第7話陽向side

「お帰りなさい」


 今日も晃司は酔いつぶれて帰って来た。

 ヘロヘロ状態で、一人じゃ歩けないらしく秘書の北村さんに支えられている。


「いつもごめんなさいね」


「いえ、これも仕事ですので」


「そうだ!お茶をいれるから上がっていって」


「もう深夜です。奥様の手を煩わせる訳には参りません」


「やだ!遠慮しないで!」


「いいえ、そういう訳には参りません。外に運転手も待たせている事ですし、ここで失礼させていただきます」



 一礼すると、北村さんはさっさと帰って行った。

 北村さんは晃司の今の秘書。けっこうイケメンなんだけど、なんだろ?冷めてるっていうか、素っ気ないっていうか……。あの眼鏡のせいかな?なんだか厳しいイメージがある。何度か会ってるけど、言葉遣いが丁寧過ぎて距離を感じるのよね。私の苦手なタイプ……。前の秘書もちょっと苦手だったんだよね。前は女の人だったけど、あの人も一歩下がってる感があった。心の距離っていうのかな?そんな何かを感じたんだよね。晃司は「俺の妻だから遠慮してるんだろ」って言うけど。その遠慮がイヤなんだよねぇ。妙に余所余所しくって。


 北海道の三年間が最高だったからかな?

 こっちでの生活に物足りない気がしてるんだ。


 新婚生活が恋しいな。



「奥様、旦那様を寝室にお連れいたしました」


「え?あ、うん。ありがとう」


「それでは失礼いたします」


 使用人が家に居る事にも未だに慣れない。

 苦手な家事をしてくれるからありがたい存在だけどね。でも自分の家に知らない人が居るってなんだかな……変な感じがするんだよね。晃司は慣れてて何も感じないみたい。嫌じゃないのかな?他人が家に居るって……。



 う~~ん。

 それよりも晃司がもっと家に居てくれると良いんだけど。


 お偉いさんになってから海外での仕事が増えちゃった。

 私も一緒に行きたかった。でも娘が小さかったからなぁ。結局、晃司一人で単身赴任。連絡はマメに取り合ってるけど……。


 はぁ~~~……。


 あ!いけない!溜息が出ちゃった。

 キョロキョロ。

 周囲を確認して誰も居ない事にホッとする。


 使用人に見られようもんなら明日には晃司から質問攻めにされちゃう。ううん。晃司だけじゃない。お義父さんやお義母さんからも「何かあったのか?」って聞かれちゃうよ。心配性っていうのかな?妙に過保護なんだよね。



 あぁ……北海道時代が懐かしいよ。

 あの頃は普通の生活だったから余計に……。









『暫くは新婚気分を味わいたい』


『二人の暮らしを大事にしたいんだ』



 晃司の転勤についていった頃に言われた。

 後から聞いた話だと、前の奥さんからの「子供欲しい」攻撃が凄かったらしくて、私と再会する前からレスだったらしいのよね。

 それを言われちゃうと私としては「そっか、大変だったね」としか言いようがなかった。

 ま、私は別に子供がいてもいなくてもどっちでも良かったから特に問題ない。子供云々より、晃司と結婚できたことへの喜びが強かったから気にならなかった。


 私と晃司は話し合った結果、北海道にいる間は子供を作らない事に決めた。


 毎日が楽しかった。

 一緒に出掛けたり、買い物に行ったり。

 もう隠れて会う必要がない。堂々と腕を組んで歩ける。


 本当にあっという間だった。

 楽しい時間って早く終わっちゃう。

 三年後、私と晃司は約束通り、東京に戻って晃司の実家に入る事になった。


 


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