくの間、パソコンを打つ音が聞こえたが終わったのかパソコンから顔を上げ、俺の対面のソファーに座る。



「こちらが呼んだのに待たせて悪かった」

「別に気にしてない」



「そうか。では3日前にハンター協会に来訪した際、ハンター所属のハンターが失礼した」



そう言って支部長は頭を下げるが、アイリスの頭脳は騙されない。俺の実力は世界のプレイヤーにも通じると俺は理解している。その一端をこの男は感じ取ったんだろう。



でなければ、支部長自ら謝ることなんて絶対にない。



許すのは簡単だがこの失態を見逃すのをはおしい。

「情報流出」

「?」


「依頼は積極的にしてもいい。けど、ハンター協会部外者に俺の情報を漏らさないでほしい」


男は何やら考えこんだがすぐに「分かった」と了承した。

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