【完結】「離婚して欲しい」と言われましたので!

つくも茄子

第1話離婚1

 時は、平成最後の年。

 平成31年4月1日――


 それは突然の事でした。

 仕事から帰宅した夫は開口一番にありえない事を言い放ったのです。


 

「離婚してくれ」



 突拍子のない言葉でした。


 離婚と言いましたか?

 急にどうしたのでしょう?


 今日は4月1日。エイプリルフールです。それに合わせた彼なりのジョークでしょうか?……その割には表情は硬く、真剣な眼差しです。『エイプリルフールの嘘』など今まで一度も言った事はありませんし……。



「聞きなれないセリフですわね。急にどうなさったのですか?」


「すまない。君と別れたいんだ」



 そう言われたところで「はい、解りました」と応じる妻はいません。そもそも離婚する理由がありませんもの。それとも、よんどころない事情が彼にはあるのかしら?



「まぁ……のですか?」


「いいや」


「それでは、のですか?」


「いいや」


 会社や義両親は関係ないようです。なのに、「離婚したい」と言うのですね。

 この半年、仕事で帰りが遅かった事が原因でしょうか?仕事によって急な残業になる事は子会社を任された時から度々ありましたけれど……。

 そういえば、ここ一ヶ月は自宅に帰って来るのも稀な有り様でしたわ。彼は「仕事が立て込んでいる」「急な出張が入った」と連絡が来てましたけれど……。


 私、てっきり仕事関係かと思っていましたわ。



「離婚の理由をお伺いしても?」


 私の質問に夫は黙りました。


「それは……」


 言い淀んでいます。

 ですが「理由なんて特に無い」という雰囲気では無くってよ?

 離婚の理由……考えつくのは女性問題でしょうか?そう考えれば半年間の行動が理解できます。と言うよりも、それ以外に考えられません。


 彼の目は泳いでいます。

 言いたくない。でも言わないといけない――と、表情に出ていました。どうやら罪悪感はあるようです。「……実は好きな人ができたから」と正直には言って来られない感じですわね。言いにくいのでしょう。



「もしかして、他に好きな方がいらっしゃるのかしら?」


 私の質問に、また黙り込む夫。

 このまま沈黙されても困ります。


「正直に話してください。そうでなければ先に進めませんわ」


「……愛している女性がいる。彼女と生涯を共にしたいんだ」


「その方と一緒になりたいから離婚したい、と?」


「ああ……」


 いつもは自信満々の夫が今は弱々しく頷いていますわ。

 こんな姿の夫は見た事がありません。それだけ相手に本気なのでしょうね。少々焼けますわ。ですが彼は解っているのかしら?私と離婚する事のデメリットを。


「それは、私と離婚すれば生じるであろう諸々の問題を理解なさった上での発言でしょうか?」


「ああ……」


「全て覚悟の上と言うのですね」


「ああ……」


 眉を寄せつつも頷く夫。

 ここまで来れば私が折れるしかありませんわね。

 だって、全てを覚悟して一生を供にしたいとまで言っているのですもの。


 相手の女性も承知している事でしょう。私達のを。それを理解しているなら、私に否はありません。


 そもそも私達の結婚は家同士が決めた政略結婚ですものね。



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