勿怪の居場所
「弁当を食べてしまった手前、引き受けてはみたが、どこから手を付けるべきか……」
「とりあえず、お
お
清司郎は縁側を調べてみたが、これといって気になるものは見つからない。もしなにか勿怪の手がかりになりそうなものがあったとしても、翌朝には掃除されてしまっただろう。
「お榛、なにか気になるものはあったか?」
清司郎が声をかけると、お榛は「ううん」と顔を出した。
「ちょっと部屋の中が湿っぽいかなってだけで、手がかりになりそうなものはないや」
「湿っぽい?」
「お三智さんが寮に移ってからも風を通してるはずなんだけど、なんか湿っぽいのよね」
「じゃあ、お三智さんがいなくなっても、勿怪は毎晩部屋に上がっていたってことか?」
「たぶんそうなんじゃないかな。それにしても根岸の寮とは、さすが
寮というのは、つまり別宅のことである。根岸の他には王子など、江戸近郊の
「二人とも、こいつを見てくれ」
清司郎とお榛が感心していると、谷川が二人を呼んだ。
井戸、といっても川の水を
土踏まずはなく、足の指の間には大きな水かきがある。
「
「ああ……
足跡は縁側と井戸の間を幾度も行き来しているようだった。
「この足跡の様子だと縁の下に隠れてるってわけでもないみたいだな。普段は井戸にいて、夜だけここに入ってくるのかもしれない」
「だとすれば、お三智さんが寮にいることに気付かないのも当然か」
お榛は井戸の水を覗き込み「あれ?」と声を上げた。
「この井戸、ずいぶんと浅いのね」
「そうなのか? どれどれ……」
清司郎も井戸を覗いてみる。たしかに、思ったよりもかなり浅いところに
「そうだとすると、水虎はもう、ここにはいないんじゃないか?」
「ああ……」
清司郎は庭をもう一度見回してみた。
井戸の水が流れる先、塀の向こうには小舟が行き来する堀がある。堀を辿れば隅田川だろう。
「もし、お三智さんの居所が根岸の寮だとわかったなら、水虎はすぐにでもそっちへ向かうだろうな」
「あ、ねえ。寮の場所はわかるか?」
たずねると、豊松は「はい、存じております」とうなづいた。
「それじゃあ、すぐに案内して欲しいんだけど、いい?」
「すぐ、番頭に許しをもらって参ります」
豊松が店の方へ戻っていくのを見ながら、清司郎は縁側へ上がった。
「相手は水虎か……しばらくぶりに油断ならん相手だな」
水虎といっても、
力自慢であり、姿を隠す
「だが、どうにかするしかないだろう。
「ああ、まあな……」
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