第27話 恋愛? そんな事より友情だ。
昨日は散々な目にあった。
二人して俺に色々言ってくるんだもんなぁ。
恋愛に興味無くす前は女子の体をちょっと見る癖はあったかもしれないが、減るもんじゃないんだし良いじゃないか。
「なにはともあれ、右京さんが言いふらす人じゃなくて良かったと思うしかないな。」
バレそうになっても協力してくれるらしいし。
あんな素晴らしい娘はなかなかいない。
もし彼氏が出来たら泣かされないよう、俺とミイちゃんが見定めてやる事にしよう。
「武太先輩っ!」
「ん? あぁ、莉々伊ちゃんか。」
「はい! あなたの莉々伊ですよ。今日も凄まじい勢い駅で待ち伏せしちゃいました。」
せめて偶然って言えば良いのに、なぜ待ち伏せした事をわざわざ言うのか。
「独り言なんてどうしたんですか?」
「気にしなくても良いよ。いつもの事だから。」
これ以上ミイちゃんの事がバレてはいけないので、適当に誤魔化した。
「独り言がいつもの事だったらそれはそれで心配なんですが……。」
うっ……この娘の言う通りだ。
「冗談だって。それより莉々伊ちゃん、錬蔵はどうしたの?」
「はい。今日も彼女さんの家に捨ててきました。」
華やぐ様な笑顔で答える莉々伊ちゃんだが、昨日に引き続き家の前に彼氏が捨てられている光景を目撃してしまったのだとしたら、彼女である零子ちゃんはどんな気持ちでいるのだろうか。
もはや事件だろ。
「人様の家に兄を捨てたらダメだと思うよ?」
「言われてみればその通りです。」
俺の言葉にハッとした表情を作り、神妙な面持ちで言葉を紡ぐ彼女はやはり基本的に素直で良い娘ではあるのだろう。
「玄関先の郵便受けに詰めとくんでした。扉を開けたらいきなりお兄ちゃんが捨てられてたら邪魔ですもんね。」
違う。そういう事じゃない。
更に猟奇的な提案をするな。
「武太先輩は色々と教えてくれて本当に頼りになりますね!」
「は、はは……そうかな?」
「はい!」
んな当たり前の事で頼りにされても嬉しくないんだよなぁ。
そもそも錬蔵はサイズ的に郵便受けに入らんだろが。
「すぐに錬蔵を狭い場所に詰め込もうとするのは良くないんじゃない?」
良し! 言ってやったぞ。
まだ付き合いは浅いが、莉々伊ちゃんがこのくらいでは怒らないってのは段々理解してきた。
この機会に少しずつ良い方向に持っていければ……。
「でも、それだとお兄ちゃんが邪魔じゃありませんか?」
「大丈夫だ。案外あれで錬蔵は周りに好かれているからな。」
「意外です。蛇蝎の如く嫌われ、常に石を投げられている根暗陰キャ野郎だと思ってました。」
そこまで言う事なくない?
