第401話 巨大変異植物

 奥義やら技やらを手当たり次第に繰り出し、集中砲火を仕掛けた。

少なくとも俺は、斧技の「オルビットラーク」と「ウェーブアクス」、あと奥義の「フレイムポール」を繰り出した。


土喰アベル・・・だったか。

異形は、結構長い間動かなかった。

しかし、やがて動き出すと頭を起こして、なんだか気持ちの悪い音を立てた。

さほど大きな音ではなかったが、かなり耳障りな音だった。


 異形は真上に向かって登っていき、天井の岩の中に潜っていった。

その際明らかになったのだが、異形の頭の下の胴体部分はあちこち鱗のようなものに覆われた、細長い竜のようなものだった。


そして、尻尾は胴体に見合った長さと太さがある。

頭は結構でかかったが、意外と竜頭蛇尾・・・とはいかなかったか。


「うわ、岩に潜ってったよ・・・」

 輝が唸るのも頷ける。

というのも、異形は岩を「掘っていった」のではなく、文字通り「すり抜けていった」のである。


やつは、硬い岩盤の中でも自由に移動できると苺が言っていたが、こういうことか。

何気に柳助も同じことができた気がするが。


「奴はすぐにまた現れる。警戒を怠るな!」


 柳助の言葉通り、程なくして異形は天井の別のところから現れた。

頭をこちらに向け、イソギンチャクでいうところの口にあたるであろう部分を開けて、飛びかかってきた。


それは意外とゆっくりだったので、避けるのには苦労しない・・・と思いきや、前もって避けると追尾するように頭を向けてきた。

一か八か、幅跳びのように思いっきり横にジャンプして、どうにか回避した。


 もしかしたら、砂の上を歩く足音でこちらの居場所を探知しているのか。

となると、一度浮遊する必要がありそうだ。

しかし浮遊、つまり飛行すると魔力を持続的に消費する。


なるべく短期決戦で倒したいところだが、あいつはそんな簡単に倒せるだろうか。

少なくとも、さっきみんなで群がって集中砲火をしても、倒せなかったが。


 と思ってたら、今度は地面から顔を突き出してきた。

いや、顔ではない。槍のように鋭利になっていて、さっき見た頭部より少し小さい。


その表面には小さな吸盤みたいなものが複数あり、まるでタコの足のようだ。

・・・さっき輝が言ってたのは、これか。


 そして、動きが地味に速い。

こちらの足元から突き上げるように出てくると、すぐに砂に引っ込んで、また突き上げてくる。


どこから来るかわからないのは厄介だ。

食らうとそのパワーで吹き飛ばされるので、復帰に地味に時間を食うのもウザい。

そう思ってたら、柳助が異能を使って、吹き飛ぶことがないようにしてくれた。


 ちなみにこれは吹き飛びだけでなく、暴風で吹き飛ばされるとか、水流で流されるとかも無効化できるらしい。

以前の化け物鏡との戦いで使えばよかったか。



 しばらくして、異形は再びその頭を現した。

またしても砂から全身を出し、浮上した・・・のだが、今度は空中で大きく体を曲げ、Uの字を描いてまた地面に潜った。


そしてすぐに頭を砂から出し、頭を少し捻った後に素早くぐるぐると周りを回転して薙ぎ払った。

食らうと結構痛かったが、吹き飛ぶことはしなかった。柳助に、感謝だ。


 攻撃を終えると、異形は再び地中へ潜った。

ここで、俺たちは低く浮遊した。

これで、足音で探知される心配はなくなる。


「見た目通り、パワーがあるな・・・」


「なるべくやつの攻撃は被弾するな。俺の力は、あくまで吹き飛びや振動による不本意な移動を無効化するものだ。防御力や耐性は変動しない」


「それはもちろんだ。でも、図体がでかいからな・・・」


 でかいということは、それだけ当たり判定も広い。

そしてどこから現れるかわからないので、避けるにしても限度がある。


「彼を任意の場所に引き出したければ、大きな音を立てるのが有効ね。砂の上で発生したものなら、音にも振動にも敏感だから」

苺がヒントをくれた。


「それなら、やっぱりこうだな」

アーツは手を伸ばし、「[音魔弾]」と呟いてさっきと同じ球を飛ばした。

それが破裂して音を立てると、異形は再び飛び出してきた。


 しかし、今度は倒れ込む様子はない。

どうやら、攻撃の標準合わせをしていただけのようだ。

だが、それでも隙であることには変わりない。


「[グリーム]!」

苺が光魔法を唱えたのを見て、俺も「アクスカッター」を飛ばした。

避けられずに命中し、異形の体を斬り裂いたが、血が飛び散ったりはしなかった。


「・・・あれ?」

 俺が違和感を感じたことに気づいたのか、苺はやつの正体について説明してくれた。


「土喰アベル。あれは、かつてこの砂漠に棲息していたある種の巨大な植物が、邪悪な力で異形と化したもの。

つまり、植物系の異形なの。だから、血が流れてはいないのよ」


なるほど。言われてみれば、あいつの尻尾や触手の先端は尖った葉っぱのような形をしている。

赤紫色というのは、植物ではあまり見かけないが。


 植物系、と聞いてふと思った。

「なあ苺。もしかしてあいつ、火に弱いんじゃ・・・」


すると、苺は意味深な顔をした。

「風にも弱いそうだけど、風使いのメンバーはここにいたかしら。ついでに大きな音を出せる人だったりしたら、火と一緒に攻撃すれば、かなり効果的だと思うけど・・・」


 そうか。

この苺・・・いや、エリナはこういう言い方が好きなのか。


俺はアーツ、つまり音を立てる異能を持ち、同時に風属性であるメンバーを呼んだ。

そして、しばし作戦の会議をした。



 アーツが音を立て、異形を引きずり出す。

攻撃タイミングではなかったのか、最初の時と同じようにダウンした。

そこで、俺とアーツは行動した。


力を合わせ、火と風の属性を持つ術を放つ。

「渦巻く炎の竜巻」という見た目から、その名を連想させる。


「「[ブレイズストーマー]!」」


 異形の体より太い、燃え盛る炎の竜巻を2つ召喚した。

その熱気は、数メートル離れていても焼き焦がされそうなほど感じる。


文字通り炎に巻かれた異形は、たちまち炎上した。

そしてうねうねとのたうち回った後、掠れた咆哮のような声を上げて、地上に墜落した。


 竜巻が消えた後も、その体はメラメラと燃える火に包まれ続けた。


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