響け

瑠奈

プロローグ

 音が出ない。


 夏の吹奏楽コンクール。これを抜ければ十三年連続全国大会出場……だったのに。 


 満を持して選んだ曲。クラシックに詳しくない人でも一度は聴いたことがあるであろう名曲、『マードックからの最後の手紙』。この曲の最後には、ホルンのトリルがある。ホルン担当の私にとっては、最後の大仕事。


 大きく息を吸ってマウスピースに口を当て、息を吹き込む――出ない。


 指揮をしていた先生が目を見開く。


 伸ばしの音だけが小さく響き、最後の数小節を吹いて曲は終わった。


 終わった。全部終わった。私の吹奏楽人生全てが。


 鳴り響く拍手が雑音にしか聞こえない。達成感が絶望感に変わった。何も考えられない。私はうつむいたままステージを出た。



 ダメ金。それは、金賞は取れても先の大会には進めない残念な賞。


 張り出された結果発表の紙。私たちの学校は金の文字が書いてあった。けれど、全国大会出場の枠に丸はついていなかった。


 突然、周りの視線が刺さってきた。刃物に刺されたみたいに体中が痛い。


 吐き気がしてきて、私はトイレに駆け込んだ。トイレの上に屈みながら、私は吹奏楽への情熱が急激に冷えてきたのを感じていた。後輩が探しに来たけど、口が動かなかった。



 その日私は、ホルンを棄てた。

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