第41話 兄弟対決
景虎が持つ有村の技。 無論、メインは剣術と柔術ではあるが……
それは戦闘術だけではない。
ダンジョンで罠を見逃さないように鍛えられた目は、暗闇でも効く。
魔物に奇襲をかけるため、気配を殺す技々。 過酷な地形でも戦い、走り、登るための走行術。
それらは盗賊と言われる専門職業の能力にも近しい。
そして、それらを駆使して挑むのは――――
安土城。
ご存知の通り、織田信長の城である。
戦国後期に作られた城であり、攻められる事を前提としていないため、硬城とは言えない……そんな説もあるが、それは400年前の話。
最新の防御設備に加え、ダンジョンで手に入れる特殊な素材……
大国の軍隊が投入されても、落城は決して容易ではないだろう。
(そのはずでござったが……随分と甘い。もしや罠ではあるまいな?)
手薄な警備をやり過ごし、入り込んだのは宝物庫。 一番、厳重な警備でなければならないはずだが……
「あった……本物か?」と小さく声を出す景虎。 それは目的にも届き――――
「なんと! なんと! これは我が君主であられる有村景虎さまではありませぬか!もはや、もはや、私めを向かいにくれたのでしょうか!!!」
半透明な板に囲まれ、鎖で封印されているのは『日向守惟任』――――王殺しの魔剣であり、明智光秀の魂が封じられている。
「声が大きい! ……でござる」と景虎は抜刀と共に剣を走らせ、光秀を封じる全てを切り裂いた。
「おぉ! 技は冴えわたっておりますな! もしや、新しい刀を……この『日向守惟任』 メラメラと湧き出る嫉妬心を隠せずにいますぞ!」
「いいから、すぐに脱出の準備を……光秀?」
「……いえ、既に敵がいます。あちらをご覧あれ」
光秀が指摘した方向。巌のような男が立っていた。
強烈な威圧感でありながら、景虎に気取られないほどに気配が薄い。
何者か? そんな疑問すら思いつかない……
景虎は、その人物が何者か察することができた。
「宮本武蔵殿……とお見受けいたしました」
宮本武蔵――――剣に生きる者にとって頂点とされる大剣豪。
その人物は、否定も肯定もせずに、「見た」と短く言った。
「……見た? なにを?」と景虎は、何を言われたのかわからなかった。
「新選組、沖田総司との戦い。 お前が使った技」
「……あっ!」
「そう、我が強敵であった佐々木小次郎の技。燕返しを使っているのを見た。それで興味が出た」
「――――ッ!(威圧感が増した。戦うつもりか? 最強が、この拙者と?)」
武蔵から強い感情を向けられる。 それに呼応するように、全身が震え始める。
武者震いだろうか? わからない。 そんな異常な震え。
景虎は、自ら震えを押さえ付ける。 手は日本刀に触れる。
(やる。ここで最強越え……やらせてもらう)
そう覚悟を決めたのだったが――――
「ふっ」と武蔵が笑う。それと同時に放たれていた気が失われた。
「お前と戦いたい。しかし、先約がある――――必ず勝て。勝って我の前に立て」
それだけを言って、武蔵は通路の隅に移動した。 後ろに控えている男に譲ったのだ。
通路を、そして景虎の相手を―――― そして、その男とは――――
「兄上……どうしてここに?」
景虎の目前、現れたのは有村正宗。 景虎の兄だった。
「景虎、剣を抜け。ここで俺に勝ったら免許皆伝だ。異世界でも好きに生きろ」
「有村の技は一子相伝のはず。そもそも、拙者でも極めていない技々があります」
「言わねばわからぬか? 俺を殺せば、自由……という事だ」
「ならば、なぜ――――」と景虎は、それ以上は言えなかった。
彼の口を黙らすために正宗が剣を抜いた。
(ならば、なぜ……兄上は、この刀を手に入れるように仕向けたのでござる?)
それは最後までいう事はできなかった。 景虎も剣を抜き、正宗に向けた。
有村景虎 対 有村正宗
兄弟での死合が開始された。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
(体格差、筋力差……それ以上に技は兄上が上。ならば――――)
景虎は狙いを初動に集中する。
(地力が上である兄上相手に、長引けば、長引くほどに不利は否めない)
その構えは、示現流のそれによく似ていた。 一撃に全てを駆ける捨て身の一撃。
そして、それを景虎は放った。
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