第28話 『特効薬』

 トコと漢那は美桜の元へ。

 空はその付き添い。

 ミツキは、その正体が妖魔であることもあり、咲夜の元へ。

 ユウはと言うと——身体は殆ど無傷ではあるが、心がかなり摩耗してしまっていることもあり、一旦は自宅での療養と休職を言い渡された。

 紗雪の亡骸は、狐の尾の面々だけで粛々と送られた。

 転生輪廻——消えた命は、何れまた、どこかで生まれいずるものなのだと信じられている為、派手な葬送はしないのが慣例だった。

 しかし今限り、執り行われた葬送が内々にしては豪勢であったという事実は、咲夜、そして菊理のみが知ることであった。




 その後、ユウは咲夜の元を訪れた。

 お守りに、と渡されていた長巻を返す為だった。


「ユウ……貴方は——」


「人の身には過ぎたものだったみたいです。僕の力では、妖を……仲間を護ることは出来ませんでした。だから、お返しします」


「そのようなことは——!」


「いい、咲夜」


 制したのは菊理。

 腕を組み、厳しい視線でユウを見ている。


「し、しかし……」


「…………失礼します」


 控えめに頭を下げると、ユウは謁見の間を後にする。


「あっ、ユウ…!」


「放っておけ」


「ちょっと、クク…!」


「はぁ。何、今は時間が必要なだけだ。私だって、それは理解している。が、我々が言葉を尽くしたところで、恐らくは意味がないんだ」


「妖だから、ですか?」


「いや。私たちが、あいつより強いからだ」


 その言葉の真意を汲み取ることが出来ず、咲夜は首を傾げて続く言葉を待った。


「なに、じきに分かるさ。『アレ』はあいつにとって、とびきりの特効薬になるだろからな」


 意味深な言葉を言うだけ言って、菊理は踵を返す。


「ちょっとクク、この後はまだ——」


「すまんが、今日はお前とハクに任せる。私は他の用事があるからな」


「えっ——って、ちょっと、ククってば…!」


 咲夜の言葉もひらりと躱し、菊理も謁見の間を後にする。

 独り残された咲夜は、何のことやら分からず、ただその背を見送った。

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