第20話浅田理事長side

「お嬢さんのお話は大変参考になったわ」


 え?!

 アレが参考になったのか?

 どう聞いても惚気以外の何物でもなかった。

 それとも大場夫人にとっては違ったと?何かを感じたのか?母親の勘とかで?


「じゃあ!私達の仲を認めてくれるんですね!!」


「認める以前の問題だわ」


「え……?」


「ああ、勘違いしないでね。私は、を反対している訳じゃないの。結婚したいのならすれば良いと思うわ。勿論、お嬢さんがを産みたいと望むのならそうすればいいわ。でもね、残念ながらお嬢さんが言う“大場家の息子”に“久志”という名前の男の子はいないの」


「…………は?」


「だから、お嬢さんが“大場家の嫡男の嫁”にはなれないわ」


「な、なにいってるの……おばさん?変なこと言って……がいるのよ?ここに……。おかしな事を言って煙に巻こうっている気?そんなことしたって……」


?」


「そうよ!」


「ふふっ」


「何がおかしいの!!」



 妙だ。

 夫人の言い回し。

 を廃嫡する気か?

 それとも絶縁した後なのか?だから本人がこの場にいない……と?



「だって、おかしいんですもの」


「何がおかしいって言うのよ?」


「お嬢さんはさっきから『私の孫がお腹にいる』と言うんですもの」


「実際、いるの」


「あらあら。それじゃあ、お嬢さんは犯罪者ね」


「なんですって!!?」


「だって、“私の孫”ならお嬢さんは、という事になるわ。それは“私の息子”に性的虐待したということ。つまり犯罪者になるの。お分かり?」


「…………な、なに……いって……」


「“私の長男”は今年4歳。お嬢さんのお腹の中の子供の父親が“私の長男”なら私は今すぐ警察に通報しなければならないわ。でも、どうやら別人のようね。それにしても不思議なものだわ。だってそうでしょう?“私の夫”の母校からいる筈のない“高校生の息子”の事で速達状が届いたんですもの。それも保護者宛てとご丁寧に書かれていたわ。不思議ねぇ。二人いる息子の一人長男は幼稚園児でもう一人次男はまだ幼稚園にも通っていない二歳。上の子長男は夫の母校ではない、別の幼稚園に通わせているのに。私、最初は新手の詐欺かと思ってしまったわ。でもね、学校に問い合わせたところ、『大場家の御子息で間違いございません』と返答されたのよ。本当に何を言っているのかと困ってしまったわ」



 にこやかに笑いながら言う大場夫人に大人たちは絶句する他ない。

 夫人の言葉が本当なら我が校に在籍している“大場家の嫡男は偽物”という事になる。校長も二の句が継げぬ有り様だ。どういうことだ?大場久志は間違いなく在籍していて、大場家の息子だ。保護者の欄にも大場の名前があるし……まさか……あいつ……。


 俺は咄嗟に保護者用の欄を確認する。

 名前の記載は、大場宗久。

 間違いなく大場の奴だ。

 だが父親の欄だけにしか記載がない。つまり母親の欄は空白……偶々か?

 いや、そんな筈はない。だが学園の保護者欄の記載は必ずしも両親を書く必要はない。片方だけで十分だという暗黙の了解がまかり通っている。だから学園側は基本父親の記入されているのを確認した時点で「問題はない」という見解になる。母親は空白でも特に気にしない。だがこれは……。この場合果たして「問題ない」といえるのか?



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