俺だけ異世界転移を拒否したらっ!

ナガワ ヒイロ

第1話 俺だけ異世界転移を拒否した





「皆さんには是非、異世界を救っていただきたいのです!!」



 やたらと可愛いらしい美少女が俺たち1年A組に向かってそう言った。


 真夏の蒸し暑い日だった。


 気が付くと俺たち1年A組は真っ白な不思議空間に立っており、軽くパニックに陥る。



「は? なにこれ?」


「ドラマの撮影とか、ドッキリとか?」


「いやいや、うちらさっきまで教室にいたじゃん」


「すっげー!! これ異世界転移だろ!!」


「じゃあ、あの可愛い子って女神なのかな?」



 いや、パニックに陥ってはいないな。


 割と落ち着いている。


 ただあまりにも現実味が無くて、理解が追いついていないだけかも知れないが。



「ふふふ、そうなのです!! 私は女神なのです!! そして、貴方たちは一人一人がチートスキルを持った勇者たちなのです!!」


「「「おおおおおおおッ!!!!」」」



 クラスメイトの八割以上が今の状況に順応して良いリアクションを返す。


 いや、お前ら順応し過ぎだろ!!



「ちょっと良いですか、女神様」



 まず最初に挙手をして言葉を発したのは、1年A組のイケメンリーダーこと天之川あまのがわ勇輝ゆうき

 イケメンオブイケメン。顔も性格もイケメン過ぎて男にも女にもモテるイケメン男。


 俺は一度、「イケメンは死ね!!」と本人に言ってみたことがある。


 すると、奴はこう言った。



『イケメンだなんて、照れるじゃないか。亜久津あくつも僕ほどじゃないけど、イケメンだよ』



 もうビビったよ。


 結構なナルシストでもあるが、満面の笑みでそう返してくるイケメンだった。


 女神が天之川の質問に笑顔で応じる。



「はい、何でもお答えするのです」


「では、さっき異世界を救えとおっしゃいましたが、具体的に僕たちは何をすれば?」


「人々を苦しめる魔王を倒して欲しいのです。魔王は悪逆な魔族を率いて村や街を襲い、世界征服を目論んでいるのです」


「魔王にも何か事情があるのでは?」


「いいえ、魔王は絶対悪。人間を殺すためだけに存在する殺戮兵器と言っても過言ではないのです」



 女神がつらつらと天之川の質問に答える。


 天之川はしつこいくらいに女神に質問しまくって、小一時間が経った。



「……分かりました。僕は異世界に行きます」


「ありがとなのです!! お陰で世界が救われるのです!!」


「いえ、まずは自分の目で見て真実を確かめます」


「ふぇ?」


「本当に魔王が絶対悪なのか、分かり合う道は無いのか。それを確かめるために僕は行きます」



 一方の意見を聞くだけではなく、しっかりと相手の話も聞くスタイル。


 天之川というイケメンは、昨今のライトノベルにありがちな馬鹿な噛ませ勇者ではない。



「その上で人類と魔族が共存できないなら、僕が魔族を滅ぼします」



 平和な日本で生まれ育ったはずなのに、この覚悟は何なのか。


 本当に同じ日本で育ったのだろうか。


 甚だ疑問である。



「皆はどうする? 自分で決めてくれ。でも、一緒に来てくれたなら、僕は嬉しい」


「水臭えぞ、勇輝!!」


「そうよ!! 私たちだって戦うわ!!」


「おう!! お前は一人じゃねぇぞ!!」


「あ、俺はパスで」


「ほら、普段から空気が読めない亜久津もこう言って――え?」



 俺は皆がノリノリで異世界に行こうと賛同する中、全力で拒否の意志を示した。


 俺の名前は亜久津あくつ希空のあ


 少し性格が捻くれているだけの、ノーと言える日本人である!!


