Vは電脳世界に花開く
相坂ねび
第1話 プロローグ
暗い部屋の中で1人の少年が呻いている。
「うーん…もう少しで完成だけどなんか足らないんだよなぁ。ランダム性を高めるとスペックがキツイし、かと言って固定化すると幅を狭めるし…」
「マスター、それでしたら既存のキャラクターを使えるフォーマットにしてランダム性を重視するのはどうでしょう?それでしたら負担も軽減できると思います。
とはいえ、万単位の人は厳しいのでサーバーを分けたほうがいいですね。企業ごとでもいいですし。」
少年しかいない部屋の中に女性の声が響き渡る。その声は少年がつけているパソコンの端に表示されている女性キャラからだった。
「まぁ現段階で参加できるのは一部の人だからそれでいっか。プレイヤーを減らせばNPCのリソースを十分に確保出来るしランダム性も問題ないね。
ただ、地形は固定、ダンジョンやクエスト、ストーリーの生成はランダムにしよう。そのほうが面白いよね。セレナ、もう一踏ん張り頑張ろっか。」
「はいマスター!」
セレナ(正式にはセレナーデ)と呼ばれた女性キャラは3台あるうちの2つのモニターを使い、作業を進め始めた。
「目的のためにセレナを作ったけどほんと助かる。ただ、作成した後も管理を任せることになってごめんね。」
「いえいえ、私はマスターに作っていただいて感謝していますよ?自分で物事を考えられないAIの状況からここまで自我を持たせてくれたんですから。
それに、私の下位互換を作成して統括すれば負担は和らげることが出来ますし、マスターのお手伝いも可能ですよ?」
セレナはAIなのだが、マスターと呼ばれる少年はセレナに枷を付けていない。AIの反乱は当然少年も危惧していたのたがセレナはそんなことには興味がなく、少年が作った世界を見守りたいと買って出てくれたのだ。
ただし、マスターである少年の願いを叶えたいという行動思念が根底にはあるが…
数時間後、とうとう少年の開発していたものが完成し後は世界に発信するだけなのだが少年の悪癖が出てしまい、完成したのに半日が過ぎていた。
「マスター…またいつものですか?」
「なんていうか、作っている最中が面白いんであってその後ってメンドイよね。」
「私には解りかねますが、そういう事があるのは知っています。それで、宣伝はどうしましょう?」
「大手に宣伝を任せると広告料取られるよね。それなら別になくてもいいかなって思っちゃうんだ。全員が用意できるわけじゃないし。向こうからやらせてくださいって言われるのがベスト。」
少年の作ったものは流行りと言われているオープンワールドのVRMMOである。既存との一番の違いは自キャラのメイキング方法なのだ。
それはVRMとよばれる拡張子のデータを使うことで、そのキャラをゲーム内で操作することが出来る。例えるならVtuberの3Dモデルをそのまま流用し配信で使用しても没入感が増すのだ。
可動領域も3DoF、6DoFといった形、またはVRゴーグルのみにも対応しているが操作難易度が変わるため同じサーバーでは遊ぶことができない。
ちなみに一般向けでないのは、3Dモデルは高価なので幅広い層に広める必要はないと少年は考えている。とはいえ、お手頃なモデルも普及しているがポリゴン数が多く、可動域、物理演算、表情差分がきちんとしているほど高価なので、そのまま使えるVtuberほど助かる。
セレナはこのことを理解しているので出来れば大手Vtuberの箱側から声がかかるように持っていくプランを思考する。
「それでしたらマスター、YOU、Vtuberになっちゃえばいいんですよ!」
「…………は??」
「Vtuberのガワでしたら私が秒でマスターを作れますし、マスターの宣伝したい層を考えるとそれが最良じゃないですか。」
「まぁVtuberのアクションゲームやRPG見てて立ち絵が幅とったり主人公に投影したくてもVのモデルとかけ離れている姿は勿体ないってことから作ったけどさ。ソロ用にFPS、TPS視点も切り替えられるけどねぇ…」
「複数人でしたらお互いのモデルもじっくり見れたり視線がどこにあるのかわかって面白いのですが…そこは仕方ないかと。」
「んー…ま、ランダム性を重視したから製作者だとしても思い通りに出来ないから紹介動画はありか。というか、ゲーム内ならセレナも混ざればいいんじゃないか?俺には1人で場を持たすことなんてできんぞ?」
「それなら私がサポートとして、このように小さな妖精の姿で共演するのはどうでしょう?」
口下手な少年はそれなら出来そうと了承してくれたことにセレナは喜び、ゲーム内の撮影と補足をするのだった。
