第29話 魔力制御は難しい
福島飯坂インターに着いた。
そこで高速を降りる。
運転手も後ろの二人もルンルンだ。
インターから少し走った所じゃないと温泉街にはならないようだ。看板を頼りに温泉を探す。
「あっ! 源泉かけ流しって書いてるよ!」
なぜ源泉かけ流しがいいか、成分がどうのとかいうはなしではない。
もう廃業している旅館なので、手入れされていないのだ。だからそのまま溜まっている風呂とかには入れない。
だから一回溜まっているお湯を流して綺麗にしてから、流れてきているお湯を溜めて入ろうという計画であった。
車は千紗が思った通りに運転しているので俺達に選択権はない。
「千紗さんどこいくんすか?」
坂を登って行っていて、何処に行くのかは千紗のみぞ知る。
「ここどう!?」
着いたのは歴史のありそうな古くからあるのであろう旅館がある。かなり放っておかれている物だから建物が傷んではいるが、一泊くらいなら大丈夫だろう。
「あぁ。良さそうだな」
「でしょぉ!? 源泉かけ流しって書いてたし、端末で調べたら部屋もよさそうだったよぉ!」
そうは言うが、いつの写真を元にしているのだか。廃業してから百年は経っているだろうからなぁ。温泉がまだ出ているかも怪しい。
入り口にあった自動ドアを開いていく。そして中を見ると荒れてはいるが、使えそうだ。
「結構年期入ってるっすねぇ」
「恐らく異世界化時代の初期の時からそのままじゃないかしら。これまで入ってきた建物とは年期が違いますわ」
雷斗と冬華も中を見ながら感心している。
「温泉何処だろー!?」
千紗がはしゃいでお風呂の方へと走っていく。
「自分も見たいっす!」
「ワタクシも見ておこうかしら」
みんな子供みたいだなぁと思いながらも自分の足も風呂へ進んでいた。たまにはこういう気を抜く瞬間があってもいいだろう。
なんか最近同じことを考えた気がするが、それは置いておこう。今は風呂を見ることが先決だ。
「わー! すごーい! 石造りだぁ。これは少し汚れを取る必要がありそうだなぁ。でも温泉の匂いする! いいねぇ!」
千紗が興奮して今にも脱ぎそうだ。
「掃除したらお湯溜めて入ろう。反対側には俺と雷斗が入るから、こっちは千紗と冬華入っていいぞ」
「了解です! では、清掃に入ります!」
気合いの入り方が違うな。
腕まくりをして用具入れにあったブラシでこすり始めた。
「俺達も行こうか」
「うっす!」
反対側の入り口の暖簾を潜り、大浴場を同じようにブラシでこすって掃除する。ある程度は妥協が必要なようだ。俺達はすぐに妥協した。
源泉が少し熱いくらいの温度なのを確認してそれを溜める。
「溜まるまでの間。魔力コントロールの鍛錬をするか?」
「はい! やります!」
座禅を組んで座り、集中力を高める。
「まず、魔力の球を出す。ただ出すだけだとフニャフニャになって霧散してしまうんだ」
「ではどうやって維持を?」
「横か縦に回転させるんだ。自分の得意な方でいい。一方向でなくランダムができるならそれでもいい。やってみるんだ」
「はい! うぬぬぬぬ」
雷の魔力球を出すことには成功したが、球体を作るのに苦戦している。歪な球体になっているのだ。
「ぬぅぅぅぅぅわぁぁぁ!」
コントロールを失った魔力球は隣との隔てられていた壁をぶち抜いた。
建物が崩れるかと思うぐらいの振動と爆発音。しまいには悲鳴が聞こえた。
何も考えず穴を覗いてしまった。
目に映るのは何も服を着ておらず、辛うじて腕と足でなにも見えていない状態の千紗と冬華であった。
「何見てんのよぉぉぉ!」
「天誅ですわ!」
桶が飛んできて咄嗟に叩き落してしまった。
「あぁ。すまん。見るつもりはなかった」
冷静に謝り事なきを得ようとする。
「氷よ!」
氷が射出されてきて俺の脳天を捕らえた。頭から何かが抜けていく感覚に襲われ、目の前は暗くなった。
「刃さん! だいじょ…………────」
目も前は暗い。
体はなんだか温かい気がする。
だが、背中がゴツゴツしていて痛い。
「……ん!? ……さん!? 刃さんっ!」
ハッと目を開けると見知らぬ天井。湯気が漂っている。
「大丈夫っすか!?」
「あぁ。なんだか寝てしまっていたのか?」
「冬華さんのアイスバレッドくらってのびてたんすよぉ。やりすぎなんす。魔法使うなんて」
雷斗は眉間に皺を寄せて不機嫌そうにしている。
段々と思い出してきた。魔力制御不能になった魔力球が壁を突き破って俺が覗いたからこうなったんだ。
「どのくらいのびてた?」
「あぁっと十分くらいじゃないっすか?」
「ちさー! とうかー! すまんかったぁー!」
ここで穴をまた覗くような失態はしない。
「仕方ないから許しますー。記憶消してくださーい!」
「ワタクシもやりすぎましたわー。ごめんなさいですわー!」
あちらが許してくれるというので胸をなでおろした。
「自分だったら死んでるところっすよ!」
「まぁ、俺でよかったわ。雷斗の目に毒だもんな」
「まぁ、興味無いっすけどね」
雷斗が辛辣にそんなことを言うものだからあちらも黙って居なかった。
「聞こえてるわよー!? いい加減にしなさいよぉー!?」
「おぉ。怖い怖い。なんでもないさー! さっ、俺達も入ろうぜ」
目一杯溜まった湯を見てそう提案するのであった。
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