 俺が堂々と胸を張っていると、次第にクラスメイトが慌て始めた。



「ちょ、亜久津!? おま、今のはどう考えても皆で異世界に行く流れだったよな!?」


「ほら!! 女神様もポカーンってしちゃってるじゃない!!」


「く、空気を読もう? ね? ほら、もう一回、もう一回だけ今の流れ最初からやるから!!」


「……分かった」



 俺は頷いた。



「よし、天之川!! もう一回!! よーい、アクション!!」


「皆はどうする? 自分で決めてくれ。でも、一緒に来てくれたなら、僕は嬉しい」



 天之川が再び同じことを言う。

 ノリの良さもあいつのイケメンっぷりが高い理由の一つだよな。


 まるで先程の流れを辿るようだった。



「水臭えぞ、勇輝!!」


「そうよ!! 私たちだって戦うわ!!」


「おう!! お前は一人じゃねぇぞ!! ほら、亜久津!! お前の番だぞ!!」



 俺はジ◯ジョ立ちしながら、こう言った。



「――だが断る!!」


「「「なんでぇ!?」」」



 なんで? そんなこと、決まっている。



「一つ訊こう、女神(笑)」


「え? なんか喧嘩売られたのです?」


「気のせいだ」


「……何が知りたいのです?」


「異世界に、ゲームや漫画はあるのか?」


「へ?」


「エアコンはあるのか? テレビはあるのか? ポテチやコーラも無いとは言わないよな?」


「え、えーと、家電製品は無いのです。ポテチやコーラは作ればあるのです」


「つまり、無いわけだ」



 ほら見ろ。



「やっぱりな。異世界ってのは総じて文明レベルが低い。昨今のライトノベル通りだ。そこに俺たちが行って文明を発展させてりするのは王道だろうが、ハッキリ言おう。――面倒だ!!」


「!?」



 女神が目をギョッとさせるが、構わず続ける。



「俺たちは最高の環境にいる。美味しい食事ができて、毎日お風呂に入り、清潔でふかふかのベッドでゴロゴロして寝る。なのに何故わざわざ危険満載な異世界に行くのか」


「そ、それは、ほら!! あれなのです!! 魔王を倒せば富と名声、地位を得ることができるのです!!」


「そんなカスみたいなもん得て何になる!!」


「カス!?」



 富より安定、名声より平穏、地位より趣味。


 俺が思う俺の人生を豊かにしてくれるものはこの三つだ。


 だからどれも必要無い。



「で、でも、ほら!! 異世界でのドキドキワクワクな冒険とかあるのです!! 魔法やスキル、ステータスだって向こうの世界にはあるのですよ!!」


「……ふむ。たしかに、それらは魅力的だ」


「なら――」


「だが俺は、王道を好まない。仲間と共に冒険するのはファイ◯ルファンタジーでもドラゴンクエ◯トでも体験しているからな」


「ゲームと一緒にしちゃ駄目なのですよ!?」



 俺が異世界に求めるもの。それは残念ながら、王道ではないのだ。



「俺はどちらかと言うと、主人公が仲間たちとの大冒険を繰り広げる裏側で暗躍したり、謎の第三勢力として戦いたいタイプなんだ」


「「「あ〜、分かる」」」


「ちょ、どうして一部の勇者たちは理解を示しているのです!?」



 意外と頷いてくれるクラスメイトが多くて、俺は少し嬉しかった。


 そして、俺は女神に畳み掛ける。



「以上!! 俺は異世界に行きたくない!! 一生日本の平和な環境で生きたい!! これ、ダジャレじゃないからな!!」


「誰も何も言ってないのです!! そ、そうだ、勇輝様も何か言ってやってくださいなのです!!」



 女神が天之川に話を振る。


 いきなり下の名前で呼ぶとか、上目遣いしたりとか、実にあざとい。


 しかし、イケメンな天之川はその程度の色仕掛けなど毎日のように食らっているのだ!!



「こういうのは、本人の意志を尊重するものだと思います」


「ぐぬぬぬ!! 正論なのです!!」



 女神が歯噛みする。



「……はあ、分かったのです。ですが、元から貴方に備わっているチートスキルはともかくとして、付与した転移特典スキルの【鑑定】と【アイテムボックス】は返して貰うのです」


「いや、迷惑料だ。貰っていく」


「!?」


「何を驚いているんだ? 高校生という、受験勉強に時間を割かねばならない学生の時間をこうして奪ったんだ。迷惑料なんて当たり前だろう?」


「そ、それは……」


「当たり前、だろう?」


「……はい、なのです」



 至近距離でメンチを切ったら、女神がしゅんとした様子で頷いた。


 そんなに凹まれるとまるで俺が女の子から強請ったみたいじゃないか。被害者は俺だってのに。



「じゃ、じゃあ、貴方は地球に送り返すのです」


「おう。じゃ、皆は異世界の方で頑張ってな。応援してるぜ」


「「「亜久津も元気でなー」」」



 俺はクラスメイトたちに手を振って、一人地球へと帰還したのであった。








――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント主人公設定

亜久津は誰とでもそこそこ仲良くなれるタイプの人間。しかし、二人一組を作る時に先生とペアになりやすい。クラスメイトからの認識は「いつも一人で放っておけない」という感じ。



「クラスメイトが面白い!!」「女神がアウェーなの草」「これは続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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