第418話 アーラッド王城
「・・・そこまで!この勝負、旅人さんたちの勝ちです!」
赤い服の男が、こちらの勝利を宣言した。
「ふふ。軽いもんよ」
鎌を担ぎ、イナが誇らしげに言った。
「・・・見事だ。お前たちのその腕ならば、ハーピーどもとも十分やり合えるだろう。是非、我々に力を貸してくれ!」
すると、赤い服の男が歓声を上げた。
「おめでとうございます!これで、あなた達は正式な傭兵です。
これからは、我々と共にこの国を守りましょう。どうか、よろしくお願いします!」
たった今倒した緑の服の男も、「期待しているぞ、新たな仲間たちよ!」と信頼の表情を向けてきた。
そうして、俺達は自警団の本部へ入った。
なんというか・・・元々そこまで広くない部屋に、半ば無理やりベッドやら何やらを押し込んだという感じだった。
でもまあ、仕方ないだろう。
自警団が出来たのはハーピーの襲撃を受けるようになってからだろうから、元々別の用途で使われていた建物を急遽自警団の本部として作り替えたのだろう。
ここまで俺達を案内してきた赤い服の男は、部屋の中央の机に向かって座った。
「さてと・・・せっかくなのですが、皆さんに今すぐにしてもらうことはありません。
もう少ししたら、自警団長が戻ってくると思いますので、その前に城に行って王様にご挨拶をされるとよいかと」
しばらくはすることがなさそうなので、言われた通り王に謁見することにした。
ちなみに町の人たちから聞いたのだが、この国は元々城の周りを囲むように町が存在しており、ハーピーの攻撃を受けるようになってからは事実上町が城壁の役割をしているらしい。
それではさすがによくない・・・ということで、町の周りにあのやたら高い防壁が作られたとのことだ。
防壁のおかげで、空を飛んでくるハーピーを上から狙撃できるようになり、かつ町に侵入されるまでの時間を稼げるようになった。
おまけに、町の人たちも守れるようになった・・・らしい。
城の門前には二人の門番がいたが、どちらも俺達の顔を見るなりあっと声を上げた。
「さっきの奴らじゃんか。見てたよ、あんたらの戦いぶり。やるじゃねえか!」
「傭兵として認められたみたいだな。なら、あんたたちはおれたちの仲間だ。さあ、王様に挨拶を!」
それぞれそう言って、通してくれた。
王のいる玉座は二階にあった。
階段を登ってすぐだったので、迷うようなことはなかった。
「おお、来たな。心強き傭兵・・・いや、ラムラスの使いたちよ」
その言葉で思い出した・・・ここの王は、ラムラスの親戚らしい。
「私はラフトル、このアーラッドの王だ。君たちのことは、ラムラスから聞いている。
親戚の紹介とはいえ、外部の者に頼るなど、本来なら恥もいいところだが・・・仕方ない。今は、そんなことを言っていられる状況ではないからな」
王は、この国が突如現れたハーピーの軍団の攻撃に晒されていることは知っているな?と確認した上で、何としてもこの国を守らねばならない、それが私の役目だと言った。
「おお、そう言えば君たちの名を聞いていなかったな」
そこで、俺から順番に名乗った。
「俺は姜芽。
「輝って言います。狩人です」
「私は探求者のイナ。王様、よろしく!」
「僧侶シェミルと申します。洗礼を受けていますので、『亜李華』とお呼びください」
王はみんなの顔を順々に見ていき、最後の亜李華の時に表情を変えた。
「この国を守るため、君たちの力を貸してほしい。すべきことは、自警団長のエフリナに聞くといい。・・・ラムラスが言っていた、この者たちなら、きっと役に立てると。
君たちの働きには、期待しているぞ!では、下がってよい」
その時、一階からの階段を誰かが登ってきた。
金髪のポニーテールで、黒縁の眼鏡をかけた黒目の女だった。
そいつは、王の前で挨拶をした。
「自警団長エフリナ、ただ今戻りました!」
「おお、君か。ご苦労だった。して、状況はどうなのだ?」
「はっ・・・依然として戦いは続いており、ハーピーたちの城壁への攻撃も始まっています。
団員はもとより、町の者たちもかなり疲弊しており、このままでは・・・」
女こと自警団長の話を聞き、王は暗い顔をした。
「そうか・・・いずれにせよ、あまり良い状況ではないな。だが、落ち込む必要はない。
最後まで諦めるな。我々はまだ奴らに敗れたわけではない。それを、忘れるな」
「はっ、すぐに作戦を考え、反撃に出るつもりでいます」
「うむ。それに関してなんだが、先ほど新しく傭兵を数名召し抱えてな。この者たちに指示を与えてほしい。君自身は・・・しばし休むといいだろう。本当に、ご苦労だった」
「失礼いたします」
女はこちらを向いた。
「新たな傭兵の諸君よ、後ほど自警団本部に来てほしい。君たちを交え、作戦会議を行う。頼んだぞ」
そうして、女は去っていった。
「あれが、自警団長?確かに上位種族ではあるみたいだな・・・」
輝の言葉に、王が反応した。
「あれはエフリナと言ってな、この国で唯一の『ハンター』、すなわち狩人の上位種族だ。
我が国がハーピーの攻撃を受けるようになった後、真っ先に自警団の設立を提案したのは彼女なのだ」
「やっぱりハンターか。ああ、ちょっと羨ましいなあ・・・」
そう言えば、輝は狩人だった。
狩人の上がハンターで、そのさらに上が狙撃手であったはずだ。
「他に、狩人はいないの?見た感じ、町の人たちは探求者がメインだったけど・・・」
イナが尋ねると、「狩人も一定数いる。・・・いや、『いた』と言うべきか」という返事が返ってきた。
なぜ過去形であるのかは、聞くまでもない。
「すでに多くの者が死んだ・・・町の民も、外部の傭兵も。この国は、徐々に死んでいっているのだ・・・ハーピーどもの手によって。
これ以上、この国を奴らの好きにはさせん。君たちも、頑張ってくれ!」
王は立ち上がり、頭を下げてきた。
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