第39話 ドラゴンへの勝利? しかし、その正体は

 ドラゴンの装甲である鱗。景虎の攻撃は、常にその隙間を狙った正確無比の一撃。

 

 それも激しい痛みを伴う箇所に徹底していた。


 ドラゴンにしてみれば、景虎の存在は毒を持つ蜂や蟻のようなもの。だから、すでに戦いから逃げる事を考えていた。


 逃げる? 最強の代名詞であるドラゴンが?


 確かにドラゴンは最強の魔物である。 


 だからこそ、逃げる。強者は弱者を相手に全身全霊をもって戦うことはしない。


 当然だ。 人間の格闘家だってそうであろう?


 何ヵ月も前から肉体を作り上げ、作戦を練り上げていく。それは、少なくとも対等の強者と戦うためのものであり、


 いくら毒を有していたとしても、蜂や蟻と戦うための行為ではない。


 普通は、毒をもった虫に襲われたら逃げる。


 だから、ドラゴンだって逃げる。


 まるで「やってられない」と背後を向いて、逃走の準備に入るドラゴン。 羽へ魔力を……その巨体が浮かび上がるほどの魔力を────


「────待っていたでごるよ。この瞬間を!」


 景虎は、走る。 その先に隠していたのは、小刀以外に持っていた別の武器。


 「ぬぐっ!」と持ち上げる。


 普段、巨大な日本刀を武器にする景虎であっても、持て余すほどの重量感が手に伝わる。


 ドラゴンを見れば、すでに離陸の体勢。


「ここで逃がすわけにはいかないでござろう?」


 ぐるん ぐるん ぐるん……と、まるでハンマー投げの選手のように、金棒を持ったまま体を回転させ始めた。


「十分過ぎるほどに、遠心力が伝わったところで……とりぁあああ!」

 

 その手から放たれた金棒は、野太い風切り音を


 ぶんぶんぶんと鳴らす。


 そして、それは、安定した飛距離と角度によって────

 

 ドラゴンの後頭部に叩き込まれた。


 破壊音。 金属がひしゃげるような音でもあり、ガラスが割れるような音でもあった。


 その巨体が倒れこむ。 よほど、金棒の一撃が強烈だったのか? それとも、宙に舞い上がろうしてる途中の一撃にバランスを崩したのか?


「さて、攻撃の効果は────ありと見た」


 ドラゴンの後頭部から剥がれ落ちているのは鱗。─────いや、正確に言えば剥がれ落ちているわけではなさそうだ。


 よく見れば、まだ残っている周辺の鱗にも亀裂が走り、割れていた。


 彼の一撃は、ドラゴン最大の防具であるはずの鱗ですら破壊して見せたのだ。


 ならば、やはり……ドラゴンは、立ち上がれないほど大きなダメージを受けたのだろう。


「やはり、弱点がない魔物と戦うには、攻撃で弱点を作る作戦に限るでござるな!」


 ちょっと、何を言ってるのか? そんなよくわからない事を言いながら、投げた金棒を取りに走る景虎。


 それが彼の命運を分けた。


 もしも、功を焦るあまり、小刀で斬り込んでいたら?


 きっと、思わぬ形でカウンターをお見舞いされていただろう。


「─────なるほど。さしずめ、隠形術で拙者を欺いていたのでござるか」


 彼の持つ優れた観察眼と経験則は、ドラゴンが隠していたものを見破った。


「どおりで巨体なはずでござるよ。倍の質量……2匹のドラゴンが引っ付いている魔物でござるな」


 景虎の言う通りだった。


 彼が見上げる視線の先。魔力で隠していたであろう頭と首が出現している。


 ドラゴンの正体。それは─────


 二つ首のドラゴン


 ────であった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 視聴者たちのコメントも大盛り上がりを見せていた。


『マジかよ!? 2つ首ドラゴンって、これは現実なのか、ワケわからん!』


『ドラゴンの正体が2つ首ってどういうこと?! 怖すぎなんですけど!』


『確かに怖すぎる!もしかして2つ首って、まさかの超高難易度ボスじゃねぇの?!?!』


『巨大ドラゴンかと思ったけど、ハイドラじゃねぇかwww ……ハイドラって頭が複数あるドラゴンで合ってる?』


『これからどうやって2つ首のドラゴンに立ち向かうんだろ?』


『流石に草生えるわ。2つ首のドラゴンが出てきた瞬間に笑いが止まらんってw』


 これらの流れて来るコメント。しかし、妙な事に笑いすら起きている。


 どう見ても、絶体絶命の局面。 視聴者は景虎が殺される場面を楽しみにしているのだろうか?


 ――――否。


 そう、断じて否である。……お気づきであろうか?


 誰も景虎が負けるとは思っていないのだ。

 

 彼等は知っている。 有村景虎という男は、いつだって視聴者の想像を超えた戦い方を見せ、強敵を相手に勝ち続けている事を。

 

 だから、彼等は――――景虎の戦いを見続けてきた視聴者たちは、景虎が勝つ事を信じきっているのだ。

 

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