第39話 基地内でのゴタゴタ
街での遭遇戦だったので報告書が必要だと言われた。その為、基地に戻ってきた俺は報告書の作成に追われている。
「ショッピングモールで襲われるなんて珍しいですよねぇ」
そう俺に話しかけてきたのは端末を貸してくれている東北基地の女性隊員だ。この隊員は治癒部隊らしい。
「そうなんですか? 窓の近くにいたからっぽいですけどね」
「何か、魔物がザワついてますね」
「……なんかその言い方カッコイイですね?」
すると下をペロッと出して笑った。
「よく厨二病患者だと言われます。治癒部隊なのに患者じゃダメですよね? テヘッ」
(この子大丈夫か?)
最近の流行りなんだろうか。
この世界自体が厨二病を拗らせる原因にはなってそうだが。魔法が存在するからな。
刀剣部隊になってからの報告書作成はあまり経験がない。作成した書類をその女性隊員に見せる。
「こんな感じで大丈夫ですかね?」
「私に敬語なんて不要ですよ? ……うん。大丈夫だと思います」
「有難う」
報告書を印刷すると基地長室へと向かう。本来であれば、上司に渡して終わりなんだが、俺が隊長かつ別の基地所属なので直接渡さないといけない。
「報告書できました」
「あら、有難う。助かったわ。居てくれて。魔物が最近活発になっている気がするのよね……」
「調査を急いだ方がいいですね」
魔物が活発になればまた被害が増えるかもしれない。俺達が原因究明を急がなければ。
「慌てることはないわ。何もあなた達だけが世界を背負い込むことはないのよ? 私達が居るんだから大丈夫よ。一般の方達は守ってみせるわ」
基地長の目には力が宿っていた。
これまで守ってきた自負があるのだろう。
強い人なんだなと感心した。流石は基地長を任されるだけある。
「えぇ。頼りにしてます。明日まで休ませて貰いますね」
「そうしなさい。疲れを癒してから行ったってバチは当たらないわ」
「そうですね。有難う御座います」
頭を下げて部屋を出ると出た先には千紗がいた。
「なんか言われました? 大丈夫ですか?」
「あぁ。ゆっくり休んでいけってさ。魔物が活発になっているというのは本当らしい。だが、原因の救命は急がなくていいと言われたよ。良い人じゃないか」
「仕事はできる人ですもん。家にいませんでした。だから、どんな人かいまいち分からないんです」
口をとがらせてそういう千紗は少し幼く見えた。親の前では誰しもが子供に戻るんだろうか。
「冬華と雷斗は?」
「あっちで寛いでますよ。雷斗は女性隊員にチヤホヤされていて、冬華が不機嫌になってます」
「? なんで冬華が不機嫌になるんだ?」
「……はぁ」
ため息を吐いてこちらを蔑んだ目で見る。
(えぇ? 俺が何したってよ!?)
千紗について食堂に行くと明らかに不機嫌な冬華と周りに女性隊員を侍らかせている雷斗がいた。
雷斗の容姿は男から見てもいいほうだと思う。だから、他の女性隊員が興味を持つのも無理はないだろう。
「冬華……さんも…………ふき…………だっ……?」
「クソが!」
千紗が冬華に耳打ちするとさらに機嫌が悪くなった。何故か火に油を注いだようだ。
(えぇ!? 冬華めちゃくちゃ機嫌悪いじゃねぇか。暴言吐いてるよぉ。こわっ!)
ただ、この状況を快く思っていないのはこの二人だけではなかったらしい。
入口の方から一人の男が歩いてきた。昨日訓練場で見た気がする。刀剣部隊の隊員のようだ。
「おい。あんた。あんまりこの基地でいい気になるなよ? 強いのはそこの隊長だろ? お前は強くないんだから、大人しくしててくれ」
「なんなんすか? 自分は別に……。この子達と話してただけじゃないっすか!」
「さっきからマラスを倒した武勇伝を話しているじゃないか。その程度で自慢しないで欲しいな」
これは完全に喧嘩を売られているな。昨日のあれで大人しくなると思ったが、俺にだけだったか。それか、周りの女性隊員の中に意中の人でも居たのかな?
「だったら、あんたは仕留められるんすか!?」
立ち上がってそう言い放つ雷斗。
両者は立った状態で睨み合っている。
「ちょっと止めなよ! 達也、なんでそんな事言うのよ!?」
周りにいた女性隊員達も「そうだそうだ!」と言っている。これはあまりよろしくない状態である。
雷斗もこの注意には素直に従っていた方が良かったと思う。気持ちが大きくなるのはあまり良くない。
最近の鍛錬で自信が出てきていいなと思っていたが、こういう形で悪い方向に出るとは。驕るのはダメだとあれほど言ったのにもう忘れたんだろうか。
「う、うるさい! こいつが別の基地なのにデカい顔してるのがいけないんだ! 僕と勝負しろ!」
「のぞむところっす!」
売り言葉に買い言葉出受けてしまったようだ。
「剣で勝負だ!」
「いいっすよ!」
わざわざ不利な勝負を受けたのは、男として引けなくなったからだろう。
こういう時に男というのはカッコつけたくなる生き物なのである。
(俺にも思い当たることが一つや二つでは収まらないくらいあるけどな)
睨み合う二人を呆れたように見ていたのは冬華と千紗だった。
これから二人の勝負とやらが始まる。
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