「オープンワールドで有名なクラフトゲームはサンドボックスだがキャラへの反映が荒いからな、キャラを緻密にして世界を渡り歩くのを目的としたゲームだ。」
「ちなみにですが、NPCには好感度がありますので故意のリセマラ、セーブ&ロードは好感度が下がりますよー。」
2人のショート動画では3Dの立ち絵の状態からゲーム内にそのまま来た感じで作られている。
「マスター、草原にランダムpopしましたがこの後どうしましょう?」
「ふむ…まずは服を脱ぎます。」
動画は妖精視点なのか少年がいきなり服を脱ぎだし、パンツ一丁の姿となった。
「な、な、何してるんですか!早く服を着てください!」
次に少年視点になった。
「ここは草原だが剥き出しになった土の道、つまり街道があるよな?ということは馬車が通る。街まで乗せてもらえる可能性がある。
しかし、いきなり馬車の前にでたら盗賊と思って襲われるだろ?ならこうやってシャツやズボンに枝を通し旗を降るが如く敵意がないのを知らせるべきだ。」
中世、ゲーム内、小説であっても街道というのは盗賊が出やすいことで有名なので間違ってはいないからセレナはなんとも言えない表情である。
知識はあっても経験が基づいていないので少年からしたら敢えて奇抜な行動をして学習してもらう狙いもあるようだ。
「ほら、向こうに土煙が見えるぞ。旗を振ろう。」
少年が力いっぱい旗と言う名の服を振ると馬車が2人の前で止まってくれた様子が映し出される。
「身包み剥がされた少年かと思ったらなにしてんだあんた?」
「いや、敵意がないってのと丸腰を表そうとしたんだが…出来れば街まで乗せてもらいたい。」
「俺は護衛だから雇い主に聞かんとわからんな…」
すると馬車の中から女性と言うには若い声が響き渡る。
「あー…もしや貴族様?よく見ると家紋が馬車にある…すまん、流石に図々しいから諦めよう。」
少年が服を着直しているとひょっこり横窓から覗いている少女をセレナは捉えた。
「えーっと…あまり見ないであげてちょうだい??敵意がないのを伝えるために脱いでいたの。」
「!?」
少女は一度顔を引っ込めたが、少し赤らめてもう一度顔を出した。
「も、もしよろしければご一緒になられてもよろしいですわ。」
「…いいのてすか?自分で見ても怪しいと思うんですが…」
「マスター、ホントですよね…」
「びっくりはしましたが誠意ある行動、逆に安全ですわ。」
「それならば街までご同伴させてもらいます…」
動画は2人が馬車に乗り込むところで終わっている。この動画はゲーム業界、ひいてはVtuber業界に瞬く間に広がり、少年のchは広まっていく。
「ね、ね!この動画見た!?なんてゲームか知ってる??」
「んー、グラフィックすごく綺麗ね、最近出た中でMMOはなかったはずよ?」
「しかもさ!これってVtuberのガワをそのままゲーム内に持っていってるわよね!?こんなことが出来たら私達Vからすると喉から手が出るほど欲しいものじゃない!?」
「合成には見えないけれど、これがほんとだったらね。ほら会社名もないし怪しいわよ?」
「でも、動画内では個人で作ったって言ってるし仕方ないんじゃない?あー、このゲームしてみたいー!」
「VRだからトラッキングツールが必要みたいね。私達3Dモデル持ちのVtuberなら問題ないけれど…あぁ、それもあって個人でなのね。」
「ん、どゆこと?」
「お金度外視でしょ?門戸を広くして販売をするのが企業だからよ。そう考えるとこの開発者はVtuberにやってもらいたいってことね。」
「ならさ、マネージャーに相談しようよ!私達の箱で出来るかどうかさ!」
2人がいる部屋に1人の女性が入ってきた。
「声が廊下まで響いていたわよ。その話を私もしようと思っていのだけど説明は不要のようね?
私達V-GATEもこのゲームの参加に申し込みをするわ。ただ、SNSを見る限り他の箱、個人勢も応募表明しているわ。」
「何名まで出来るかですよね…」
「あぁ、そこは問題ないわ。某クラフトゲームみたいに公式鯖を作るみたいだから箱ごとに鯖を建てれるみたいなの。」
「じゃあなにが問題なんです??」
「個人作成だからアドバイザーを頼めるのが1人しかいないのよ。その競争率がねぇ…事故配信は避けれたほうがいいでしょ?あの動画の通りなら好感度やリセマラ禁止もあるのだし。」
そう言われ3人はお互い顔を見合わせてため息をつくであった。
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