綴れ刺せ 今は昔の 冬支度

つづせ 今は昔の 冬支度ふゆじたく



 季語は冬支度、季節は秋。

 冬支度とは冬を迎える準備をすることで、冬が始まる前に済ませる必要がある。だから、冬という言葉は入っているが、季節としては晩秋となる。

 テーマとなる虫はツヅレサセコオロギ(直翅目コオロギ科)。



 街なかでも、秋になればコオロギの声は聞こえてくる。ある程度広い公園だけではなく、空き地や人家の庭、あるいは家と家の間で少し草が生えているようなところにもいる。

 都市部にもいるコオロギには、エンマコオロギやオカメコオロギの仲間など何種類かいるが、一番遅い時季まで鳴いているのはこのツヅレサセコオロギだろう。

 その鳴き声は『リ、リ、リ、リ、リ、リ、リ、リ……』というように、短い音を同じ間隔で抑揚もなく延々と繰り返すものだ。もともとゆっくりとした声だが、秋が深まり気温が下がると、さらに遅くなる。


 昔の人はこの声を、『すそ刺せ、そで刺せ、つづれ刺せ』と聞き、冬に備えて服をって直せと解釈していた。それが今でも本種の和名に残っている。


 鳥の世界では聞きなしというものかあって、例えばホトトギスの声を『天辺てっぺんかけたか』とか『特許許可局』という意味のある言葉に当てはめて聞くものだ。


 ネットで見ると、ツヅレサセコオロギの声もこの聞きなしとしているサイトが見られるが、単調すぎて聞きなしとは言えないような気がする。

 ただ、他の虫たちの声が消え、この虫の声だけが聞こえるようになると、冬支度が必要、ということなのかもしれない。



 そんな光景も、今は昔。


 冬にも環境調査の仕事はあるが、装備はユニク◯のヒートテッ◯と釣具店で売っている防寒具である。調査の声がかかればしまってあった装備を引っ張り出し、不備があれば新しいものを買いに行く。


 その頃にはもう、ツヅレサセコオロギの声もすっかり聞こえなくなっている。

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