天界神書〜最強の神、弟子と共に世界を変える〜

桃 璃香

序編

序-1〜最強の神、不測の事態を知る〜

柏麟ハクリン上帝じょうてい〜! お目覚めくださいよ〜!!!」

 星命セイメイは、高くきらびやかな黄金の古建築の楼を目の前に、冷や汗を流し、声を荒げる。

 青紫に染まった衣の袖がくしゃくしゃになっているが、それどころではない。


(早く、あるじにお伝えしなければ...)


 ここは、天庭殿てんていでんと呼ばれる、神々が住む世界 (天界)の一部。あの最強の神、柏麟ハクリンの神殿である。

 今ここは、あるじの修行のため、従者である星命セイメイ以外の立ち入りを禁止し、固く閉ざされている。


 この宇宙での神の役目は、三界【神々の世界(天界てんかい)、人々の世界(下界げかい)、妖の世界(山海界せんがいかい)】が安定して存続するように調整することである。

 上帝じょうていは、そのための司令塔として存在している。

 よく「三大上帝さんだいじょうてい」と称され、柏麟ハクリンだけではなく他の神も名を連ねている。

 柏麟ハクリンは、十年後の未来を完璧に読み通し、上帝じょうていとしての仕事をたった3ヶ月で行っている。柏麟ハクリンが上帝になったこの千年間、一度も読みは外れたことはなく、三界は平和である。


 星命セイメイが叫んでしばらく経ったが、何も起こる気配がない。



「...しかし...これは、どうしても...」

 

「主はそんなこと、気にするお方ではない」

(人間時代も合わせて、千六百年も一緒なんだぞ!!)

(何を今更...)


「うううう!! やってしまえ!!」

天雷テンライ!」


 上空は、雲に覆われ辺りを暗くする。

 そこに、巨大な青い閃光が描かれ、辺りの雲を照らしたかと思えば、一瞬にして巨大な建物に向かい、大地を揺さぶるほどの音を響かせる。

 楼の上半分程はひびが入り、崩れようとしている。


(やってしまった...)


 大きな破片が星命セイメイの真上に落ちようとしている。それに気づいた星命セイメイは、一歩下がり両手を正面に広げてそれを抱こうとする。

 その物が、星命セイメイの腕に触れた途端、粉々になって下に落ちる。


「うえ〜ん」

 星命セイメイは、子供のように泣きじゃくる。


 するとゴロゴロと次々に、崩れ落ちる。

「うえ〜ん。あるじ様の神殿が〜」


 ゴロッと落ちてきた一つを堺に、倒壊の雨は止んだ。

 星命セイメイは、泣くのをやめた。

 すると、崩れかけていた裂け目からまばゆい光が徐々に拡散し、雲をのけて光が増す。それをたどり周りの花々が咲き、穏やかで明るい空気に戻った。

 すると、輝く神々しい光をまとった者が星命セイメイの目の前にフワっと姿を現した。


 星命は、ふっと胸を撫で下ろし、

あるじ様! お目覚めになったのですね」


 眩しさが和らぎ、見えてきたのは、つやのある女のように長い白髪はくはつをまとった美形紳士の姿である。金色の羽衣を身にまとい、柏麟ハクリンの神格さを際立たせる。


星命セイメイ。何かあったのだな」

(十年ほど未来までのすべての政策はしたはずだ。何に不備があったのだ)


 星命セイメイは、散らばった破片を見て、涙目になりながら、

「いったい、これはどうすればいいんですか〜」


星命セイメイ。そんなことは心配しなくてよい」

仙術せんじゅつでやれば、一気に直せるだろう」

「後で、他の神に直すよう手配しておく」 


 『気』とは、すべての生命の力となる目に見えない物質である。

 仙術せんじゅつとは、仙人や神々などが行う神通力じんつうりきであり、『気』を練り上げて、効力を及ぼす。


 星命セイメイは、「あっ、その手があったか」と、拳の小指側で手のひらに軽く打ち付ける。


 柏麟ハクリンは、険しい顔をして、

「そなたが、ここまで派手にやるとは...それほど、状況が悪いということか...」

「詳しく教えてほしい」


 すると、星命セイメイは顔の表情を変えて、

柏麟ハクリン上帝じょうてい星辰太陣せいしんたいじんの星々が、点滅しております」


 星辰太陣せいしんたいじんとは、人々の命と人々のつながりを星々で表した空間のことだ。

 それらが点滅しているということは、人々の没落を意味する。


(それについては、星辰太陣せいしんたいじんを直す神器を作ったはずだが…。もしや…)


「あの神器を何度も使いましたが、変わる様子はありませんでした」

「そこで仙術せんじゅつで、下界の未来の様子を見たところ、赤黒い邪気に地球が丸ごと覆われていく様子が映し出されました」


「ほう」

 柏麟ハクリンは、あごを触りながら、瞬時に思考を巡らせ、険しい表情になる。

(はっ!! しまった...下界のことを見逃していた...)


「すまぬ、吾が見逃していたことがあった。その下界の詳しい様子を見せてくれ!! 今すぐ、星辰太陣せいしんたいじんに行かせてもらう」


「承知いたしました」

 星命セイメイは、姿勢を真っ直ぐにする。


 すると、二神は煙のようなものをまとい、火矢が放たれた如く立ち去った。

==========

注釈(辞書を引けば出てくる語句)

楼殿: 高く造った殿舎。高い建物。

仙人:俗界を離れて山中に住み、不老不死で、 飛翔できるなどの神通力をもつといわれる人。

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