第7話 話、そして彼女を送り届けよう!

「怪我は無いか?」


 俺は彼女の前へ行き、声をかける。


「あ、はい。ありがとうございます……」


 彼女は少し周りを気にするようにキョロキョロしている。

(なんだろ……もしかしてビットか?)


「ルーファス、ビットも仕舞って大丈夫だ」

《かしこまりました》


 ビットが俺の周囲へと戻り、ルーファスが開いた次元収納へ仕舞われていく。


「すまん、怖がらせてたか?」

「……いえ、大丈夫です! ところであなたは……?」

「深層探索者だ。君が襲われそうになっているところを見つけて救助に来た」

「深層探索者……!! ありがとうございます、おかげで助かりました!」


 俺に向かって頭を下げ、そう言う。


「ところでここはどこなのでしょう? 転移トラップを踏んでしまいどこかの階層に来てしまったのですが……深層探索者さんがいるということは深層なのですか?」

「いや、ここは深層じゃないぞ」

「えっ!? なら一体どこなの……」

「深淵だ。俺はそう呼んでいる」

「深淵……聞いたことのないところですね」

「一般的には知られてないだろうからな。深層よりも下にあるところだ、ここは」

「深層より下…………深層が一番下じゃないんですかッ!?」


 彼女はとても驚いた様子で大声を上げる。


《面白い反応をしますね》

「だな」

「……?」


(そうだった。ルーファスの声は聞こえてないんだったな)

 ルーファスに返事した俺の言葉に彼女が疑問の目で見てくるが「なんでもない」とはぐらかす。


「ところでさっきから君の周りに飛んでいるドローンはなんだ?」

「……? あっ!」


 彼女は勢いよくドローンを掴み、何やら覗き込んでいる。


「配信つけっぱだった……」


 頭を抱えた様子で彼女が呟く。


「配信? 君、配信者なの?」

「はい! 下層探索の様子をよく配信しています。桃瀬京香と言います」


 彼女はスマホの画面を「はいッ!」と見せてくる。

 そこには俺が映っている映像とコメントが大量に流れていた。

 同接5万人という表示に目が止まる。

 冷や汗がたらりと頬をつたる感覚が。


「ルーファス?」

《確認しました。大きな話題になってますよ》

「まじ?」

《まじです》

「見せちゃいけない武器とかないよな……?」

《マスターの存在自体イレギュラーだと思われますが?》


 ルーファスは今更ではとでも言いたげな反応をしてくる。


「……それもそうか」


 納得してしまった。

 だって核エンジンとか作ろうとしてたしな、今更か。


「それじゃ地上まで送ろう。ゲートに着くまでなら配信していてもいいぞ」

「ッ!? 何から何までありがとうございます!」

「いいってことよ、流石に放ってはおけないからな。すぐに行けるか?」

「大丈夫です、結構魔力も回復してきたので」

「なら行こう。桃瀬さん」

「はい!」


 彼女を俺の基地がある場所まで進み、地上へ送り届けることとなった。



 ◆◆◆


 しばらく歩いた頃——。


「すみません。質問とかって大丈夫ですか?」


 桃瀬さんが口を開く。


「答えれる範囲なら、コメントがすごいのか?」

「え……ええ、まぁ……私が知りたいのもありますし」

「それで何を聞きたいんだ?」

「深淵についてもっと詳しく聞きたいです」

「深淵か……」


 もし国が知っていて公開していない情報であればと考えたが、ここで俺が答えないというのも違うと思い、答えることに。


「深淵ってのは簡単に言えば深層より下の階層のことを指す。ただ、深層はそれぞれのダンジョンで独立したものになっている。ほら、別のダンジョンの同じ階層に行くことはできないだろ?」

「そうですね……」

「そんな感じで深層もいけないんだが、深淵は違う。どの深層から深淵に行こうとしてもここに辿り着く。別世界みたいな場所だここは。もちろん魔物の強さもな、深層以上が当たり前だ」


 桃瀬さんが「だから空が広がっているのかぁ」と上を見上げながら呟く。


「てことは……ここ住めるんですかねぇ」

「住めるだろうね。俺も半分はそんな感じだし」

「住んでいるんですか!?」

「いや、基地があるだけ、住居は地上にあるよ。ただ――いや、なんでもない」


 「俺のゲートが特殊なだけで」と言おうとしてその言葉を飲み込む。一応は国のデータベースにダンジョンのゲートを登録しているから、調べられたら住所バレるんだった。

(危ない危ない……)


