第13話 勇者と戦士の武器論

翌日レッドローパーと遭遇した森を抜け、大陸行路の支線に出た一行はようやく臨戦態勢を解いた。ニオゼもシルフを帰し一行の空気もやや弛緩する。


「おい、さすがにもう回復しただろ」

ドーグこと「勇者アラン」はそう言って、"戦士"クランに大剣を渡そうとした。


「いやあまだ肩が痺れて……」

クランはそう言って大剣を渡されるのを拒否しようとした。


「うるせえ持て」

ドーグはそう言って大剣をクランの背のうの間に差し込んだ。


「ああクソ!これもう違うのにしようぜ!」

クランはそうぼやいた。元々剣術などからきしなクランにとってこんな大剣などただの重い飾りである。強化の術ストレングスは触媒の分量で相対的強化も絶対的強化もできるが、どちらにしても重いものを持てばその分持続時間は短くなるし、術が切れた後の後遺症も長くなる。いい事などひとつもないのだ。


「だめよ」

後ろからキリオがそう注意した。これは本物の勇者アラン一行の中にロシウスという大剣を扱う勇猛な戦士が居たからで、つまりクランもその戦士の影武者ダブルの役割を担っているのである。もっともロシウスはそれほど知名度はないので、ドーグほどいろいろ細部に拘って真似する必要はないが。


「我慢しろよクラン。俺だって片手剣なんかで苦労してんだから」

ドーグもクランを窘めつつそうぼやいた。前述の通りドーグは片手剣にはさほど長けてはいない。全くの素人ではないが彼が得意とする獲物は鎌であった。


暗黒騎士はそのイメージが死神と重なるのか、草刈り用の巨大な大鎌を武器とする、という間違った認識をされる事がある。もちろんあんな巨大な草刈り鎌を武器にするなどあり得ない。携帯性は最悪だし、攻撃方法も先端で刺すか、敵を内側に引き込むようにしなければ攻撃にならないからだ。ドーグが得意としていたのは鎖鎌である。


見た目のイメージは今ひとつだが鎖鎌は恐ろしい武器である。まず鎖の先についた分銅が中距離以上離れた敵への充分な攻撃になるし、仮に接近戦に持ち込まれても鎌を接近戦用の刃物として扱う事もできる。ナイフではなかなかできないが、鎌なら相手の四肢を切り落とす事すら可能なのだ。


しかしもちろん、それは暗器に分類される武器であり、「勇者アラン」の武器としてはいかにも相応しくない。のでいかにもそれっぽい装飾付きの片手剣を持たされて、剣術指南役からダメ出しされる程度の腕前でなんとか体裁を保っているのであった。

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