根暗陰キャだとしても、普通石までは投げられないって。
「妹からは見えてない部分があるって事さ。あいつはあれで良い奴だ。後、根暗陰キャでもないぞ。」
本人には絶対言わないけどな。調子乗るから。
「私にとっては凄く邪魔でも、他の人にとってはそうじゃない場合もあるんですね。目から鱗です。」
どんだけ邪魔だと思ってんだよ。
いや、全く理解出来ない訳じゃないけどさ。
「最近は彼女も出来たし、邪魔して来ないんじゃないか?」
「そうですね。以前程は干渉されなくなりました。このまま過干渉がなくなって、いずれは永久に顔を合わせなくても良いか……なんて想像すると嬉しいです。」
「そ、そっか。」
「はい。」
永久に会わないつもりだったのかよ。錬蔵の奴、妹に嫌われ過ぎ。
少しだけフォローしとくか。
「莉々伊ちゃんは美少女だから心配なんだろ。錬蔵が居なかったら悪い男に騙されてた、なんて事もあるかもしれないよ?」
「うーん……。でも、全部を邪魔する必要はないじゃないですか。」
「まぁ、ね。」
「今は彼女がいるので大丈夫ですが、そのうち別れて私に執着されそうで嫌なんですよ。」
あ、あぁ。その可能性もあったか。
零子ちゃんがどういうつもりで付き合っているのか聞いてないから、正直ちゃんと付き合えているかとか全然分からないんだよな。
「だったらさ。兄の恋を応援してみるとかどうかな? 勿論通常の方法で。」
「成る程。死が二人を分かつまで切れない絆を私がお膳立てして作り上げれば良いんですね?」
言ってない。全然そこまでは言ってない。
むしろどうすればそんな絆を作り出す事が出来るというのか。
「ふ、ふつうの方法で良いんじゃないか?」
「人様を巻き込むんですから、勿論問題のない方法を選択しますよ。」
「ほどほどにね。」
「はい。武太先輩のアドバイスは為になります。彼氏としてだけじゃなく、アドバイザーとしても優秀な方なんですね。」
「そ、そう? 初めて言われたよ。」
「あっ。さては信じてませんね? 本当ですから。」
すまん。全く信じてない。
実際大した事は言えてないから。
俺の言葉からいちいちぶっ飛んだ解を導き出す莉々伊ちゃんにこそ、大変驚愕しているくらいだ。
「では私は一年の教室に向かいますので。それでは。」
「あぁ。またね。」
嬉しそうにスキップで去って行く彼女は、相変わらずガワだけは美少女だった。
「おはよう雷人。錬蔵は来てるか?」
「おはよう恋梨。錬蔵はまだだぞ。」
だと思った。
零子ちゃんの家の前に捨てられているのなら、また遅刻だろう。
というか、昨日は零子ちゃんも遅刻していたのだろうか?
「雷人。俺が余計な事を言ってしまったばかりに、錬蔵が苦境に立たされるかもしれないんだ。だが俺は奴に謝りたくない。」
「お、おう。」
イケメンはたじろいでもイケメンなんだな。
「そこでだ。誰かが謝っていたとだけ伝えてくれると助かる。出来れば卒業式の日に。」
「すまん。全然意味が分からない。」
「分からなくても良いんだ。錬蔵はギャルゲーで言うところのモテる主人公と対比される当て馬だ。親友ポジションだ。モブにすら雑に扱われがちなお笑いキャラだ。」
「……気の毒だが否定はしない。」
雷人もそういう空気は感じ取っていたのだろう。
正直自分でもどうかと思う俺の発言に、一切反論してくる様子がない。
「だから奴が少しでも報われる為に、モブではない雷人が伝えてやる必要がある。あいつが救われる為なんだ。」
「要約すると、面と向かっては謝り難いから、俺が代わりに伝えるって事だな?」
見抜かれてしまったか。
流石は聖光院雷人。
主人公っぽい名前とスペックの持ち主なだけはある。
「別に構わないけどさ、自分で言った方がよくないか?」
「Need not to say.」
「そ、それは……直訳で『言う必要がない』まさか……あの?」
「あぁ。そのまさかだ。」
流石は雷人。
真剣な表情で俺に頷き返す姿を見れば、どうやら完全に事情を理解しているであろう事が伺える。
「別に意味なんてない……って事か。」
「良く分かったな。」
俺の友人はノリが良くて助かる。
やはり恋愛より友情だな。
「ほんと大した事じゃないんだ。多分、錬蔵と莉々伊ちゃんっていつもあんな感じなんだろ? ちょっと俺が余計な知恵を莉々伊ちゃんに授けてしまっただけの話さ。」
「そういう事か。だったら気にする事ないぞ。莉々伊ちゃんは誰の意見に対しても流石ですって言いながら、斜め上方向の発案をする娘なんだ。錬蔵が害されたとしても、それは誰の責任でもない。」
なんと。莉々伊ちゃんはトラブル製造系全肯定ヒロインだったのか。
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