「気になりますね」

「ほら、他の質問とかは無いのか?」

「……コメントの人達が質問したいらしいのですが、いいですか?」

「あぁ」

「そしたら……」


 桃瀬さんはスマホを見て、コメントを吟味し始めた。


「ルーファス、桃瀬さんの配信のコメントのみ表示できるか?」


 それを横目で見つつ、俺はルーファスにだけ聞こえるようにして言う。


《かしこまりました》


 頭部アーマー内、左端にコメントが表示されるようになった。


「助かる。うーんっと……これとかどうだ?『どのくらい強いんですか?』っての」


 俺はコメントを読み上げ、桃瀬さんに聞く。


「あ、それ私も知りたいです!特にその着てる物とか」

「あー、これか。これはなパワードスーツだよ。色んな武器とか戦闘を補助してくれたり、飛べる」


 ガシャガチャと細かな武装を搭載しているハッチを開け閉めしたりして説明する。


「俺自身は無能力者だからね。スキルとか魔法とかなんも使えない。なんとか魔力を見たり、操作したりできるだけ」

「えっ……そうだったんですか!?それで深層探索者……」


 なんかキラキラした目で見られてる……。


「あれ、そういえば配信を見ているんですか?さっきコメントを見てるような言い方でしたけど」

「ここにコメントだけ映してる」


 人差し指で頭部アーマーをコツコツとつつきながら説明する。

 ちらっとコメントへ目線を移すと、驚きや疑問など様々なコメントが目に留まる。


「そのスーツ凄いですね」

「すごいだろ。改良を続けてはいるが自信作だよ」


 その時「行ってみたい」というコメントがチラホラと見受けられることに気がついた。


「深淵の話に戻るが間違っても来ようと思わないことだ。誇張抜きで死ぬぞ。……まぁ、そもそも深層を突破しないと無理なんだけどな」


 一応少し強め言っておいた。何かの間違いで誰かが来て、死んじまってこちらのせいにされちゃたまったもんじゃないからな。


「よし、そろそろ飛ぶぞ」

「え?」


 桃瀬さんはキョトンとした顔でこちらを見る。


「ここまで歩いていたけどゲートまでは距離があるからな」

「どうやって飛ぶんですか?」

「ん? 背負ってかな?」

「……それ大丈夫なんです……?」

「まぁ、マッハで飛ばないし行けるよ」

《ヘルメットの装着は推奨します》

「了解。それじゃこれ着けて」


 ヘルメットを桃瀬さんへ手渡す。

 桃瀬さんは目を見開き、信じられないものを見たような表情をみせる。


「どこから出したんですか!? それ」

「次元収納。アイテムボックスといった方がわかりやすいかな?」

「魔法も使えないんじゃ……」

「これは魔法でもスキルでもないよ」

「量子学とかを合わせた科学。それに魔石とかを合わせた結果の産物だね」

「つまり?」

「みんなも使えるね。膨大な情報量で脳が破壊されるかもしれないけど」

「なんか怖いこと聞こえましたよ!?」

「ん? なんのことだろうね?」


 にっこりと笑いながら桃瀬さんの方を見て言う。

 あ、フルフェイスだから見えてないか。


「まぁまぁ、そろそろ行きますよ」

「後で詳しく教えてくださいね! あと、どう捕まればいいです?」

「それなんですが、俺が桃瀬さんを抱える形でもいいですか? 背中にブースターがあるので背負うことはできないんで……」

「えっ……まぁ、大丈夫……かな」


 視界の端でコメントがざわつく。

 見て見ぬ振りをした。

 そして、桃瀬さんがヘルメットを着ける。すると突然「わっ!?」と驚いたような声を上げ、勢いよくヘルメットを取ろうとする。

 取れてないが……。


「どうしました?」

「なんか……声が……聞こえた」

「ああ、ルーファスかな?」

「ルーファス? 誰でしょう?」

「それはまた後で説明するよ。さ、よく掴まっていてくださいね」


 桃瀬さんの手を首に回してもらい、抱き抱える。そして、背部ブースターを点火し飛び上がる。


「うわあぁぁあぁぁぁっっ!!!!」


 桃瀬さんの悲鳴が空へ響いて消えていった。




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