小話(シンシア&フェリス)
紅河を渡ったロイル一行のコペルへの旅路もあと僅かである。
だが、不測の事態もあってロイルの手持ちがかなり心もとない。
コペルを陥落させるための兵士ユニットの生成、その後のコペルの内政を見据えると資金はいくらあっても足りない。
そこでロイルたちは金策に乗り出すことになった。
金策で一同が思い出したのは、フェリスの逸話だった。彼女はかつて「黄金の匂い」を使って賭場を荒らし回っていた。時間をかけずに稼ぐにはそれしかないだろうという結論になり、フェリス自身もロイルたちに借りを返すためにも乗り気であった。
結果を言えば、金策は面白いようにうまくいった。フェリスが賭場に現れ、ドレス姿で足を組み替え挑発すれば、鼻を伸ばした男どもがふらふら寄ってきてはあっけなく敗北、チップを搾り取られる。その繰り返し。程よく稼いだら別の賭場へ行き、賭場を回り終えると街を移動した。
そうして2、3の街を訪れた後、一行がまた別の街を訪れた時のこと。
この日も賭場で荒稼ぎしたフェリス、それと付き添いのロイルとユノとシンシアが宿の部屋に集まっていた。
ちなみに、クレアは50人の兵士ユニットと共に街に入らず、近郊で待機だ。「こーん」と鳴きながら練習していることだろう。
「ぬはははははは、妾、最強ッ!!」
「調子にのってるなあ……」
「調子にのってますねえ……」
部屋のベッドの上に仁王立ちして高笑いするフェリスを、呆れたようにロイルとシンシアが見つめる。
「あーーーーーっ、妾、敗北が知りたいなーーーーーっ!!」
「フェリス、声を落としてくれ。ユノが起きるだろうが」
「お、それはすまん」
ロイルが自身に体を預け眠っているユノの頭をなでながら注意する。
フェリスはそれを聞いてベッドに座り直すが、テンションは高いまま。
そんな彼女の様子に、シンシアがひとつため息をついた。
「そんなに敗北が知りたいなら、私が教えてあげますよ?」
「シンシアよ、そなたは確かに学校の勉強はできるであろう……だが、妾の『黄金の匂い』は無敵!妾の負けは万に一つもない!」
「そこまで自信があるなら賭けを――いえ、仲間内でするのはあんまり気が進まないので、罰ゲームとかにしますか?」
「ふむ、罰ゲームか。内容は?」
「マッサージ、とかどうです?」
「なるほど、貴族の妾にマッサージせよと申すか」
「いえ、マッサージするのはロイルさんです」
彼女たちから遠いベッドにユノを寝かせていたロイルは唐突な話に「えっ」と振り返る。
「なんで俺が……」
「そ、それはつまり、ロイルが妾の体を触りまくるということかっ」
「おい、待て」
「そうです。負けるとマッサージにかこつけてロイルさんに全身をまさぐられるでしょう」
「そなた、なんと恐ろしい罰ゲームを考えるのだ……」
「だから、待てと言っている」
そしてロイルの静止を聞かずに勝負は始まった。
ゲームは帝国でポピュラーなカードゲームだ。山札からカードを交互に引いては捨てていき、役を作って役に応じた点数を競い合う。5番勝負で点数の合計点が大きい方が勝ちとなる。最初にフェリスが高得点の役を作って快調な滑り出しとなるも、次の番からはフェリスが役を完成させる前にシンシアは低得点の役を出していく。結果、5番が終わって合計点でシンシアの勝利だった。
「そんな、馬鹿な……っ、妾が負けた……っ」
「さあ、フェリスさん、罰ゲームの時間ですよ」
「むぐぐぐ、だが、妾は未婚の娘で……」
「あー残念ですー、フェリスさんは約束を反故にしない方だと思っていたんですけど、違ったみたいですねー」
「よかろうっ!ロイルよ、マッサージするのだ!」
フェリスは心決めた様子でベッドに仰向けになる。
そんな彼女にロイルは微妙な顔をする。
「俺が罰ゲームって非常に納得いかないんだが」
「まあまあ、そう言わずに。ロイルさんも役得じゃないですか」
「役得かもしれんが……ふむ」
ロイルはベッドのそばに立ち、無防備なフェリスの後ろ姿をまじまじと見つめる。
「ロイルさん、どうしました?」
「いや、姫ユニットは後ろからでもはっきり美人ってのが分かるんだな、と思ってな。思えば、『タナトス戦記』で俺たちは顔のパーツや胸の大小で俺の最カワ姫ユニットはどいつだと議論を戦わせていたが、同志たちは知らないだろうな、腰から臀部にかけての曲線美もまた注目すべきポイントであると――」
「あの、そういうえっちなの抑えてもらえます?」
「あ、はい。だが、この状況でえっちなパトスを抑えろってのはなかなか無理はあるんだが……まあ、やるけれども」
ロイルはいたって真面目にフェリスの背中に指圧を加えていく。
「ぅんんっ」
「フェリスさんもロイルさんを刺激するような悩ましげな声を上げないでください」
シンシアがフェリスの形のいい尻をぺちり、と叩く。
「あふんっ」
「逆効果だろ、それ……。それにしても、シンシア、よくフェリスに勝てたな?あれだけ勝ちまくっていたのに。どういうカラクリなんだ?」
「別に大したカラクリはありませんよ。ただ確率を計算しただけです」
「ぅんんっ」ぺちり「あふんっ」
「確率ってあれか、期待値ってやつか」
「ですです。ここ最近、フェリスさんを観察して分かったんですけど、フェリスさんのあがる役ってどれも高得点ばかりなんですよ。その高得点の役を最短で出すんですから恐ろしいですよね。でも、高得点の役って揃えるのが難しくてどんなに最短でも手数がそれなりにかかります」
「ぅんんっ」ぺちり「あふんっ」
「なるほど。その手数の間に、揃えやすい低得点の期待値が高い役を揃えるってわけか。捨てカードとかで判断するんだろうが、言う程、簡単じゃあないよな?」
「まあ、その辺は私、記憶力と計算には自信があるんで。……ただ、ロイルさん、フェリスさんを使った金策は今回限りの禁じ手にした方が私はいいと思います」
「ぅんんっ」ぺちり「あふんっ」
「やっぱり、か。俺も内政に使えたらいいなー、と少しは思っていたんだが、やめといた方がいいか」
「ですね。フェリスさんの『黄金の匂い』はあまりにも強力すぎます。富の一極集中をまねき健全な市場経済を阻害しかねません。ラタキアのような地力がある場所ではまだよかったかもしれませんが、コペルのような未発達な市場でそれをやると、あっという間に寡占市場、独占市場のできあがりです」
「ぅんんっ」ぺちり「あふんっ」
「そなたら、手を止めよ――」
「お?なんだ、もう降参か?だが、これは罰ゲームだぜ。フェリスが嫌がったところで俺の熱いパトスは止まんねえぜ。おらおらおら」
「ぅんんっ、違う、そうではなく――」
「だから、そんな悩まし気な声を上げるなと言っているでしょうが」
ぺちり「あふんっ、いいから、そなたら話を聞けっ」
「ユノがこっちを見ておるぞ!さすがに今のこれを見られるのは教育上、よろしくないであろう!」
ロイルとシンシアがぎぎぎと首を向けたそこには、ユノがぱっちり目を開けていた。じーっと見つめるその先は、一人の女にまたがって背中をもみしだき、尻を叩く自分たちの姿である。
後日、ユノ経由でいかがわしい遊びに興じていたとクレアに伝わり、3人はこってり絞られ反省させられた。
――罰ゲーム――Fin――
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