第22話 恋愛? 清楚さも大事。

 俺は今、ミイちゃんのマンションに来ている。



「おぉ。マジでオートロック付きのマンションだ。」



 来客用のインターホンにミイちゃんから聞いていた部屋番号を入力し、呼び出しボタンを押す。



「お、繋がった。」



 操作は初めてだけど、簡単だし住人との通話も出来るみたいだな。


 これは便利だ。一人暮らしする物件選びの参考にしたい。



「あっオレオレ、オレだけど。金が無くてヤバイんだよ。本当にどうしようか困ってて……。」


『開けたから入ってきてー。』


「……。」



 確かにつまらんギャグだったけどさ。


 スルーは酷くない?





「お邪魔します。」


「いらっしゃーい。」



 ミイちゃんは俺を出迎えてくれ、ピアノがある部屋へと通してくれた。



「マジでピアノがある……。」


「ピアノ教えるって言ったじゃん。信じてなかったの?」


「あー……別に信じてなかったわけじゃないんだけど、普段の様子からじゃイメージが湧かなくて。」


「ええ? 酷くない?」



 心外だと言わんばかりにジトっと俺を見る童顔巨乳24歳美人教師。



「似合わないとかって意味じゃないんだけど、想像出来なくてさ。」



 そう、普段の俺への接し方からイメージが出来ないだけなのだ。


 要するに、日頃の行いは大事って事。



「まぁ良いけどね? 早速レッスンしようか。」


「あ、一応真面目にやるんだ。」


「勿論よ。むっくんが希望するなら保健体育実技でも良いけど?」


 そう言って、やけに熱のこもった視線を俺に向けるミイちゃん。



「それは遠慮しておきます。」



 実技ってなんだよ。


 いたいけな男子高校生が興奮してしまったらどうすんだ全く。



「遠慮する事ないのに。あんまり消極的だと、いざって時に困るよ?」


「そのいざ、は今じゃないよね。」


「いざ!」



 なにやらヘニャリとした構えで俺に相対するミイちゃん。


 この人、本当に大人なのだろうか?



「変な事言ってないで、レッスンするよ。」


「むっくんってばノリ悪いなぁ……。」


「ミイちゃんが変な事ばかり言うからじゃん。ピアノレッスンだって発案はミイちゃんでしょ。」


「そうだけどさー……あっ、パンツ見る?」


「見た……ない。」


「え? それどっち?」



 突然なにを言い出すのだろう。


 唐突過ぎて、思わず本音が出かけてしまったじゃないか。



「この前むっくんの家にお邪魔した時さ、ガン見してたよね? また見たいかなって思ったんだけど。」



 どうやらバレていたらしい。


 こっそり見ていたのに、どうしてバレたんだろう。



「気のせいじゃない?」


「気のせいじゃない。むっくんが私のパンツを凝視していた姿がしっかり鏡越しに見えてたよ?」



 成る程。


 家に帰ったら部屋中の鏡を全て撤去しておこう。



「ところでさ、ピアノってどのくらいで弾けるようになる? 結構難しい?」


「話題の逸らし方が強引だね……。まぁ個人差もかなりあるから単純にどの程度の期間でってのは言えないけど、初級レベルなら半年から一年くらいが目安じゃないかな。」


「へぇ……卒業までには両手で弾けるかもしれないって事?」


「そうそう。毎日家来ればもっと早く上達するよ?」


「毎日は遠慮しておきます。」


「遠慮しないでよ。ピアノだけじゃなくてさ、私という楽器を欲望のままに鳴らしてくれても良いんだよ?」



 なんてお下劣なんだろうか。



「ピアノの先生って、もっと清楚な感じだと思ってたのに……。」


「え? 私、清楚じゃない?」


「……清楚だよ。」



 見た目だけはね。



「良かったぁ。むっくんに褒めて貰えたことだし、レッスンしよっか。」





 ミイちゃんの教え方は思いの外上手だった。


 まだ初日という事もあっていきなり弾けるようにとは勿論いかないが、ピアノレッスンそのものが楽しく、悔しい事に毎日来たいと思ってしまった。



「上達するの早いね。」


「いやいや、ミイちゃんの教え方が上手いんだって。」


「結構才能あるんじゃない?」



 そう言われてしまうと悪い気はしない。



「本格的にやってみない? 毎日練習したらかなり弾けるようになると思うよ?」


「確かに楽しかったけど、毎日はちょっと。」


「あっ……下心とかは少ししかないから安心してね?」



 少しはあるのかよ。


 全然安心出来ないじゃん。


 でも毎日ってのはともかく、週何回かはピアノレッスンをしても良いかもしれないと思える程度にはやる気が出たのも事実だ。



「考えておく。」


「うんうん。弾けるようになったら一緒に連弾したいしね。」


「連弾かぁ。」



 楽しそうだな。



「お互いの体を楽器に見立てて連弾しても良いよね?」



 良いよね? じゃねぇよ。


 マジでなに言っちゃってんの?


 このピアノ講師、ピアノを冒涜し過ぎだろ。



「一度下ネタから離れて下さい。」


「照れてるの?」


「照れてるっていうか、若干引いてる。」


「あれ? おかしいなぁ。男子高校生は三度の飯より下ネタ好きで、四六時中性の事しか頭にないムフフなチャンスがあればすぐに飛びつく生き物だ……って本に書いてあったんだけど。」



 100%違うとは言い切れんが、いくらなんでもそこまでじゃないと思う。


 果たして、どのような本を参考にしたのだろうか。



「その本は大いに誇張されてると思う。」


「そっかぁ……知らなかったとは言えごめんね? 下ネタは少し控えようかな。むっくんの好みに合わせようと頑張ったんだけど、違ったみたいだね。」



 俺の好みに合わせようとしてくれた事自体は純粋に有難いと思うべきなんだろうが、その結果が下ネタのオンパレードって事なの?


 ミイちゃんは俺を一体なんだと思ってるんだろうか。


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