第150話:不穏な気配

 星3の扉の核を破壊して地上へ戻ってきた竜胆たち。

 しかし、そこで竜胆たちは不穏な気配を感じ、警戒を強めながら周囲を探り始める。


「どうしたの、お兄ちゃん?」


 鏡花だけは緊張を解いており、真剣な面持ちになっている竜胆、恭介、彩音を見て、やや困惑していた。


「……どう思う? 恭介、彩音」

「……あまり、良い状況とは言えないね」

「……私も同意見です」


 本来であれば、地上で武器を抜くことは禁止されている。

 しかし、その身に危機が迫っているとなれば話は別だ。


「えっ!? お兄ちゃん、二人も!!」


 竜胆たちは剣を抜き、警戒を強める。


「おやおや、ずいぶんと気配察知に長けているのですねぇ」


 そこへ姿を現したのは、竜胆がもっと警戒している男――久我雅紀だった。


「特殊モンスター研究所の人が、扉へなんのご用でしょうか?」


 見た限りでは雅紀一人しかいないように見える。

 しかし、竜胆だけではなく、恭介も彩音も、雅紀以外の何ものかが近くに潜んでいると感じていた。


「私が用があるのは扉ではありません。あなたですよ、天地鏡花」


 協会ビルのトレーニングルームと同じことを口にした雅紀だが、その表情はその時とは異なっている。

 下卑た笑みを隠すことなく浮かべており、何をしてでも手に入れてやろうという思いがはっきりと見て取れた。


「あいにくだが、鏡花はあんたに協力する意思はない、諦めるんだな」

「お、お兄ちゃんの言う通りです!」


 竜胆の言葉に同意を示しながら鏡花が叫ぶも、雅紀はまったく気にしたそぶりを見せない。


「お気になさらず。あなた方の意見など、私には関係ありませんからねぇ」

「……力づくで連れて行こうってか?」

「私がどのような人間なのか、拳児に聞いたのでしょう? ひひ!」


 雅紀が本性を現し、不気味な笑い声を発しながら両手を広げると、竜胆たちが感じていた別の気配の正体が姿を見せる。


『……キシュルルルル』

「なっ!? ……お前、いかれてるな」


 現れたのは、爬虫類に似た姿のモンスターだった。

 体皮を周囲の風景に同化させていたのか、姿を見せた時にはモンスターが立っている場所に突然現れたように見えた。

 しかし、おかしな部分も多々ある。


「爬虫類のモンスター、なのか?」

「前足は獣? それに後ろ足は……昆虫?」

「あれって、もしかした――キメラ!?」

「……お兄ちゃん、なんだか、気持ち悪いよ」


 竜胆、恭介、彩音、鏡花が順番に言葉を発していく。


「気持ち悪い、ですって? ……ひひひひ! どうやらあなたにはこの芸術品の素晴らしさが分からないようですねえ! ひひひひひひひひ!」


 呵々大笑の雅紀を見る竜胆たちの瞳には、狂気を宿した男が映っている。

 この男を、久我雅紀を放置していれば、何が起きるか分からないと、心の奥底が警鐘を鳴らしていた。


「あんた、マジでヤバいな」

「褒め言葉として受け取っておきましょう! それにですねぇ……キメラは一匹だけではありませんよ?」

「なっ!? 鏡花!!」

「え? きゃあ!?」


 雅紀の言葉を聞いて、竜胆が弾かれたように振り返る。

 最後尾にいた鏡花の背後に見えた別のキメラが、鏡花の腕を取っている光景に焦燥感を覚える。


「あなたの可愛い妹は、頂きましたよおおおお! 天地竜胆うううう!」

「――やらせないわよ?」


 ――ザンッ!


『キイイイイィィイイィィッ!?』

「なんですって!?」


 鏡花の腕を掴んでいたキメラの腕が、突如として斬り飛ばされた。

 何が起きたのか雅紀には理解できなかったが、斬撃が飛んできた場所を見て、竜胆は思わず笑みを浮かべ、叫んだ。


「影星!」

「油断し過ぎよ、あなたたちは!」


 思わむ救援に助けられた鏡花は窮地を脱し、影星を加えた四人が彼女を囲むように陣形を組む。


「ちっ! 拳児の飼い犬がああああっ!!」

「鏡花に手を出したこと、後悔させてやるぞ! 久我雅紀!!」


 怒りに燃える竜胆は、そう口にしてデュランダルの剣先を雅紀へ向けた。

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