第3話 恋愛? というか、それ脅迫ですよね。

 それにしても、ギャル語って面白いよなぁ。フロリダって言えば、面倒くさい連絡もブッチ出来るし。


 風呂入るから離脱する=フロリダって考えた奴は天才だな。俺にもその才能分けてくれよ。


 てか、カワイコちゃん先生連絡し過ぎ。昨日の夜は無駄に疲れて早寝しちゃったじゃん。


 お蔭で早起きしちゃってやる事もないから学校に来る時間が早まってしまった。



「恋梨君。」


「はいはい……ってわぁぁぁぁ!」



 カワイコちゃん先生? 何でこんな朝早くから教室に居るん?



「LIME五通でフロリダは酷くない? そんなに何時間もお風呂入らないでしょ?」


「入りますよ。一日朝晩二回、一時間半くらいは入ります。」


「微妙にリアルな嘘つかないで。」



 何で嘘だと分かったんだろう。



「朝お風呂入った匂いしてないよ?」


「匂い嗅がないでもらえます?」



 鼻をヒクヒクさせながらとんでもない事を言い出す女教師。


 結構グイグイ来るなぁ。チョロインなんてドラマやアニメの話、っていうセリフはどこに行ったんだ?


 鈍感体質ってワケじゃないから、こうまで食いつかれると先生の気持ちに察しはつく。


 もうド直球に聞いてしまおう。そして断ろう。



「先生は俺と付き合いたいんですか?」


「卒業したらね。」


「恋愛に興味ないんですけど。」


「興味を取り戻す為に一緒に頑張ろうって言ったじゃん。」


「余計なお世話です。」


「言う事聞かないと英語の成績下げるわよ?」



 何だと!? それ、教師が言っちゃいけない発言ベスト5に入らない?



「脅しですか?」


「脅しじゃないわ。私はやると言ったらやる女。」



 なんて教師だ……。昨日、先生を尊敬してしまった俺の気持ちを返して欲しい。出来れば円で。



「覚えておいて、今の君は病気に近い状態なの。だから先生は泥を被ってでも必死になって恋愛指導してるのよ。」



 良い人だ。俺と恋愛したいという下心さえなければの話だが。


 でも不思議と悪い気はしない。恋愛感情はなくても、人として好感を持っているという事だろうか?



「ちゃんと連絡はしてよね。昨日だって、私からLIMEしなかったらそのまま知らないフリするつもりだったでしょ?」



 何で分かるの? やっぱりエスパー?



「その点に関しましては厳正なる調査を行いましてですね……えぇ、結果が分かり次第お伝え致しますので。」


「なにを政治家みたいな事言ってるの。君にはそんな大人になって欲しくありません。」



 先生みたいな大人もどうかと思うけどね。



「そろそろ他の生徒も来る時間だから、それじゃあね?」


「はい。」










「なぁ恋梨、お前何かやらかしたのか?」


「なにがだ?」



 俺に話しかけて来るのは友人の聖光院雷人。去年も同じクラスだった友人だ。主人公みたいな名前のこいつは、俺が恋愛に興味を無くす原因の一因でもあった。


 こいつはそこそこモテる奴なんだが、俺が少しでも良いと思った女の子の一部は雷人を好きだったりする。先回りでもしてんの?



「お前、カワイコちゃん先生に当てられまくってただろ。」


「特に何もしてないぞ。俺の事好きなんじゃね?」


「それは無い。本当の事を言え! 何かやっただろ?」



 本当なんだけどなぁ。


 まぁ、信じられないか。



「進路指導で適当な事を言ったからかもしれん。」


「そういう事か。ふざけるのも大概にしとかないと、また呼びだされるぞ?」


「へいへい。」



 別にふざけてはいないんだがな……。


 大人になったらお金払って性処理するって言っただけで。



「それよりも、やっと受業終わったんだし偶には女の子誘ってカラオケでもしないか?」



 女の子はいらないけどカラオケはしたい。



「いいぞ。」


「良し! 任せとけって。お前に彼女が出来るよう俺も協力するからな!」



 雷人。お前は良い奴だが、付いてくる娘は多分お前目当てで俺の協力にはならんぞ?


 どっちでも良いが……。


 雷人は早速女子を誘いに行ってしまった。



「カラオケ行くの? 私も行きたいな。」



 右隣の席に座る右京さんから声がかかる。ちょっとギャルっぽいけど、素直で可愛い娘だ。


 どうせいつもの通り、仲良くなる頃には特定の相手が出来るだろうと思い、当たり障りなく接していたお隣さんでもある。



「良いんじゃない? 雷人だって右京さんが来れば喜ぶだろうし。」


「恋梨君、雰囲気変わった? 何か余裕みたいなものを感じるよ?」



 俺は生まれた時からずっと俺のままだ。



「そう? いつも通りなんだけど。」


「絶対変わったって! いつもだったら女子相手に照れっていうか、遠慮みたいなものがあったじゃん。」



 あぁ。それは恋愛に興味無くなったからだな。


 どうやら見る人が見れば違いが分かるらしい。お隣さんは違いの分かる女という事か。



「そうやって堂々としてる方が絶対良いよ。少しクールっぽい所も良い。そうゆうのが好きな女子にはウケルよ!」



 特に女子ウケを狙ってはいない。でも、褒められて悪い気はしないな。



「右京さんは恥ずかしがらずにそう言える所が良い所だよね。」


「え? えぇ?」



 目を丸くして驚きをあらわにする右京さんからは、突然の事に焦っているような雰囲気を感じる。



「どうしたの? 可愛い顔して?」


「か、かわ……。」



 何だ? 反応が悪いな。本当の事しか言ってないぞ?



「カラオケ行くんだろ? 雷人に教えて来ようぜ。」


「……う、うん。」



 返事はするが、その場から動こうとしない彼女に席を立つよう促す。



「行くよ。」


「う、うん。」



 どうした? うん製造機にでもなったの?


 俺が右京さんをメンバーに加えている間、雷人はほんの2、3分で女子を2人集めていたらしい。



「お前すげぇな。」


「恋梨の為ならこの程度、どうって事ないぜ?」



 笑顔が輝いている。


 マジで良い奴だな。もしこいつが借金取りに追われるような事があったら、3万円くらいは貸してやろう。



「二組の越後屋智世です。よろしく。」



 悪い事してそうな名前だな。でも可愛いから許されるのだろう。



「一組の御前零子よ…………って武太君じゃない。」



 あれ? 零子ちゃんだ。



「知り合いだったのか?」


「まぁ、家が近所でな。小さい頃にお風呂も一緒に入った事がある仲だ。」


「ちょっ! 恥ずかしいから!」



 恥ずかしいも何も事実じゃん。



「あー……幼馴染って事か?」


「そうだな。幼馴染ってやつだ。」



 零子ちゃんは中学時代、いつの間にか彼氏が出来ていたので自然と距離を取ったのだ。



「武太君ってば、急に遊んでくれなくなってさぁ。」


「そうなの? 零子に幼馴染って初耳なんだけど。」


「智世には言ってなかったわね。」



 智世さんと零子ちゃんは友達みたいだな。



「零子ちゃんの彼氏に悪いと思って距離を置いたんだ。自分の彼女に二人きりで遊ぶ男がいたら彼氏も嫌だろ?」


「そういう事か、納得。」



 納得してもらえたようだ。これで納得しなかったら頭オカシイけどな。



「右京雅代子です。よろしくね。」


「右京さんとは三年生になってからずっと隣の席で、それ以来の付き合いなんだ。」


「三年生になったのは二週間前じゃん。」



 流石ギャル。良いツッコミだ。


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