第44話修side

「やっぱり嫌な女よね!陽向って!!」


「ホント!それ!」


「あの自慢話は付き合い切れないわ!」


「彼氏からのプレゼント自慢は良いけどさぁ、あれって貢がしてるだけじゃん!」


「それよ!夏休みに別荘に連れて行ってもらった、次は沖縄の別荘に遊びに行くって!有り得ないでしょ?しかも水着新しく新調するのにも付き合って貰うってなに!?彼氏っていう名の財布じゃん!」


「遊びに行く時も彼氏の全額負担だって聞いた時は流石に引いたわ。幾ら金持ちの男を捕まえたからってさぁ、それはない。少しは割り勘とかしたら?って思ったわよ」


「貢いでる彼氏も陽向のあざとさに気づかないって馬鹿じゃない?あー可哀想、高校生で出費を男が全部担うなんて!」


「あのブランドのバックとか買う時幾らすんの?」


「まぁ簡単にワンランク上の物が買えるんじゃない?」


「せいぜい彼氏から愛想つかされて捨てられなきゃ良いけど!」



 中学の先輩達か……。

 どうやらさっきまで陽ちゃんと一緒だったようだ。

 この先輩達は陽ちゃんの友達らしいが、本当に友達か?と思う節が多々ある。誰が聞いているか分からない住宅街で友達の悪口を言って平気でいるのだ。彼女達の神経を疑う。



「陽向って、昔からああだよね」


「まぁね、頭が良いから上から目線の物言いするよね」


「っていうか、わからない部分はすっ飛ばしてるじゃない?陽向ってさ」


「それはある!」


「天然ぶってるっていうか、良い子ちゃんぶってるよね?」


「意地悪い女って言うより、一言多いと言うか。だから女子からあんまり好かれてなかったよね?」


「高校が別になった私達と未だにつるんでるんだもん。学校に女友達いないんじゃない?」


「ああ!言えてる!」


「でも、生徒会に仲の良い子がいるって言ってなかった?なんとか物産の令嬢とか?」


「陽向に騙されてるんじゃないの?」


「だよね!外見で騙される子は中学にもいたもん!」


「ホント、男は女を見る目ないよね」


「そうそう」


 上から目線……天然ぶってる……女友達がいない……騙される……。

 ぽんぽん飛び交う雑言にいちいち突っかかるほど馬鹿でもないが。陽ちゃんの評価が酷すぎた。

 ていうか。ここ!住宅街の道路沿いだし、そんな場所で大声で話すような内容じゃない!


 偶然、聞いてしまった内容に俺は、不快感より違和感を覚えたのだ。




 陽ちゃん……。

 陽向さん。

 彼女を悪女と呼ぶ者は多い。

 言動からして「そうだ」と同意する人は多いだろう。


 わざわざ金持ち学校に通って、そこで恋人を作った。

 最終的に結婚したんだ。知らない人間が……いや、よく知った俺ですら思う。


 男目当てで金持ち学校に行ったんじゃないか、と。

 実際、そういう下世話な話題は何度も噂された。

 鈴木家が没落した時は「あんな女を選ぶからだ」と陰で何度も言われている。


 陽向さんに悪気はない。

 悪い事なのに何を言っているのかと思われるが、本当に彼女は悪意がなかった。


 学生時代に二人を応援していた人達の大半は表舞台に出られなくなっている。

 何があったのかは分からない。それでも何かをやらかして相応の償いをしている人が多数を占めている――らしい。



『あの二人に人生を壊された奴らは多い』


『周囲にどんな影響を与えるかなんて考えない奴らだ』



 そんな声が聞こえてくる。

 学園は火消しに必死だ。あの二人の母校という事もあって評判が芳しくない。


 そんな事も二人は知らないのだ。


 鈴木グループの筆頭株主が誰なのかも知らないのだろう。

 鈴木先輩の元奥さんの友人の家だという事もきっと知らない。

 親友の妻の実家でもある事も……。

 俺がそこの弁護士の一人だという事も……何も知らないでいる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る