第88話 水着姿に見惚れる
栞の姿を見て、俺は昨日の楓さんの言葉を思い出していた。
『しおりんの清楚さは損なわずに、それでいて大胆!』
確かそんなことを言っていたはず。
たぶん大胆というのはビキニタイプをチョイスしたことなのだろう。インドア派の象徴である白い肌。栞はその透明感のある肌を惜しげもなく晒して、太陽に照らされて輝きを放っている。
そして、知ってはいたことだがその細さ。くびれのある綺麗なウエストライン。だと言うのに、出るところはしっかりと出た体型で、ビキニの生地に覆われた胸はその存在を主張し、男心をくすぐるラインを形成していた。
露出の少ない服装をしていることの多い栞がまさかビキニを選ぶとはという驚きはあるが、似合っていないかというとそれはまた別の問題だ。小柄ながらもスタイルの良い栞に似合わないわけがないのだ。
大胆にその肌を露出しているはずなのに、まるでいかがわしい雰囲気にならないのが栞らしい。
フリルのあしらわれた白い水着が栞の可愛らしさと清楚さをこれでもかと引き出しているおかげだろう。そして胸元にある黒いリボンもちょっとしたアクセントに。
それだけでも十分だというのに、今日の栞の魅力はそれだけでとどまらなかった。普段はストレートにおろしている髪を、ワンサイドアップにしてきていた。落ち着いた雰囲気の栞にあどけなさと活発さがプラスされて、それが水着ともよく合う。
そんな姿を見せられて見惚れるなというのが無理な話だ。俺は栞をしっかりと視界におさめたまま固まってしまっていた。
「涼? ねぇ、涼ってば!」
「え、あ、うん」
栞に呼ばれて、ようやく我を取り戻した。でも未だに栞から目が離せない。その栞は俺をじっと見つめて、感想を待っているらしい。反応のなかった俺の腕をちょこんと掴み、不安そうに見上げてくる顔に心拍数が上がっていく。
「えっと、ごめん……。すごく似合ってるよ」
「本当?!」
「うん、可愛くて、言葉が出てこなかった……」
「よかったぁ。へへ、嬉しい……。恥ずかしいけど、頑張ったかいがあったよ」
俺の言葉に安堵し、照れくさそうに頬を染めながらも嬉しそうな顔をしてくれた。
どうにか褒めることに成功したおかげで、少しだけ余裕が出てきたので周りを見渡してみると、栞に向かう視線がいくつかあるように感じる。ここまで可愛らしい栞なのだから、見るなというのが無理な話なのかもしれないが、大切な彼女をジロジロと見られるのは正直面白くない。
「本当は他の人には見せたくないくらいだよ。俺が独り占めしたい」
ただ、いきなり隠してしまうのがもったいなくて、栞の視線避けにと用意してきたラッシュガードを着せることはできなかった。
「ふふっ、心配しなくても私は涼だけだよ」
栞はそう言ってくれるが、一応周りへの牽制のために栞の手を取ると、栞も握り返してくれて安心する。と思ったのもつかの間、栞は俺の腕に身体を押し付けてきた。腕が幸せな感触に包まれてドキドキが止まらなくなってしまった。
こんな栞を独り占めしたら、きっとあっさり理性なんて吹き飛んでしまうんだろうな。栞と見つめ合いながら、そんなことを思った。
「あーあ、しおりん達さっそくやってるよ。私も高原君に感想聞こうと思ってたのにー!」
「やめとけ……。今近づくと骨まで焼かれちまうぞ……。代わりに俺が言ってやるから。似合ってるぜ、彩」
「遥からは前に言ってもらったからなぁ……」
「なんだよ、俺からじゃ不服か?」
「へへー、冗談だよっ! 遥に言ってもらうのが一番嬉しいに決まってるじゃん!」
「お、おぅ……」
俺達が大概なバカップルなのは自覚しているけど、あっちはあっちで負けていないと思う。
一応楓さんのことにも触れておくと、明るい雰囲気の楓さんにぴったりのオレンジ色の水着を着ている。そして栞と合わせるためかこちらもビキニタイプだ。楓さんの方は腰にパレオを巻いていた。
よく似合っているとは思うが、言葉にすると栞が拗ねるかもと思って口にはしなかった。それに遥が褒めているのだから、俺からのは不要だろう。
「まぁ、とにかく遊ぼうぜ。このまま突っ立ってても時間がもったいないしな」
「おー! ほら、しおりん達もっ!」
「あっ。ちょ、ちょっと待って、彩香!」
楓さんに背中を押されていざプールへといったところで、それに栞が待ったをかけた。
「ん? どったの、しおりん?」
「えっとね、言い忘れてたことがあるんだけど……」
「ん、なに? 忘れ物でもしてきた?」
「ううん、そうじゃなくてね……。ここまで来てこんな事言うのもあれなんだけど……。私ね、泳げないんだ……」
「えっ?!」 「なっ……!」 「えーっ!」
反応は三者三様だが、驚いているのは皆同じ。俺も泳ぎは得意というわけではないが、それでも25メートルくらいならなんとか泳げる。色々とそつなくこなす栞が泳げないというのは驚きだが、苦手なこともあるのかと思うと可愛らしくもある。
それでも心配なものは心配だけど。
「別に水が怖いってことはないんだけど、やっぱりね……。だからね、涼」
「う、うん?」
「プールの中では私のことちゃんと捕まえておいてくれる……?」
「わかったよ。絶対離さないから」
栞のことを任されている身としては、栞に何かあったら聡さんと文乃さんに顔向けできない。それに人も多いのではぐれたりしてもイヤなので、水からあがってもなるべく離さないでおこうと思う。しっかりと栞の手を握り直すと、ほっと安心したような顔をしてくれた。
「まぁ、ガチで泳ぐような場所でもねぇしさ、適当に楽しもうぜ? 一応俺達も気にはしとくけど、黒羽さんのことは涼がなんとかするってことで」
「うん、ちゃんと俺がついてるからね?」
「うんっ! ありがとね、涼」
遥の言う通り、ガッツリと泳ぐというよりも水と戯れるという遊び方がメインになるはず。いざとなれば監視員も結構な人数がいるようだし、さほど問題にはならないだろう。
俺達は軽い準備運動をしてから、ようやくプールへと向かうことになった。
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今回もAI画像をご用意致しました。
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