第164話:光の行方

「お兄ちゃん!」


 倒れた竜胆の元へ真っ先に駆け出したのは、鏡花だった。

 彼女たちにはまだドラゴンが死んだことははっきりしていない。

 それでも鏡花が駆け出したのは、竜胆を心配してのものだった。


「僕と国親はドラゴンの生死を確認する!」

「わ、分かりました! 私たちは鏡花ちゃんを守ります!」


 すぐに恭介が指示を出すと、彩音が返事をしてそれぞれが行動に出る。

 恭介と国親はドラゴンへと近づき、生死はもちろんだが、毒などの物質が垂れ流されていないかなども確認していく。


「……こっちは問題なさそうだな」

「あぁ、そのようだね」


 国親がそう口にすると、恭介も同じ見解だったのか、すぐに頷いた。


「鏡花ちゃん、竜胆さんは?」

「……大丈夫です、生きています」

「ポーションを振り掛けましょう」


 竜胆が意識を失っているだけだと分かり、影星は冷静にポーションを取り出す。

 それを鏡花に手渡すと、彼女がポーションを振り掛ける。

 淡い光が竜胆の体を包み込み、見た目には傷が塞がっているように見えた。


「……目を、覚まさない?」

「魔力枯渇の可能性もあるわね」

「矢田恭介。魔力ポーションはあるかしら?」


 目を覚まさない竜胆を見て、影星が恭介に声を掛けた。


「これを!」


 すぐにマジックバッグから魔力ポーションを取り出すと、恭介は投げ渡した。


「ありがとうございます!」


 それを鏡花が受け取ると、すぐに魔力ポーションを振り掛ける。


「……これでも目覚めない?」

「すぐに病院に運んだ方がいいかもね」

「急ごう」


 それから鏡花たちは、彩音が恭介たちに声を掛け、国親が竜胆を背負いその場を離れようとした。

 だが、ここでようやく周囲に起きている異常事態に気がついた。


「……待って。どうしてこの光はずっと残っているんだ?」


 恭介が呟くと、全員が周囲を見渡し、天に伸びたままの金色の光を見上げる。


「これ、お兄ちゃんが出したんですよね?」

「そのはずよ。……え? ちょっと、あれ見てよ!」


 鏡花の問い掛けに答えた彩音だったが、すぐに空を指さしながら声を上げた。


「……なんですか、あれは!」

「おいおい、光が降ってくるぞ!」


 冷静な口調が多い影星も驚きの声を上げるほど、国親の指摘した光の落下は異常事態に見えた。

 しかし、実際は全く異なるものだった。


「こっちにも降ってくるぞ!」


 そう叫んだ国親だったが、光は人間に悪影響を及ぼすものではなく、むしろ良い影響を与えるものだった。


「……あ、あれ? 私たちの傷も、治ってる?」

「本当ですね。それに、なんだか体が軽くなったような?」


 彩音が自らの体を見ながらそう口にすると、鏡花は体が動くようになったと驚きを隠せない。

 そう感じていたのは二人だけではなく、この場にいる全員が感じていることだった。


「そういうことなら、全力で向かっても大丈夫そうだね」

「急ぎましょう! ね、鏡花ちゃん!」

「はい!」


 そうして駆け出した鏡花たちだったが、金の光の影響は別ところにも現れていた。


「――あの光って、なんだったんだ?」

「――分からないわ。でも、モンスターが死んでいったわよ?」

「――傷も治ったし、誰かのスキルなのか?」


 通り過ぎていくプレイヤーたちの呟きが、鏡花たちの耳に届いたことで、光の影響が広がっていることに気がついた。


「モンスターまで倒していたのか?」

「全く。本当に天地竜胆は、規格外すぎますね」


 呆れたように国親と影星が呟いている。

 しかし、この光が鏡花たちだけではなく、多くのプレイヤーたちを助けていたことを知り、鏡花は竜胆のことが誇らしくなっていた。


「……絶対に目を覚ましてね、お兄ちゃん」


 そして、この感動を直接伝えたいと強く願い、言葉にしながら足を進めていった。

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