第25話とある女社長side

 一週間後、アメリカにある大学付属の語学センターへ私は留学した。そこはアメリカの中でも特に英語力を身に付けられる事で有名だった。

 今更、アメリカ英語を学ぶ事を億劫に感じながらも、実際に来てみたら違っていた。日本で学び、旅行でしか来ないアメリカ。聞く分には問題ないアメリカ英語だが、いざ自分の意見を英語で伝えるとなればまた話が違う。私の意見を聞いてくれた先生は「あなたの英語はとても綺麗だけど、少し発音がたどたどしいからまずはそれをしっかりして行きましょう」と言ってくれて、私は一も二もなく頷いた。

 そうやって忙しく過ごしていると日本での日常が過去の物となるのは早かった。一年後にはアメリカの大学へと飛び級入学が叶い、新しい環境で慣れないなか行われる様々なアクティビティーは楽しかった。


 友人もできた。


 大学卒業後、暫くの間、高梨物産のアメリカ支社で働いていた。

 その間に、鈴木君が伊集院家の令嬢と結婚した事を知った。

 あれだけ想いあっていた陽向と別れた事に、その頃になると驚かなくなっていた。……本当のところショックだった。あの二人の間に入る隙間なんかないと、そう思い込んでいたから。現実を考えるとそれは難しく、両親の言っていた事は当たっていた。ただ、鈴木君が結婚してからも何故か高梨家は彼らと距離を取ったままだった。


 そうして数年後、鈴木君が陽向と再婚したことを知った。


 二人は最悪の形で結ばれたのだ。


 この時、日本を立つ前に母に言われた事が嫌でも思い出された。


『お友達の助けを借りて、ダニエルとメロディの二人はトロッコに乗ってどこまでも走って行くわ。終着点が何処かはわからないけれど、必ず終わりはやってくるわ。その時、貴女は終着点にいてはいけないのよ』


 母は陽向と鈴木君の関係を昔の映画に例えた。



 小さな恋のメロディ――

 映画の中の二人は線路上にあるトロッコに乗って野原をどこまでも走って行く。それで物語は終わっている。


 私はトロッコに乗った二人をただ見ているだけの友達の一人に過ぎない。

 大人達を一時的に撃退させて喝采を上げた子供達と同じ。ただ、それだけで何も出来ていないのも同じ――

 だけど私はもう大人だから、そんな事しない。

 終着点は何処に在り得るのだろうか?その答えはまだ分からないけれど『その時』が来た時に、自分は喝采を上げた子供にはもうなれない。




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