第367話 第6の敵

 再び角笛の音が鳴る。

つまり、6回目のレイドが始まった。


前は5回で終わったので、今回は長続きするようだ。

レイドのウェーブは参加している略奪者たちの数によって変わり、少ないと2、3回で済むこともあるが、多いと10回に及ぶこともあるという。


今回は具体的に何回行くかはわからないが、略奪者だけでなくサードル旅団もいるようなので、7回くらいは行くだろう。

だが、正直回数はさほど重要ではない。


 敵が強ければ、襲撃の回数が少なくても気は抜けない。逆に例え敵の数が多くても、それ自体が弱ければ大した心配はいらない。


「前の記録更新だな」

猶がつぶやくと同時に、やつの目の前の地面から祈祷師が現れた。


 短剣の攻撃をひらりと躱し、そいつは異形を召喚してきた。

髪が目のない白い蛇の、真っ赤な目をした空を飛ぶ生首・・・確か、「ゴルゴム」だったか。

目から放つ光線を浴びた者を石化させる、爬虫系の異形だ。


その姿に煌汰は若干怖がっていたが、その目から放たれた光線を間一髪で浴びずに済んだ。

というか、沙妃に突き飛ばされて助かった。


 代わりに沙妃が光線を浴び、全身が石化した。


「沙妃さん・・・!」

煌汰が悲痛な声を上げた。が、石化は術で簡単に解除できる。

しかし、異形は今度こそと煌汰を狙っている。


いくら解除が簡単でも、何人も石化させられてしまえば戦いにならなくなる。

なので、その前に俺が飛び出して刀を振るう。


「[一刀裂断]」

異形を真っ二つに切り裂き、一撃で仕留める。

その間に猶が横から短剣を振るい、祈祷師を始末してくれた。


「なあ、石化って確か術で解除できるよな?早く、沙妃さんを助けてやってよ・・・!」


 煌汰が泣きそうな顔で懇願する。

「落ち着け。まずは、周りの様子を見よう」

そして辺りを見渡し、今すぐに奇襲を仕掛けてくる敵がいないことを確認した。


「大丈夫だな。それじゃ、治そう。[静寂の月]」


状態異常回復の月術で、沙妃の石化を解除した。

石化も状態異常扱いなので、対応する術で簡単に解除できるのだ。


「沙妃さん・・・!ああ、よかった・・・」

 煌汰は心底嬉しそうな顔をした。しかし当の沙妃は、

「え、何?気持ち悪いんだけど!」

と煌汰を一蹴した。


まあ、石化している間は記憶・・・というか意識がなくなっていたんだろうから仕方がない。

煌汰にも、殺人者に変な感情は抱くなと教えてやりたい。



 その後、槍持ちの異人が3人、例のカバもどきの怪物が2頭現れた。

槍持ちは恐らくサードル旅団の探求者。怪物の方は、これまでと大して変わらない。


どちらもまっすぐに突っ込んできた。

槍持ちは、俺はシンプルに刀で攻撃を受け止め、電流を浴びせて痺れさせた後に刀を振るい、首を撥ね飛ばした。


猶は近づかれる前に竜巻を起こして相手を持ち上げ、短剣を投げて切り刻んだ。

沙妃は俺と同じように短剣で槍を受け止め、少し膠着した後に向こうの股を蹴り上げてから回転斬りを繰り出して胸を斬った。


さらに、そこから短剣を投げつけ、両方の目を潰した後に短剣を抜き、顔をX字に斬り裂いた。


「うわ、エグッ・・・」


 煌汰が目を覆った。

だが、この程度でエグいとか言ってられない。

今ので浴びた返り血もそうだが、全然大したことはない。


何だったら、斬首や目潰しなどまだ易しい方だ。

殺人者には、もっとエグい殺し方や拷問などいくらでも思いつく。

顔を縦に切ったり、両手足を切断したり・・・


俺としては、殺しにしろ拷問にしろ血や臓器がたっぷり出るのが好きだ。

子供の頃から、そういうのは大好きだ。

殺した相手の血を初めて頭から被った時は、得体の知れない笑みを零さずにいられなかった。


「・・・おっと!」


 煌汰は左右を怪物2匹に挟まれ、危うく両手を食いちぎられるところだった。

こちらに目を取られるのも結構だが、その間に自分の命を取られることのないよう、僅かにでも安全を確保してほしいものだ。


煌汰はジャンプして空中から魔弾を放ったが、もちろんその程度では奴らは怯まない。

それどころか落下地点を予測して口を開けている。


「ったく、世話の焼ける奴だ!」

猶が風の渦を投げ、空中にいるうちに煌汰を救出した。

何か言いたげだったが、

「お喋りは後だ!ほら、来るぞ!」

と言われて、すぐに立ち上がって剣を構えた。


「[月震]」


 さっきと同じ月術を唱え、奴らの体力を半減させる。

やはり、割合ダメージってのはデカい。


そして、煌汰が術を唱えた。

「[氷閉じ]!」

完全封印には至らなかったものの、それでも2頭の動きを大幅に遅くできた。


今回は、そもそも近づかれる前に仕留める。

それをみんなも思ってくれたのか、思い思いの奥義を繰り出した。


「『雪と氷の世界』!」

「『風と共に散れ』!」

「『殺戮の嵐』!」


 どれも、今回の旅では見たことのないものばかりだ。

しかし、威力はさぞかし高いのだろう。


それぞれ剣を振るって広範囲を凍りつかせ、空気を圧縮して気流を起こして連続攻撃し、頭上から大量の刃を降らせる・・・といったなかなかな演出だった。


無論俺とて負けてはいない。

と言いたいところだが、3人の奥義で敵が片付いてしまった。


まあどうせ次のウェーブもあるだろうから、そっちでやるか。

次の敵のトドメは、俺が派手に決めてやる。

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